第17話 こんな町



 順調。うん、一応順調に予定してた各町を巡ったよ。

 貴族には大小いくつもの派閥があってそこを行ったり来たりするようにルートを決めたからたぶん俺たちがどこにいるかあの町では気づきにくいことになってると思う。


 この辺りは国の南部にあたり、そういう意味では同じ派閥と言えるんだけど南部ってだけだと結束は弱い。これが大きな派閥。

 あとは血縁とか後見関係にあたる寄り親と寄り子っていうのが小さい派閥なんだけどこれは密接だったりするからその関係がないやつが領主をしているところを行き来するようにしてる。


 あの町は領主とギルドの関係が悪い意味で密らしいからあそこの領主と縁のあるところへ行くと危ないんだよ。今の所は移動も手続きも順調で俺とルイさんはあの町から子爵領、男爵領、男爵領と護衛依頼を3回達成したことになってる。

 ただ、正直なところ次の子爵領はちょっと気になる。あそこは良くない噂を聞いたことがない。普通なら税金や治安、物価なんかでなにかしらの不満はあるはずなんだけどその子爵領から来るひとはどんな些細な不満も言わないんだ。

 こうなると逆に怪しいよ。みんなには気になるとは言ってあるけどなんとかなると思ってるみたい。

 はぁ… モンスターならいいけど人とは戦いたくないなぁ…



「見えてきた、ティーロくんあれが目的地だよ。予定では不自然にならない程度に補給して…だ。」

「はい、気をつけてくださいね? ギルドもそうですけど衛兵が怪しい可能性もあるんで。」

「気にしすぎだと思うんじゃがなぁ… わしらは何度か来ておるし早々問題も起こらんじゃろうて。」

「だといいんだけどね…」


「次!」

「わしはジークという、嫁さんと知り合いを連れて移動中じゃ。この2人は護衛に雇ったハンターじゃ。」


 何度かやった通りにじいちゃんが門兵と応対する。ここまではいつも通り。これで済めばいいんだけど…


「おい、ちょっと待て。」

「あ、隊長。どうされましたか?」

「じじいとばばあにガキか… お、いい女がいるじゃねぇか! おい女! お前はこっちに来い!」

「隊長さんじゃったか、女と言われても何人かおりますがの?」

「あぁん? そこの魔人の女だ。魔人はヤったことねぇから試してやるよ。女を置いて行けば通してやる。ほら早くしろ!」


 やっぱりな… 問題が衛兵にあればみんな口をつぐむはずだよ。どこで伝わるかわからないし、伝わると何をされるか…


「待ってください! 隊長さん、そんなことをされるとオレたちの依頼が失敗になります。どうにかなりませんか…?」


 ルイさんも下手にでてる。そりゃ衛兵に逆らうと後が大変。あ、何枚か銀貨を渡してる。こういうときは仕方ないよな…


「ふむ… 良かろう、通してやれ。」

「はい、お前ら行っていいぞ。」



 なんとか町に入ることができたから急いでハンターギルドで依頼達成の報告をした。

 ギルド前で馬車を預け全員で中に入る。できるだけ固まって行動しようと言っておいたからこうなったけど嫌な予感は消えない。依頼の達成処理が済み、食料を買えそうな所について話しを聞いていると外が騒がしい。


「やっぱりお前らか! 若様、こいつらです!」

「ほぉ〜 これはこれは。いけないなぁ、御禁制品の持ち込みはいけないなぁ?」


 なんだこいつ…


「お前らが怪しいから馬車を改めさせてもらった! 御禁制品があったのでお前ら全員を拘束する!」


 さっきの衛兵隊長が叫ぶとぞろぞろと衛兵が入ってくる。29人か…小隊連れてきたのかよ…


「待ってほしい、わしらは御禁制品なんぞ持ってはおらん! 荷物も食料とわしらが使う日用品くらいのはずじゃ!」

「へぇ〜? 俺らが嘘を言っているって? そんな反抗的な態度でいいのかなぁ〜? ねぇ? 隊長くん?」

「公務執行妨害の現行犯だ、拘束しろ!」

「待ってくれ! 御禁制品ってなんだよ! オレはそんなの見てないぞ!?」


 あ、ルイさんそれは悪手だよ…


「なるほどなぁ? このハンターは共犯の疑いがある! ギルドとしてはどう対応するの?」


 若様と言われた感じの悪い男が受付嬢を値踏みするように見る。この若様っていうのがどういう立場かはかわらないけどここの領主の息子かな、こういうやつには逆らわずに全て従って嵐が過ぎるのを待つしかないんだよ…


「わっ私はただの受付嬢なので上の者を呼んできてもよろしいでしょうか…?」

「ん〜? そ〜だねぇ〜 早くしてね〜。」


 受付嬢は走って逃げるように奥へ引っ込む。これでだいたいわかるね、こいつらこれが初めてじゃないな…


「お待たせを致しました、支部長、副支部長ともに不在ですので受付主任の私が対応させていただきます。」

「あ〜、あんたか。隊長くん説明してあげて?」

「はっ! このじじいの馬車から御禁制品を発見、事情を聞こうとするとこのハンターが妨害、ギルドとしてこのハンターへの処遇を伺いたい。」

「そうですか… その御禁制品とはいったい何でしょう? 彼らは隣の男爵領からこちらへ来たばかりではありますが依頼の日付を確認したところどこかへ寄るほどの時間はかかっておりません。王国での御禁制品はいくつか指定されておりますがそのどれもがどこの領地でも持ち込みも所持も禁止されているものばかり。男爵領で見つかっていないのであればあちらで入手した可能性もあります。そうなると大規模な密輸組織という可能性になってきます。またハンターはどこの国に領地にも縛られません。密輸組織の調査であれば協力致しますが取り調べなどはこちらで行います。見つけたというものを見せていただかなければ協力はできかねます。」

「あ〜…ん〜…? 要するにギルドは俺に逆らうってことでいい?」

「そうは申しておりません。見つけた御禁制品とはなにかを伺っております。」

「そんなの俺があったって言ったらあったんだけど〜?」

「そういったことであればハンターの権利保全のために彼らを保護します。どうかお引き取りを。」

「そ〜ゆ〜こと言っちゃう〜? 俺はAランクなんだけど〜?」

「それは脅迫と受け取りました。本件の御禁制品の提示がございませんのでこちらとしても対応できません。繰り返します、どうかお引き取りを。」





作者です


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