第2話 これまで



 とりあえず、この半年で何があったのかって言うのを整理しようか。

 まずは俺は街道にぽつんと立ってたんだ。猫を庇うためにトラックに飛び込んだから普通は倒れてるものだと思うだろ? でも実際は直立。意味がわからなかったよ。服は制服のままで荷物はなくなってた。家の鍵や財布もなくて本気で焦ったな、そんなところをフィオさんに拾ってもらった。隣の大きな街で会議があったとかでその帰りの馬車から街道でぼんやり突っ立っている俺が見えて声をかけてくれたんだそうだ。その時の俺は捨て犬みたいな目をしてたんだそうだ。そりゃ当然だよ、気づいたら異世界だし荷物はないし途方に暮れてたら美人なお姉さんが声をかけてくれたんだ。地獄に仏ってこのことだと思ったね。


 フィオさんは俺をハンターギルドに連れてきてくれて諸々の手続きやこの世界での暮らし方について教えてくれた。ここまでしてもらって申し訳なくなるくらい色んなことを教えてくれたよ。でも、女性の誘い方は本当に必要だったのかな…? それになんか微妙にダサいというかキザったらしいというか、そういうのがいいのかな?

 15歳の俺はGランクは飛ばしてFランクからハンターを始めることになった。これもフィオさんが手を回してくれたから本当にありがたい。それに手が空いているときに魔法の手ほどきをしてくれたこともFランクスタートに影響しているんだ。魔法使いは子守りや草むしりなんかをするより実践で強くなった方がギルドのためになるんだってさ。

 ゲームなんかと違うのは、この世界ではレベルやスキルを知ることができないこと。それがわからないからどれだけの強さを持ってるかはハンターランクで測るしかないんだそうだ。知ることはできなくてもスキルは存在してる。魔法はあるし剣士だって剣に炎をまとわせたり斬撃を飛ばしたりするんだ。こんなのスキルって呼ぶしかないよな。

 フィオさんが俺に教えてくれたのは4属性と呼ばれる火水風土の魔法の本当に初歩、それと剣で斬撃を飛ばすところを見せてくれた。俺が見たものをその場でやってみせたらものすごく驚いてたな、その時に「Eランクスタート… は難しいからFランクスタートね!」って本気で喜んでくれたな。フィオさんの言った通り俺は本当にFランクからスタートできたし、幸先のいいスタートだったよ。


 それからは見た目が兎のモンスターを狩って日銭を稼ぐ生活をしていたところを少し年上のパーティーに誘われてしばらく行動を共にしてたんだ。フィオさんにもパーティーに入れって言われてたしな。そのパーティーは剣士、弓士、タンク、ヒーラーの4人で俺は魔法使いとして入った。ちなみに全員男ね、一応パーティーとしての動きとか弓士からは遠距離戦闘の心得みたいなのは教わったよ。で、加入して1月もすると向こうに遠慮がなくなって色々と雑用を押し付けられた。俺が強く拒否しなかったのもあるけど俺が彼らの希望通りじゃなかったのもあったらしい。ハンターになって1月で範囲殲滅魔法とか即死級の魔法なんて使えるわけないだろ。そこからはさんざん文句言われつつ雑用を押し付けられ分け前もどんどん減らされた。在籍は3月ほどだったけど最後の1月なんてあり得ない低予算でポーションや予備武器の手配をさせられた。2回くらいは自腹切ってなんとかしたけど続くと死ぬから考えたよ。

 薬屋や鍛冶屋に頭を下げて値下げ交渉をしたけどさっぱり。さして大きくないこの町にも何軒かある薬屋や鍛冶屋は全部回ったつもりだったけど気づかないもんだね、裏道を歩いてるときにばあちゃんの薬屋を見つけたんだ。藁にもすがる思いでばあちゃんに俺の現状を伝えて恥も捨てて懇願したよ。そしたらばあちゃんは材料になる薬草を持ってくれば値引きしてやるって言ってくれたんだ。天啓だと思ったね。これまでオフの日に個人で薬草を取ったり兎を狩ったりしてもギルドに納品したらいつもの割合であいつらに取られたからもうそんなことする気も失せてた。でもさ、こうやってギルドを通さずに直接やりとりすればあいつらにバレることなく稼ぐことができる。ばあちゃんはじいちゃんの鍛冶屋や他にもギルドを通さずにやりとりできる店をいくつも紹介してくれた。こういうのを裏引きって言うらしいけどそんなことはどうでもいい。ばあちゃんやじいちゃん、肉屋のおっさんから俺に必要なもの、なんで必要なのか、周期的に必要になるものなんかを聞いてオフのときにひたすら狩りと採取をしまくったよ。

 ここで本当にありがたかったのは「なんで必要なのか」ってやつだ。きっとばあちゃんはわざと教えてくれたんだけどこれって錬金術で薬を作るときのレシピなんだよね、レシピと薬の効果、さらに季節的な需要やこの町で必要な量と例年の供給量なんかも教えてくれたからほんと助かった。

 そうやって1月ほどあいつらの要求を満たしてやってたらこちらとしても愛想が尽きるっていうものだよ。最後には全額俺の自腹で用意しろとか、分け前を頭割りの1/5から1/10にするとか言い始めたから抜けることにしたんだ。

 5人パーティーで1/5なら均等だって思うだろ? でもそれはドロップアイテムの話で、それとは別に依頼料っていうものがある。ギルドでは「○○をいくつ納品したらいくら」っていう納品依頼や「○○を何匹倒したらいくら」っていう討伐依頼など何種類かの依頼っていうものがある。例えば「ゴブリンを10匹たおしたら銅貨100枚」という討伐依頼があるとして、15匹倒したとすると、10匹ぶんは依頼として銀貨1枚、5匹ぶんは通常納品として1匹銅貨5枚計算で銅貨25枚になるんだ。俺の取り分は最後の1月はこの依頼外の部分だけ。これの1/5だったのを1/10にするって言われたらもう無理だろ?


 そこからはお気楽おひとりさまハンターの出来上がりってわけだ。そんな俺がなんで生活できたかっていうと全部フィオさんのおかげだ。ひとり暮らしのフィオさんの家に居候させてもらってメシも食わせてもらってた。なけなしだけどお金を払おうとしたら「ハンターはお金がかかるから今は貯めておきなさい」って言ってくれてさ… ほんと涙が出るよ。ギルドの職員はハンターたちの分配に口出しすることはできないから俺の取り分についても知らないとは思う。フィオさんに分け前のことについて話さなかったのはあいつらの担当職員がめんどくさそうなやつだったから。偉そうだし態度でかいし、何か後ろ盾があるんだと思う。フィオさんが俺のせいで睨まれるのは望むところじゃないからね。今も家賃を受け取ってくれないから食材で物納してる。今日はオーク肉でシチューでも作ろう。少しでも喜んでくれたら嬉しいな。

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山田太郎の異世界生活 出水でみ @d3d3

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