第18話 初めての…




 受付主任さんのおかげで胡散臭いいちゃもんをつけてきた衛兵たちを追い返すことはできた。あの人はすごかった…


 あの人数の衛兵や貴族?を気迫で追い返した… ルイさんもできることはやってた… なのに俺は…



「セシルさん、ありがとうございます。そして申し訳ありませんでした…」

「フィオさん、いいんですよ。貴女がここにいるというのは退職されたということなのでしょう。すみませんが皆さんからお話を聞かなければなりません。どうぞこちらへ。」



「旧交を温めたくはありますがそれよりもまずは状況を整理しましょう、この部屋は防音されていますのでご安心を。」

「ありがとうございます。では私から説明させていただきます。」


 案内されたのは応接室、取り調べ室に連れて行かれると思ったけどそんなことはなかった。主任はセシルさんといって、フィオさんと面識があるらしい。


「半年前の会議の帰りに私が彼、ティーロくんと出会ったことから始まります……」


 フィオさんはざっくりと俺たちの事情を説明する、でもなんで2人で一緒に寝たとか毎日朝晩は一緒に食事をするとかそういうところを強く言うの…?


「なるほど… そちらのギルドの不正を疑い危険回避のために移籍ですか…」

「はい、あそこはもう駄目だと思います。」

「そうでしょうね、こちらも似たようなものですが。」

「こちらではなにが…?」

「それは… 先程の彼、エンリケと言います。彼がこの町に来た3月ほど前から始まります。東のある伯爵領からこちらに流れて来たのですが子爵閣下とその娘さんに取り入ってこれまでなかった領軍監督という役職を与えられました。そしてあとは見ての通り好き放題しています。違法なことはしていなくても取り調べまでは現場判断で行えます、目をつけられてしまえば好きに罪をでっち上げて…」

「そんな!? 領主はどうしているんですか!?」


 ルイさん…?


「なにも… 黙認という印象です。衛兵も逆らっても力ではAランクは止められませんし領主である子爵閣下の黙認があるのです。実質ここはエンリケの王国です。私はハンターギルドという後ろ盾があるのでまだ話をすることができますが商人や職人ギルドには武力がありませんからエンリケにへつらうか否かで二分されています。」


 そんな… このひとはそんな状況で俺達を守ってくれたのか…


「ジークさん… 今すぐここを出ましょう… これ以上迷惑は…」

「そうじゃな、セシル殿…すまんかった。」

「いいえ、悪いのはエンリケです。

 それからティーロさん…と言いましたか。」

「は、はい…」

「ご自分を責めてはいけません、どう見ても貴方は悪くありません。ご覧なさい、皆さんは貴方を責めていますか?」

「いいえ…」

「そうでしょう? 非は明らかにエンリケにあります。目をつけられたフィオさんも馬車を置くことにしたジークさんも馬車を見せてしまった私たちギルドにだって非があると言えてしまいます。」

「そんなことは!」

「ない、と言える貴方はいい子です。あまりご自身を責めてはいけませんよ、みんな自分で同行することを決めたのです。王国は今あまり良い状態ではありません。これは南部だけのことではないようです。他国へお逃げなさい。そうしなければ…」


ーーコンコン


「主任、エンリケが来ています。今度は先程よりも多くの衛兵を連れています。」


「そうですか…… ではルイさんには特殊依頼をさせてもらいます。ここまでの会話をこの宝珠に録音しています。これを他国のハンターギルドの支部へ、可能であればその国の本部へ届けてください。」

「オレが…ですか?」

「こちらをお待ちいただけば私から依頼したことの証明になります。」


 そう言ってセシルさんはドッグタグのようなものを渡す、ドッグタグ…いや、まさかそんな命がけなんて…


「この状況ではすんなり外には出られそうもないのですが…?」

「抜け道をご案内します、依頼の途中に何があっても全責任は私が負います。衛兵を殺傷しても成し遂げてください。」


 うそ… 人を… 殺して…?


「わかりました。Bランクハンターのルイ、この特殊依頼をお受けします。」

「セシルさん…」

「フィオさん、私は貴女を娘のように思っています。どうかお気をつけて… フィオちゃん…幸せになってね…」


「お急ぎください、私が町の外までは案内します。そこからはお任せします。」



 男性の職員に促され抜け道を使って町の外へ、なんとか出られたけど馬車もないしここからは徒歩か… 逃げ切れるかな…


「はっはー! 待ってたぜぇ〜?」


 エン…リ…ケ?

