第21話 その夜…



「なるほどの… 輪っかで方向を決めて、左右の踏み板で動くか止まるかを命令、この棒で前進と後進に停止を決めるのか。マギよ、この魔法はどれくらい難しいんじゃ?」

「そうねぇ〜、指示系統だけなら〜Dランクでも再現できると思うけど〜… 教導宝珠で覚えるにしてもぉ〜Bランク以上になると思うわぁ〜。外装の強度とぉ〜車輪からの揺れを減らすところとぉ〜使用者制限のところが〜かなり複雑なのよぉ〜。」

「じゃろうなぁ、鍛冶で作れるか考えてみたがはんどる?としふと?、あとは踏み板のところはできても他はさっぱりじゃな。回転運動だけするゴーレムをもらえたらできるかと思ったがそれぞれを繋ぐことができんわい。」


 じいちゃんとマギさんが技術交流してる。2人ともさすがだね。しばらく走ってるだけでしっかり解析したたみたいだ。教えてもいいけどそうなると産業革命が起こりそうだから控える。少なくともこの国には落としたくないね。




 そろそろいいかな、あまり時間は走ってないけど馬車換算で何日ぶんも進んだはずだから今日はここで野営にしよう。


「今日はここまでにするよ。女性はこの中で、男性は外でテントね。見張りは俺がするからみんなは休んで。明日は移動中に寝かせてもらうからそれでいいかな?」

「じゃな、とりあえず明日の午前くらいはわしが運動して指導してもらえるか?」

「そのつもりだよ。」


 夕食はアイテムボックスに入れてある作り置きのスープとパンで済ませてもらう。テントも売れるほど持ってるからじいちゃんとルイさんには1つずつ使ってもらってる。これまで経由した町で個人的に色々と仕入れておいて良かったよ。


 明日の運転はじいちゃんに任せて寝る。いや寝れるかな…




「はぁ…」


 やっちまったな… 必要だったとはいえくるものがある…


「ティーロくん…」


 え? みんなもう寝たはずじゃ…?


「ごめんね… 私たちが戦えたらよかったんだけど…」

「いや、あの場面じゃ俺がやるしかないよ… でも…」


 マギさんは何も言わず俺の隣に座り、そっと抱きしめてくれる。マギさんの鼓動と暖かさがしみ込んで来るみたいだ…


「ねぇ、初めて… だったのよね…?」


 何が、とは言わない。言わなくても答えは決まっているから。


 向こうでもこちらでも、俺はひとを殺したことはなかった。重症といえるほどの怪我をさせたことはある、それでも命までは奪わなかった。それはどうしてもできなかった…


「うん…」


 こちらに来て、モンスターや動物の命はいくつも奪ってきた。でもひとの命だけはできなかった。そのひとにも大切なひとがいて、家族がいて、そんなことを考えるとどうしても…


「私の心臓の音、聞こえる?」


 トクン、トクンと規則的なリズムでマギさんの心音が聞こえる。女性の胸に抱かれるのっていつ以来かな…

 向こうでばあちゃんに抱きしめられたの以来かもしれない、母親に抱かれた記憶はないしな…


「うん、聞こえる… マギさんは生きてる…」


「そうよ、ティーロくんが守ってくれたから私は生きてるの。フィオちゃんもそう。バルバラもジークハルトもルイくんも、みんなティーロくんが守ってくれたの。だから今も生きてるのよ。」


「それでも… あいつらは死んだ…」


 俺たちは生きてる。でもそのためにあいつらを殺してよかったのか…

 俺の大切なひとたちはこうして生きてる。でもあいつらにだってあいつらを大切に思うひとがいたはずで…


「優しいね…」


「そんなことない! 俺は… あいつらを殺して! あいつらにだって家族がいて!」


「そうね… みんながティーロくんみたいに優しかったらよかったんだけど、ここはそうじゃないから…」


 今は泣きなさい


 マギさんの胸で声を殺して泣く… そんな俺の背中を優しくなでてくれる。

 あぁ… 生きていてくれてよかった…





「落ち着いた?」


「うん… ありがと…」


「軍隊ではね、」


「え?」


「軍隊で新兵が初めてのひとを殺したときにすることがあるのよ…」


 軍隊? 新兵? どういうこと…?


