第20話 高機動車? 教導宝珠?
マギさんに「しばらくは魔力操作に違和感があるかもしれない」と言われたけどそこはなんとかするしかない。
「ティーロくん、そろそろいいかい? 早めに移動しないと追手が来るかもしれない。」
壁から顔は出さずにこちらに声をかけてくれるルイさんはほんと気遣いのできるイケメンさんだよ。
「少しだけ魔法を試してから移動します。それと、もうこっちへ出てきて大丈夫ですよ。」
フィオさんの暴発を考慮してかなり頑丈に作った壁は無傷。ちょうどいいから的にするか。
「よし、これくらいでいいかな。」
「驚いたわぁ〜、この短時間で〜もう調整できたの〜?」
あ、落ち着いたらマギさんの口調が戻ってる。こういうことは言わないのが花だよね。
「はい、出力を下げるだけなのでなんとかですね。逆に上げる方が難しいかもしれません、主にやりすぎないかって意味で。」
「そうねぇ〜、そこは少しずつ上のものを使うといいわ〜。でもなんで〜ゴーレムの魔法なんて使ったのぉ〜?」
壁を的にした攻撃魔法の確認は思ったよりすんなりできた。最初は普段の1/10を意識して、そこから調整しただけ。まさか2メートルくらいで使っている“ヴラド”の串が10メートルまで伸びたのには驚いたけどな。これならモンスター相手でも使えそうだな。
「細かい魔力操作にはゴーレムがいいかと思ったんですよ。それにこのあと使いますから。」
魔力操作の確認にゴーレムを作ったのはちゃんと理由がある。1つはいくら敵対したからってその遺体を野ざらしにしておくのは日本人としてちょっと…ね。彼ら兵士は命令されて行動してたわけだし彼らに恨みはない。なら埋葬までの余力はないにしてもきちんと並べてやるくらいは片手間にでもしたいと思ったんだ。このためだけに動いてやる義理まではないから魔力とゴーレムの確認をする片手間に。
もう1つは馬車を町に置いてきた俺達は足をどうにかしないといけない。フィオさんの意識もまだ戻ってないし抱えるなり背負うなりして歩くのは俺は構わないけど本人が後で気にしそうだしね。
というわけでいっちょやりますか!
このメンバーになら手の内を見せても大丈夫だし、これくらいはいいよな。
「さーて、こうして、こうして、こうなって、“クリエイトゴーレム”!」
「「「「はぁ!?」」」」
「おいおいおいおい! なんじゃこれは!?」
「見たことない箱だねぇ、車輪があるってことはこれは荷車なのかい…?」
「ティーロくん… どれだけの魔力操作能力なんだ…」
「こんなゴーレムは初めて見たわ…」
じいちゃん、ばあちゃん、ルイさん、マギさん、みんな驚いてるね、それは当たり前といえば当たり前か。俺が作ったゴーレムは長さ5メートル、幅2メートル、高さ2メートルの言ってしまえば車輪付きの箱。こっちの世界だと「荷車?」と感じるかもしれないけど向こうだとみんな気づくと思う、「軍用車?」ってね。
モデルは自衛隊の高機動車。フィオさんを寝かせたままこの人数が乗れることと走破性を考えるとこれしか思いつかなかったんだよ。あっちではじいちゃんにエンジンのオーバーホール程度は仕込まれてるからこれくらいはね。ゴーレムだからエンジンはいらないし足回りもそういう作りにすればいい。内外装さえわかれば再現できるってとんでもないよな…
エンジンで作ったエネルギーを車輪に送り、走る。その構造を理解した上でゴーレムで再現するように魔法を発動させるとありがたいことに燃料不要のエンジンとしてできたみたいだ。恐ろしいのはピストンなんかは存在せずエンジンのサイズの箱があるだけで車輪に繋がるシャフトも存在しない。こいつをバラしてこちらで車を作ることは不可能になっている。
そういうところがほんと魔法の世界だよ。
「あ…」
「どうしたの〜?」
「新規魔法として登録されたみたい。」
「あらぁ〜、何個めかしら〜。おめでとぉ〜。」
魔法のあるこの世界でも、いいのか悪いのかひとの想像力っていうのは限界がある。どんな魔法を使いたいのかっていうのはある程度共通するんだ。そうなると新規魔法の研究というのが難しい。なにせ必要なものはひと通り作られているから。そこでこの世界のカミサマは考えて与えた、新しい魔法を作る価値を。
新規魔法の開発者はその魔法での消費魔力を半減。魔法を使う戦闘職にとってこれほど魅力的なものはなく、研究者としても実験の効率が上がるため喜ばないわけがない。
だがそこはカミサマ、それだけでは済ませずもっと現世利益的なものもある。
教導宝珠。使用するとその魔法を覚えることができるアイテム。通常は神殿が作成し、各種ギルドへ卸し販売させるが新規魔法を開発した者はこれを作成する権利を与えられる。
教導宝珠は単価が高いのでなかなか売れないがその魔法を作った者が死ぬまでは本人しか作成できないので売れるものを作ればかなりの資産になる。また、魔法を封じ込めることで起動するだけで魔法を撃てるアイテムであるスクロールという物もある。
スクロールを作るには封じ込める魔法1発ぶんとスクロール作成のための魔力が必要だが、自分で開発した魔法ならこの1発ぶんが半減される。
こうして新規魔法の開発は活発になったんだが、そんなほいほいとできるものではなくここ数年は停滞気味らしい。俺は“ヴラド”、今作った“高機動車”ほかにもいくつか作ったが俺のオリジナル魔法は今のところ広めたくないかな。
「というわけでみんな乗ってくれ、馬車は操れないけどこれなら運転できるから。運転覚えたいひといる?」
こいつは出せても時速100キロくらい。馬車と比べればかなり早いが運転手が俺1人でっていうのもね。
「ティーロく〜ん、ゴーレムっていうのは〜術者以外の命令は〜受け付けないのよ〜?」
「そこはちゃんと対策してあるよ。」
アクセル、ブレーキ、ハンドル、シフトノブ。オートマ車準拠でシフトも「前進」「停車」「後進」の3種類。
これなら少し乗ればすぐ覚えられると思う。ウインカー? そんなのあっても仕方ないよ。
クラクションとライトの類なんかもあるけどそれは今教えても覚えきれないだろうから割愛する。
術者以外が運転するために鍵の概念を組み込んである。エンジンをかける要領で魔力を流さないと始動しないし、運転者を登録できるようにした。エンジン始動のときだけの確認だとエンジンを始動して交代もできるからそれを回避するためにハンドルで運転者の魔力を確認するように細工してある。
「これはいいのぉ! まずはわしが教えてもらっていいかの?」
「いいよ、ばあちゃんとマギさんはフィオさんについててほしかったからちょうどいいよ。」
座席は前に運転席と助手席、後ろは内側の壁沿い中央向きに両側4席ずつで中央は広く空間が取ってある。本来はここに武器なんかを置くんだろうけど今はフィオさんを寝かせてる。
「それじゃ、通商連合に向かって出発しようか。じいちゃんはこっちの席ね、ルイさんは後ろの席で警戒をよろしく。」
作者です
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