第3話 ST フィオさんと半年記念日



 そんなわけで、この半年の前半はパーティーを組んだけどパーティーってものにうんざりした。後半はおひとりさまで日々稼ぎながらフィオさんとばあちゃん、じいちゃんに恩返しをしてるってわけだ。じいちゃんはあいつらの武器の手入れなんかをかなり格安でやってくれてたけど俺にもいい剣を手配してくれたんだ。ここらへんでよく使われてる直剣はどうも使いにくくて相談したらシャムシールに似た剣を手配してくれた。しばらく使ったけどやっぱり馴染まなくてそんなことなどなんやかんや武器談義をしてたら俺の希望する剣を作ってくれることになった。流石に鉄を掘ってくることはできないからモンスターのドロップアイテムで武器や防具に使えるものはじいちゃんに渡すことにしたんだ。さっきのオークの牙なんかもそれだ。


 この世界の楽なことはモンスターの解体がいらないこと。モンスターは倒すと煙のように消えて魔石をドロップアイテムとして残す。運が良ければ他にも肉や牙なんかもドロップするんだけどそっちは確実じゃない。だからモンスターの肉は高級食材として喜ばれるんだよ。逆に消えないものは動物ってことになる。そっちは解体が必要だから解体も覚えたよ… できるだけモンスターを狩りたいよね。そんなわけで今日の夕飯はオーク肉のシチューとサラダにパン。フィオさんは喜んでくれるかな。



「ただいまー、すごくいい匂いがしてるけどまた作ってくれたの?」

「フィオさんおかえり、今日はシチューを作ったから早く食べよ? 手を洗って来て。」

「はーい、ティーロくんのシチュー♪」



「はぁ〜、おいしかったぁ〜! でもこれってすごくいいお肉だったんじゃない?」

「うん、オークの肉だよ。でも今日の稼ぎで問題なく手に入ったから気にしないでね?」


 フィオさんには俺が自分で狩ってるとは伝えていない。心配をかけたくないのもあるけどあいつらの担当職員にゴチャゴチャ言われたらめんどくさいっていうのが大きいかな。「あいつらと組んでるときにもこれだけできただろうから賠償としていくら払え」とか言われたらたぶんヤっちゃう。


「オーク!? そんな高級品をどうして…?」

「今日は俺がフィオさんに拾われて半年の記念日だよ。だからこれまでのお礼も込めて用意したんだ、ほんとはもっとすごいのを用意したかったんだけどこれくらいでごめんね…?」

「もぉ… バカ… 私はティーロくんのお姉さんなんだからお世話するのは当たり前よ… これからだってずっとずっとお世話するんだから! それにモンスターのお肉ってなかなかドロップしないのよ、安いわけないじゃない、それだけお金があっても出ていかないでいてくれて… 

 私のこと気持ち悪かったりしないの…?」

「気持ち悪いってなにが? フィオさんはお世話になってる優しい美人なお姉さんだよ。」


 フィオさんがそう思うのも仕方ないことなのかもしれない。半年もこの世界にいればそれなりに常識も身につく。この世界には地球にはいない地球で言うところの人間とは違う種族がいる。エルフや獣人、ドワーフなんかが典型かな。その中でも被差別種族とされるのが魔族。魔族のくくりの中にも色々いる、ダークエルフや夢魔、魔人族が典型で一部の獣人も魔族扱いされている。フィオさん魔人族、被差別種族なんだ。でも俺からすると地球にはどれもいなかったから珍しいとか不思議とは思うけど差別意識はない。そんなことを言い出したら俺なんて異世界人なんだから。