「通商連合までは町に寄らないから、私が…ね?」



 顔を上げた俺に優しく口づけをしてマギさんは…





「それにしてもこのこーきどーしゃっていうゴーレムはすごいのぉ。早馬より早いんじゃないか? それにどれだけ走り続けられるんじゃ。」

「そうですね、それに馬車みたいに揺れませんしこれが普及すれば。」

「それはティーロが決めることじゃからな。わしらがとやかく言うものではないわい。」

「そう…ですね…」



「ふふっ、よく寝てる。」

「うぅむ… まさかあのマギがこんな顔をするなんてねぇ。男を知ると女は変わるねぇ。」

「なっ、なっ、なっ!?」

「なんじゃ? まさか気づかれんと思ったのかい?」

「えっと… いや、だって遮音結界を張ってたわよ!?」

「そうじゃなぁ、そうだろうよ。」

「ならなんで!?」

「そうだねぇ…ティーロを見る目かな。これまでと少し変わったからの。」

「はぁ… そういうことは言わないのが礼儀じゃないの…?」

「だから言わんかったじゃろ? 歩き方がおかしいとはな。」

「ちょっ!?」

「まさかマギが未通女おぼこじゃったとはねぇ、知らんかったよ。」

「バルバラ!?」

「それで、ティーロはどうじゃ…?」

「うん… ティーロくんも初めてだったみたいだけど優しくしてくれたよ。私が初めてだとは気づいてないと思うけど…」

「いや、そうではなくてティーロのこころのことを聞きたかったんじゃが… もう大丈夫そうだね。」

「あ… うん、一応は落ち着いてくれたみたい。寝顔も穏やかでしょ?」

「そうだねぇ、可愛いねぇ。」

「でもね…」

「うん? でも?」

「夜のティーロくんはほんと凶悪よ… その…すごく大きいし…」

「な〜にを言ってるんだい。初めて見るんだから大きく見えるとは思うが、」

「そうじゃないのよ、知ってるでしょ? 私は戦争にだって何度も行ったのよ? 拷問の立ち会いとか軍規違反して民間人を襲う馬鹿の処分とかもしていたわ。」

「まぁ… そうじゃろうな…」

「そしたら嫌でも見るのよ、その…男のあれを…」

「まぁ… そうじゃろうな…」

「そういうことをして女から情報を取ってた間諜よりも、大きさ自慢をしてたチンピラまがいの兵隊よりもその…ね? 立派だったわよ…」

「ほぅ… あんたの身体は大丈夫かい…?」

「それは…うん、大丈夫。本当に優しくしてくれたし初めてなのにすごくよかったし…」

「あぁ… ごちそうさまなことで… 初めてがそれだともう他ではダメになるんじゃないかい?」

「それは違うわよ。旅を始めるときからティーロくんだけって決めてたから。」

「あ、あぁ…」

「ティーロくん初めてでこれなのよ? 今後どうなるかちょっと怖いわ…」

「こんなあどけない寝顔をしてるのにかい…?」

「そのギャップも… ってなんでこんな話になってるのよ!?」

「マギが言い始めたんじゃがなぁ…」




 俺は昼に起こされ、じいちゃんから推定現在地を教えてもらう。馬車だと馬の休憩も必要になるけど高機動車にそれは関係ないからかなりのペースで来てるね。


 ばあちゃんに疲れが見えたから昼食は魚にしよう。市場に青魚があったんで買い占めてつみれ鍋にしておいたんだ。パンは手持ちに限りがあるから小麦粉の団子を入れてすいとんにする。これで腹持ちもよくなるしね。



「これまた美味いねぇ、魚をこうやって団子にする発想はなかったよ。それに味付けはまたティーロの調味料かい?」

「気に入ってもらえてよかったよ。ばあちゃんがちょっと疲れてるみたいだったから好きな魚料理にしてみたんだ。これに使ってるのは醤油っていう調味料だよ。まだ試作段階だから量はないんだよ。」

「ははは、あたしを心配してくれてこの料理になったのかい、ありがとうね。疲れたのはマギのせいだけどね!」

「マギさんの?」

「なにを言うのよ! 私は悪くないわよ!?」

「そうだねぇ、悪いのはティーロかもしれないねぇ?」

「うっうぅぅぅぅ……」

「俺? 寝てるときになにかしたかな?」

「いやいや、そんなことはないけどねぇ?」

「バルバラ!」

「はっはっはっ! そのへんにしとけ! それよりティーロ! おかわりいいかの?」


 3人と楽しく食べたけどフィオさんはまだ…

 それにルイさんも元気がない…


 フィオさんは仕方ないけどルイさんは何かあったんだろうか…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る