第22話 勧誘(国名は仮
Side マギ
ここまでの旅路は順調。
ティーロくんの高機動車のおかげで馬車の3倍くらいの速さで進んでいるわ。ゴーレムの一種である高機動車は馬車と違って馬を休ませる時間を取らないでいいからそのぶん移動時間を延ばせる。
それより驚いたのはこの速度でもまだ抑えてるってこと。ティーロくんは耐久性を見ながらどこまでの速度で行くか考えるって言ってたわ
、あの子本当に16歳なの…?
そりゃ行商人や傭兵の子ならわかるけどそういうわけでもないみたいだし不思議ね。
夕食は簡単に済ませて野営。今日の見張りは私が前半でルイくんが後半。バルバラにはフィオちゃんの側にいてもらうってことにして見張りを免除してほしいってティーロくんが言い出したときには驚きとともにその気遣いに惚れ直したわ。鍛冶師で体力のあるジークハルトと違ってバルバラは仕方ないわ。それに、不満があるなら自分が1人で見張りをやる日を作っていいとまで言うんだから何も言えない。
「こちら失礼します。」
あら? 交代には少し早いけどルイくんが出てきたわね。でもこの顔は… なにかあるのかしらね。
「あら〜、早いわねぇ〜? 交代までは〜1時間くらいあるわよぉ〜?」
「はい… 実はマギ殿に折り入ってお話があるのですが…」
はぁ… 面倒ごとの匂いしかしないわね。
「聞くだけなら〜聞いてあげるけどぉ〜、望み通りになるとは〜約束できないわよぉ〜?」
「はい… 実はマギ殿にオレの、いえ、私の祖国を助けて頂きたいのです。」
「う〜ん〜? どういう意味かしらぁ〜?」
「はい、祖国では仮想敵国の侵略に備え軍人をになってくださる方を探しています。
「ふ〜ん〜…? ちなみにぃ〜どれくらいの待遇を用意してくれるのかしらぁ〜?」
名前も変えているのに
「まずは軍での少将をと、それから可能な限り早く中将までは上げる準備があります。」
「それはぁ〜誰の指示かしらぁ〜? 空手形に興味ないわよぉ〜?」
「父が元帥閣下から受けた命令です。」
「ふぅ〜ん… ということはぁ〜タンネイ公国かブルゲイ王国… あ、ラトル王国ねぇ〜。そこの元帥だとぉ〜、フルドか〜、ボルス〜… うん、フルド元帥ねぇ〜。」
「え? な、なんで!?」
「ふふふ… これくらいはできるようにならないと〜将軍なんかは〜務まらないわよぉ〜? それと〜あなたのお父様は中将ね〜?」
「は、はい…」
「ラトル王国のフルド元帥ねぇ… 残念でもないけどぉ〜、このお話は受けられないわぁ〜、断らせてもらうわねぇ〜。」
ラトル王国はいい話を聞かないのよね、先代の国王の時代からダメダメなのよね。
「な、なぜでしょうか… こんな厚遇はないと思うのですが…」
「そうねぇ〜、軍人として生きるなら〜それでいいと〜思わないでもないけどぉ〜私は〜軍人は嫌なのよぉ〜。」
「で、ではその、一時的というのは…」
「それこそ〜ダメよぉ〜。将軍級の〜待遇を受けて〜退役なんてすれば〜、そのあと〜どこに情報を流すか〜わからないじゃな〜い?」
「それは… はい…」
「ねぇ〜? そうなると〜私をどうするのが〜軍人としての〜正解かしらぁ〜?」
「口を… 封じます…」
「そうね〜、でも〜それは〜私を〜殺すって〜ことよぉ〜? そうなるのがわかってて〜行くと思う〜?」
「い、いえ…」
「でしょお〜? それにぃ〜私もぉ〜抵抗くらいするわよぉ〜? 具体的には〜… 王都を〜焼き尽くすくらいは〜しちゃうかもぉ〜?」
「そんな…」
「ねぇ〜? だから〜やめときなさ〜い? ジークハルトも〜バルバラも〜断ると思うわよぉ〜?」
「は、はい…」
「一応聞いておいてあげるけどぉ〜、あなたはラトルの〜軍人としての証明書とかは〜持ってるのぉ〜?」
「いえ、軍学校を退学してハンターになったということになっています。」
うわ… そこまでするのね… これだからラトルは嫌いなのよ…
「だったらぁ〜 そのままハンターをするのも〜選択肢に考えておきなさ〜い? 成功しても〜軍では〜出世なんて〜できないわよぉ〜?」
「わかり…ました……」
「じゃあ〜私は寝るわねぇ〜、あとは〜よろしく〜。」
この子も可哀想ね、引き抜きが上手くいっても功績は父親と元帥のもの。縁談くらいはもらえるかもしれないけど栄達はできないわ。軍学校を中退してのハンターなんてキャリアじゃ軍人としては…ね。
Side ルイ
ダメだったか…
オレに接触してきた父上の子飼いからの情報でマギ殿があの
マギ殿はなぜあれだけの情報からオレがラトル王国出身で父上がフルド元帥の配下の中将だと気づいたのか…
魔法を使われた感触はなかったから別の理由だろうがまるで精神干渉系の魔法だ…
それにラトル王国にいい印象を持っていなさそうなのが気になる。内政は安定し、経済も好調。仮想敵国がどこかは機密で教えられていないがそれは普通だろう…?