「ほんと… ティーロくんはなんでこんなに優しいのよ… (こんなこと言われたら好きになっちゃうよ…)」

「優しいかな? これだけ世話になったのに感謝もできないような人でなしにはなりたくないよ。それにフィオさんが美人なのはただの事実だからね。」


 あ、やば… 泣かせちゃった… 女の人が泣いてるとどうしたらいいかわからないよ…


「じゃあ俺は先に寝るね! たまにお酒飲むみたいだからオーク肉の余りで作ったジャーキーを置いておくからおつまみにしてね! それじゃおやすみ!」



 Side フィオ


 はぁ… 泣いちゃった…

 でも仕方ないじゃない、ティーロくんがあんなことを言うなんて! 私達魔族はずっと差別されてきたんだからちょっと優しくされたらすぐ… それにオークのシチューなんてそうそう食べられるものじゃないわよ! 半年の記念日って結婚記念日にだって普通は無理だわ! シチューに使われたお肉の量を考えると銀貨何枚にもなるわ、ティーロくんだって狩りにいけばポーションを使うこともあるはずだからそんなに貯金だってできないでしょうに… 私のためにここまでしてくれる。そんなひとなんていなかったわ。記憶喪失でなにもわからないって状態で街道にいたから私がお姉さんになって教えて守ってあげようと思ったのにここまでされたらもうただのお姉さんじゃいられなくなっちゃう… でもこの気持ちは抑えないと。ティーロくんは普人族ヒューマン、いつかきっと差別のことを知って私のことを疎ましく思う時が来るわ、それまで、もう少しだけでいいからこの生活を続けさせてね…



 Side 太郎


 やばかった、ほんとやばかったよ… 恩人であるフィオさんのことを抱きしめたくなったんだよ! 俺みたいなペーペーがフィオさんみたいな美人に手を出せるわけないだろ、勘違いすんな。いつもはキリっとしてて美人なのにさっきは儚げで守りたくなって… あぁもう! これまで彼女なんていたことないから余計にどうしたらいいかわかんねーよ!

 とりあえず他のことを考えよう。


 この世界にはスキルはあるけどレベルもステータスもない。そう思われている。でも俺はちょっと違うみたいだ。なんでかって、俺は自分のや他人のステータスを見ることができるから。理由はわからないけど見えるものは仕方ないよね。



名前 ティーロ (山田太郎)


戦闘スキル 剣術38 体術26 槍術25 棒術23 弓術21


魔法スキル 土31 風24 火22 水19 時空17 光13


その他スキル 鑑定 料理 交渉 医術 錬金術 鍛冶 解体


称号 (異世界人)



 こんな感じに自分のステータスを見れるんだよ。あ、また風魔法のスキルレベルが上がったな。俺以外には見えてないみたいだから勝手に呼び方を決めてるんどけど、まず名前! なんでティーロなの!? 俺の名前は山田太郎だよ! フィオさんが聞き取れなくてティーロって言い出してからそれに固定されたのかな!? あとは個人のレベル表示はない。いいのか悪いのかわからないけどレベル差でどうこうっていう問題が起きないのは助かるよね。戦闘スキルと魔法スキルの数字の部分は勝手にスキルレベルって呼んでる。どれだけ使いこなせるかってことだと思ってるけど今後この認識が変わるかもしれない。

 ちなみに剣術の38っていうのはかなり高い部類に入る。この町にも何人かいるBランクハンターの得意武器のスキルレベルの最高が槍術29だった、逆にBランクハンターの得意武器の最低スキルレベルは短剣術15。でもこのひとは魔法スキルが高かったから護身用程度なのかもしれない。

 魔法スキルは割りと多くの人が何か1つは持っているけどだいたい一桁。魔法使いっぽいひとが高くて20くらい。さっきの短剣術のひとが火22、風17を持っててたぶんこのへんがこの町の最高値みたい。

 HPとか筋力とかいう数値はなくて良かったと思う。現実世界でそんなのは当てにならないからね。いくらHPが高くても首を落とされたらもう無理だもの。


 なんでこんなに戦闘スキルが高いのかは向こうでじいちゃんに鍛えられたから。魔法スキルが高いのは地球で自然科学の知識を学んでたからかな? 土がこんなに高いのは鉱物について知っているからだと思うんだ。あの世界の教育水準ってすごいよな。

 これだけのスキルレベルがあってなんでパーティーで使わなかったかと言うと、その頃は自分のステータスを見ることができなかったから。脱退する少し前に見えるようになって、自分と他のハンターのステータスを見て、他のハンターが使える魔法って自分でも使えるよな?ってやり始めたのがきっかけでできることが一気に増えたんだよ。

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