 待てよ… おい… お前が持ってるそれは…


「セシル… さん…?」


「お〜? うるせぇばばあだからさ〜、ヤっちまった。貴族に逆らうとど〜なるか教えてやんねぇとなぁ〜?」


 エンリケとさっきの衛兵とは雰囲気の違う兵士が30人ほど、ハンターならCランクの上位ってところか…


 こっちで戦えるのは俺とルイさんの2人、ルイさんには魔法でみんなを守ってもらいながら俺がエンリケを急いで倒して兵士にも当たるしかない。


 なんだろ… モンスターはさんざん殺してきたのに人は殺したくない、そう思って震えていたのに妙に頭がすっきりしてる。


「あ、あ、あ… あああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああぁあああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああぁああああ」


「フィオさん!?」

「ティーロ! こっちはあたしがなんとかする! あいつを!」

「で、でも…」

「ティーロくん… この人数… それにあいつは…オレでは無理だ… 頼む…!」


 頭はすっきりしてる、でも気持ちがついて来ない。フィオさんのことはばあちゃんたちに任せて、兵士はルイさんに牽制してもらい、エンリケは俺が相手をする。これが最適なのはわかってる。でも…


「なんだよなんだよぉ〜? ブルってんのか〜い? じゃあお前ぇの前でその女犯してやっからよぉ〜?」

「は?」

「あぁ〜ん? どした〜?」

「“鑑定”」


 ビビってんのはどっちだよ? 一息で10mは下がったぞ?


「へぇ、火が32か… あとは体術がそれなり…ね。」

「な!? てめぇ…なにしやがった!?」

「さぁね、対象のレベルを確認、問題なし、すぐに終わる。」

「お前ぇら! そっちのばばあどもをやっとけ!」

「ふぁファイヤーボール!」「ロックジャベリン!」「アイスボルト!」「ファイヤーボルト!」

「“囲え”」


 俺たちを取り囲んでいる兵士から多数の魔法が飛ぶが、俺の作った壁を抜けてはいない。

 ルイさん以外を岩の壁で囲って守る。50センチ厚のコンクリートをそんなもんで抜けるもんかよ。


「ルイさんには悪いけど見ててもらうよ、パーティーだからね。」

「ふんっ、見るだけでいいのかい?」

「あぁ、頼むよ。」

「お前ぇら! ロックウォールなら蒸し焼きだ! 外から炙ってやれ!」


「お、お前ぇら…?」


 エンリケは俺から目を離せないよな?

 ハンターギルドで暴れて来たんなら俺とルイさんのランクは知ってるはず。Cランクの俺のロックウォールをCランク上位相当の兵士複数での魔法攻撃で破れないんだ、そうなると優先して叩くべきはBランクのルイさんよりも本当にCランクか怪しい俺になるよな。Bランクのルイさんならいつでも倒せる。でもあれだけの魔法攻撃を防げる俺は本当にただのCランクなんだろうか? なんて考えてるんだろ? その俺から一瞬でも目を離せない、離したら自分が危ない。そう、思ってるんだろ?


「遠慮せず見てみろよ、ほ〜れ絶景だぞ?」


 挑発の意味も込めて振り返る。そこには地面から生えた串で全身を貫かれた兵士たち。


 “ヴラド”俺がいた世界、地球では串刺し公という異名を持つ貴族がいた。反逆者や罪人を串刺しで処刑したことに由来するがそのイメージを魔法に使わせてもらった。


「見えたな? 次はお前の番だよ、ほ〜ら… お ど れ」


 エンリケは… 火の魔法スキルが高くても空を飛べるわけじゃない。いつまでも逃げ続けられる体力があるわけじゃない。避けながら俺を倒せる技量があるわけじゃない。


 俺が負ける理由がない。


「そろそろいいかな? 飽きてきたわ。」


 逆モグラ叩きも10分も続ければ飽きてくる。串も切先は硬く鋭くしているけど折れやすくしてあるので全身に折れた串が刺さっている。


「はぁ… はぁ… くそが…!」

「その出血じゃもう助からないかな、言い残したいことがあれば聞くけど?」



「……地獄で待っててやるぜ…」





作者です


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