第13話 潮時
ルイさんを見送ったところでマギさんに呼び止められた。まぁ、聞こえてるだろうけどさ。
「ねぇ、本当にティーロくんは不合格だったの? ありえないでしょう? 試験中にオーガ3匹にオーガウォーリアー1匹よね? 昇格条件のオーガ3匹よりよっぽど難易度高いわよ? それにさっきの子はおかしな報告なんてきっとしないわ。」
「俺もそう思うけど結果は結果だから… あ、フィオさんを責めたりしないでよね? フィオさんのせいとかじゃないんだから。」
「もちろんよぉ〜 でもぉ… 今のギルドはちょぉ〜っと感じ悪いわよねぇ〜」
「うん、それは俺も思ってる。だから… うん、マギさんには先に言っておくね。俺はこの町を出ようと思ってる。ここを出てどこかもっと住みやすいところに行こうかなって…」
わかってる。これは裏切りだ、日本からこの世界に来て、右も左もわからないところを拾ってここまで養ってくれたフィオさん。稼ぎが足りなくて、でもなんとかポーションの補給や武器の整備をしなきゃいけないときに助けてくれたじいちゃんとばあちゃん。金がないのに食わせてくれて、この世界のことや魔法の効率的な使い方やオリジナル魔法の作り方のアドバイスをしてくれたマギさん。みんなこの町の住人だ…
みんなに恩返しをする前にこの町を出ようとするなんて… 厚顔無恥なのはわかってる、でもこのままこの町にいたら、このままみんなとの付き合いがあったら… きっとみんなにも迷惑がかかる。ああいうやつらって周りにも嫌がらせをするから…
「うん、いいと思うわ。ジークハルトたちには私から言っておくわね。どこに行くかみんなで考えましょ?」
「え? マギさん?」
「フィオちゃんにはティーロくんから伝えてね〜、明日のお昼にこの店に集合よぉ〜。」
「え? え? だってみんなこの町の…」
「あら? 私たちそれなりにこの町に長いけどここで生まれたわけじゃないしぃ〜、ティーロくんについて行くわよぉ?」
この人はなにを言っているんだ…?
俺についてくる? え? ほんとに? なんで…? いいの?
「あの、ほんとについてくるの…? ついてきてくれるの…?」
「当たり前じゃな〜い。私たちにとっての生きがいはティーロくんだし〜、ティーロくんを
そ、そこまで…? なんかすごいこと言われてるけど、え…? 俺が生きがい…?
「ふふっ、自分ではわからないかもしれないけどぉ〜、私たちはティーロくんといるとほんとぉ〜に楽しいの、引っ越しなんてなんてことないわよぉ〜。」
「でも、お客さんとかいるんじゃ…」
「ティーロくんは優しいわねぇ〜、でも私たちのお客さんはねぇ〜、この町のひとたちじゃないのよぉ〜。だから問題はないの〜。」
3人ともすごいひとだとは思ってたけどお客さんがこの町のひとじゃない…? もしかしてよそから来てる…!? それってものすごいことなんじゃ…?
「ふふっ、私たちのことはおいおい教えてあげるわぁ〜。大事なのはぁ〜ティーロくんが私たちと一緒にいたいかどうかよぉ〜?」
「そんなの決まってるよ! マギさん、俺と一緒に来てください! まだまだ半人前だからもっとマギさんの魔法を教えてほしいしもっとマギさんと色々料理したい!」
「あらあらぁ〜? まるでプロポーズみたいねぇ〜、そんなこと言われたら照れちゃうわぁ〜。」
「あ、ご、ごめんなさい! 失礼だよね、でもほんとにそう思ってるから…」
俺みたいなのがプロポーズなんてしちゃダメだ… 俺はこの世界にとっては異物だから…
「ふふっ、若いうちはしっかり悩みなさい? それにプロポーズするなら先にフィオちゃんにしてあげなさいねぇ〜。」
「え…? 先にって…?」
「そこから先は自分で、ね? 今夜はフィオちゃんとよく話し合うのよぉ〜、なんで移籍したいのか、移籍してどうしたいのか、それをはっきり伝えてあげなさいねぇ〜。」
そう言われて帰されたんだけどなんかもやもやする… 移籍したいのは俺のワガママだからそれにみんなを巻き込むわけにはいかない、でもマギさんはついて来てくれるって言ってた。あの口ぶりだとじいちゃんとばあちゃんもそのつもり…? ならフィオさんは…?
フィオさんはこの町のギルドの職員だよ。それが移籍だの引っ越しだのできるのか…? 普通ならありえないよな…
でもちょっと期待しちゃった… いやダメだ。俺の都合にフィオさんを巻き込むなんてできないよ… でもこれまで一緒にいてくれて、いつも励ましてくれて、優しくしてくれて、フィオさんと… 離れたくないよ…
Side フィオ
どうなってるのよ、私はちゃんと手順通りに処理したわよ。昨日の試験中の魔石についてはただ規定違反しての着服だけどその後のオーガの魔石3個はどうなってるのよ。なかったことになってる…?
ハンターたちの履歴を確認してみたけど嘘よね…? なんで…? どうしてこんなことができるの…?
そんなにティーロくんに恨みでもあるの…?
なんで元メンバーたちがオーガを狩ったことになってるの?
昨日はギルドに来てもいなかったのに。それも報告をしたのが昨日の昼過ぎ? 来てないわよ… 昼過ぎはティーロくんが報告に来た時間帯じゃない。しかもこの処理って主任じゃなくて副支部長の承認を取ってる… つまり副支部長もグルってわけね。
はぁ… ここが潮時かしらね。もうついて行けないわ。
作者です
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