ジークハルト殿とバルバラ殿を勧誘することも難しくなった。お2人は軍人ではないが鍛冶師や錬金術師としてであればかなり祖国の力になるだろうに…
ならティーロくんを勧誘するか?
そうすればみんな…
「あ、言い忘れてたわ〜。」
「な、なんでしょうか…?」
考えに集中しすぎていたのか後ろからマギ殿が近づいてきていることに少しも気付なかった。そんなに集中していた…のか…?
「もし〜ティーロくんに〜なにかしようとしたらぁ〜、殺すわよ?」
初めてだ… ここまで濃密な殺気を向けられたのは…
「そ、そんなことはしませんよ…? ただなんで皆さんがティーロくんについて来ているのかが少し気になっただけです…」
「あっ、そういうことね〜、なら〜教えてあげるわね〜。最初の町を〜出るときにね〜、みんなは〜ティーロくんに〜ついて行くって〜言ってあるのにね〜、あの子ったら〜ひとりひとりにね〜、一緒に来てくれって〜お願いしに来たのよ〜?」
「はい… オレも言われました…」
こちらから同行するって言ってあるのに後から「一緒に来てくれ」なんて不思議なことを言うって思ったものだけれど…
「それがどういう意味か〜わかってないみたいね〜?」
「意味… ですか…?」
「そうよ〜、ティーロくんは〜今回の移動の〜主体を〜自分にしたのよ〜。私たちは〜ついて行くって言ってあるのに〜「自分が頼んだ」ってカタチにしたのよ〜。」
「それは…わかりますが、それに何の意味が…?」
「わかんないか〜… ティーロくんが頼まなかったら〜責任の所在は〜私たちそれぞれになるじゃな〜い? でも〜ティーロくんが頼んだら〜どうなると思う〜?」
「全責任がティーロくんに…?」
「そうよ〜、あの子は〜それができる子なのよぉ〜。私たちが〜何をしても〜、私たちに〜何があっても〜その責任を〜全部自分が背負うつもりなのよぉ〜?」
そこまで…? ラトルでは自分が責任を負わないために一般人でも押し付け合うし、政治家や軍の上層部では責任の所在をはっきりさせないためにあえて合議にしたり、責任を取らせるための存在を置いたりするのに…?
「ティーロくんは自分から…責任を…?」
「そうよ〜、そういう子だって知ってるから〜 私たちは〜全力でティーロくんを支えるのよ〜。」
そんな… 彼はまだ16だろ…? 成人しているとはいえオレたち全員の責任を…?
「そこまでの覚悟をして…?」
「惚れるでしょぉ〜?」
「はい… それはもう…」
これまでの人生でここまで思われたことがあっただろうか… 自分の存在を肯定してくれるような言葉をかけられたことがあっただろうか… 今回の任務は失敗すれば祖国も父上もオレのことは知らないと切り捨てるだろう。それでも祖国と肉親のためと思っていたが…
ティーロくん… 君のせいで折れそうだよ…
「ふふっ よ〜く悩みなさ〜い? でも今は〜優先すべきことを忘れずにね〜?」
「はい、これからもよろしくお願いします。」
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