山田太郎の異世界生活
出水でみ
第1話 ここは異世界
「あ、ティーロくんおかえりなさい。今日の狩りはどうでした?」
「フィオさん、俺は太郎です… 1人だと効率は悪いけど気楽ですね、こっちの方がいいかもです。」
このひとはフィオさん、ハンターギルドの受付嬢でいつもお世話になってるんだ。
「でもティーロくんの安全のためにはパーティーを組んでほしいのよね、1人だとやっぱり限界があるじゃない?」
「そうなんですけど、追放されたばっかだからそんな気にはなかなかね…」
「う〜ん… お姉さんとしては心配なのよ? 今日は無事かなって毎日考えてるんだから。」
「ありがとうございます、もう少し気持ちの整理ができたら考えてみますね。とりあえず今日のぶんの清算をしてもらっていいですか?」
俺は山田太郎。日本では高校1年だった。転勤族で仕事にしか興味のない父親と世間体にしか興味なくて年収とキャリアで相手を選んだ母親から生まれて、両親から愛情を向けられた覚えはない。かわいがってくれたのはじいちゃんとばあちゃんだけだったけど2人とも病気で相次いで亡くなった。
そのショックもあったのか高校の入学直前にインフルエンザに
その日はいつもより遅くまで勉強してて、図書館を出たらもう夜。暗い道を歩いていたら道路に飛び出した猫がいて…
お察しの通りトラック転生ってやつだ。いいのか悪いのか赤ん坊からではなくそのままの姿での転生だから厳密には転移なのか?
街道で放り出されたところを他の街のギルドでの会議に行った帰りのフィオさんに拾われてそのままハンターにっていうよくあるパターンだ。ハンターっていうのはこの世界での呼び方でネット小説なんかでは冒険者って呼ばれ方が多い。やってることはだいたい同じでモンスターを倒してドロップアイテムを回収して売却するのが収入源。
ハンターにはランクがあって子供のお使いレベルの本当に見習いのGランクから始まって、F、Eと上がるにつれてできることや要求されることが難しくなる。ハンターがハンターらしく生活できるのはEランクから、ここからはそれなりのモンスターの討伐が要求されるから楽ではない。ゴブリンなんかを倒せるようになれれば一応ここになる。
「ゴブリンの魔石が20個ね、銀貨1枚か大銅貨10枚かどっちがいい?」
「大銅貨でお願いします。」
「はーい、じゃあこれね。ちゃんと暗くなる前に戻って来てるからそこまで心配はしてないけど、無理はしないでね?」
「はいはい、心配ありがと。じゃあまた明日来ますね、お疲れ様です。」
この世界の貨幣は銅貨10枚で大銅貨1枚、大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で大銀貨1枚、大銀貨10枚で金貨1枚。その上もあるけど庶民には縁のないものだ。体感だけど銅貨1枚が100円くらいで、銀貨1枚が10,000円くらいかな。俺は日給10,000円イメージのDランクハンターだ。
それなりに稼いでるように見えるかもしれないけど家賃や食費、武器の維持や更新を考えるとけっこうカツカツなんだよ。カツカツでもこうしてモンスターを倒して生活が成り立つから本物のハンターはDランクからって言われるんだ。
さて、んじゃ残りを清算しに行くか。
ハンターギルドを出て向かった先は錬金術ギルド加盟の薬屋。錬金術っていうスキルを使って薬なんかを作っているところだ。薬は薬師が作っていると思っていたけどこの世界ではそんなことはなくてどんな薬も錬金術で作ってる。日本にあるような風邪薬にあたるものもここで作ってるけど何より驚いたのがポーションの存在だね。ポーションはゲームなんかでのイメージ通りに怪我を回復させてくれる薬なんだ。一瞬でっていうことはないけど自然治癒とは比較にならない速度で治るから初めて見たときは気持ち悪かったな…
「こんにちはー。」
「いらっしゃい、おやティーロじゃないか。今日はどうしたんだい?」
「ばあちゃん、俺はティーロじゃなくて太郎だよ。ヒエヒエ草とちょっと面白いものが手に入ったから持ってきたんだけど買い取ってもらえるかな?」
「ヒエヒエ草かい、そろそろ必要な時期だから助かるよ。それと…面白いものねぇ、ちょっとお待ちよ、表の看板を下げて来るから。」
「それは俺がやるよ、それにばあちゃんは腰を傷めたんだろ? ヒエヒエ草はそれに使うぶんは俺からの日頃のお礼ってことで査定から抜いといてよ。」
「まったくこの子は… 看板は頼んだよ。」
「それで、何が手に入ったんだい?」
店を閉めてばあちゃんが淹れてくれたお茶をもらい、俺は今日の戦利品を取り出す。
「これだよ、オークの睾丸。最近なかなか出回らないって言ってたろ? ちょうど手に入ったからばあちゃんに回そうと思ってね。」
「こいつは… ティーロ、あんたこれをハンターギルドに出せばCランクに上がれるだろうし錬金術ギルドに出したらあたしに売るより高く買い取ってくれると思うよ?」
「そうかもしれないけどばあちゃんにヒエヒエ草を渡すついでだから気にしないでよ。それにばあちゃんだって買い叩いたりはしないだろ?」
「もちろんさね、でも色はつけてやれないよ?」
「いいって、世話になってるからそのお返しってことでね。あとこれ少ないけどオークの肉ね、これ食って早く腰治しなよ。」
オークの睾丸は精力剤の材料になるんだ。この精力剤は領主とかの貴族か大商人しか手が届かない金額で取り引きされるからばあちゃんにはいい収入になるはずだ。腰を傷めて数を作れないからそのぶんを補えればいいよな。
次に訪ねたのは鍛冶屋。ここのじいちゃんにも世話になってるんだ。
「こんにちはー。」
「あぁ、ん? ティーロか、よく来たな。悪いが例のものはまだ時間がかかりそうじゃ。お前さんの説明で作り方はわかったんじゃがなかなか納得がいかんくてな。」
ここは鍛冶工房と店が別れておらず受付の奥に工房が見える。ここに来るとじいちゃんが鍛冶してるとこをいつまでも見ていられて俺は好きなんだ。
「急かすつもりはないよ。じいちゃんが楽しんで作ってくれたらそれでいいから。これ、オークの牙なんだけど買い取りできる?」
「ほぅ… お前さんはまだDランクじゃよな? それが1人でオークの牙を3本もなぁ、これはハンターギルドに出せばランクも上がるじゃろうに…」
「ばあちゃんに睾丸を渡したときにも同じことを言われたよ。でもいいんだ、じいちゃんとばあちゃんが喜んでくれるならランクはある程度あればそれでいいよ。」
「お前さんは欲がないのぉ、それで今使っておる剣はどうじゃ? 東の方から流れてきたもんじゃがなかなか悪くないと思うんじゃが。」
「うん、モノとしては悪くないけどしっくりは来ないね。こういうのははっきり言った方がいいんだよね?」
「ふむ… お前さんの希望とは違うからのぅ、それはそうとパーティーは組まんのか? 今以上に稼ぐなら1人のままはきつかろうて。」
「信用できそうなやつがいれば考えるよ。」
「ふむ… 前にお前と組んでたやつらじゃがな、思った通りじゃったわ。」
「あぁー… やっぱりか、大丈夫だった?」
「うむ、使ぅとる武器を見たがあれでは駄目じゃ。手入れがなっとらん。適当なことを言って追い返してやったわ。」
「じいちゃんらしいね。ばあちゃんにオークの肉を渡してるから今晩はしっかり食ってよ。」
「いつもすまんな、お前さんの剣は最高に仕上げるからもうしばらく待っててくれよ。」
「はいよ、んじゃまた寄らせてもらうね。」
そう言ってじいちゃんの鍛冶屋を後にする。
じいちゃんとばあちゃんは夫婦でそれぞれの仕事を持ってるんだ。俺がこの世界に来て半年、2人には本当に世話になったよ。
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