第12話 試験結果




「ただいまー! ティーロくんごめんね、まだ結果が出ないみたいで明日ギルドに行ってもらっていいかしら…?」

「おかえり。うん、いいよ。そんなことより晩御飯にしよ? 早く手を洗ってきてね。」


 ま、想像通りかな。あとは最悪にならないことを祈るよ。


「ふぁ〜! 美味しい! これすっごく美味しいよ! こんなふかふかの柔らかいパンは初めてだし、このお肉も美味しい!」

「よかったー、今日の狩りでオークメイジの肉が取れたからね。脂身も美味しく食べられるのはこれかなって思ったんだ。」

「うんうん! あ、でも、こんなに美味しいと食べすぎちゃう… ここのところティーロくんの美味しいご飯が続いてるから…」

「あ、ごめん。フィオさんが美味しそうに食べてくれるからつい張り切っちゃった。これからは美味しいけどお肉が付きにくいものを考えるね!」


 とは言うけど、フィオさんぜんぜん太ってないからなぁ… 見てるこっちはわからないけど女の人は自分でわかるのかな?


「ご、ごめんね… 手間をかけて…」

「いいよいいよ。俺はフィオさんが美味しそうに食べてくれるのを見るの好きなんだ。大げさかもしれないけど生きててよかったなって思えるんだ。」

「ティーロくん…」

「え? ふわっ!?」


 フィオさんにいきなり抱きしめられた!? 待って、待って!? 当たってる! 色々当たってるから!


「私もね、ティーロくんが笑顔でいてくれるだけで生きててよかったって思うのよ。ギルドで聞いてると思うけど私たち魔人族はこの国だと差別されててね、汚いものみたいな扱いをされてるの。でもティーロくんは違ったわ、初めて会ったときからずっと変わらない。私をそういう目で見ない… だからね、私はティーロくんのことが大好きよ。」

「うん… 俺もフィオさんのこと大好きだよ。だからこれからもいっぱい食べてね!」

「ふふふっ、もぅ!」




 えっと… なにもないからね? 俺にとってフィオさんは大切な人で、恩人だから、そういうことはしないからね!




「あの、もう一度言ってもらえますか? ティーロくんの試験の結果は?」

「何度言っても変わらん、不合格だ。」

「理由を! 理由を教えてください!」

「簡単なことだ、条件未達成だからだ。」

「そんな!!」

「フィオさん、もういいからそのへんにして。それで、未達成と言うなら昨日提出した魔石は返してもらえるんですよね?」

「馬鹿なことを言うな。試験での魔石は狩りに同行した試験官への報酬に充てることになっている。」

「そうですか、ならそれとは別に提出したオーガの魔石3個は返してもらえるんですよね?」

「そんなのはしらん。理解したならさっさとどこかへ行ってくれないか? 俺も暇ではない。」

「そうですか、では失礼します。フィオさん、行こう。」



 やっぱりこうなったよ。

 結果通知はギルドの面談室。ここには俺と俺の担当のフィオさん、元メンバーの担当職員と副支部長の4人で行われた。元メンバーの担当職員がここにいる理由は受け付け職員の主任かなにかで試験の責任者扱いなんだってさ。まぁ、これくらいは想定の範囲内。でも追加で出した魔石まで持っていくとはね。ということは俺のハンターとしての経歴からオーガを倒したことを消したいんだろうね。



「ごめんなさい… きっと私のせいだわ… ティーロくん… 本当にごめんなさい…」

「フィオさんのせいじゃないよ。でもちょっと嫌な気分だね、今後のことを話したいから今日は早く帰ってきて? あとあの2人にこれ以上食ってかかったりしないでよ。フィオさんの立場を悪くしたくないから。わかった?」

「うん… ほんとごめんなさい…」




 はぁ… こうなると思ってたよ。元いたパーティーのリーダーってあの職員の弟なんだよね。その弟より俺が先にBランクになんてさせないってことでしょ。たぶんあのオーガの魔石も弟に流してるんだと思う。


「あ、ティーロくん。昨日はお疲れさま。結果はどうだった?」

「あ! 試験官の… すみません、このあと少し時間をもらえませんか?」

「かまわないよ、今日はオフにしてるしね。」

「では場所を変えましょう。」




 と言っても行き先はいつもの魔女の大鍋なんだけどね。


「マギさん、ちょっと場所を貸してもらえませんか?」

「あら… えぇ、いいわよ。奥の個室を使って? お茶だけ出してあげるわ。」

「なっ!? ティーロくん!? ここってもしかして…?」

「うん? 魔女の大鍋ですけど?」

「そんな軽く!? ここの店主がどれほどの方か知らないのか!?」

「えっと…?」

「おまたせ〜 はい、ティーロくんが教えてくれた〜コーヒーよ〜。こっちのあなたのは〜ミルクを入れて〜飲みやすくしておいたわ〜。お代は〜ティーロくんからもらうから〜ゆっくりしていってね〜(余計なことを言うと消すわよ〜)」

「はっはい! ちょうだいします!」


 マギさんのコーヒー美味しいんだよなぁ、料理全般もなんだけど。教えた俺よりすぐに美味しく作っちゃうから立つ瀬がないんだよね…




「それで… 話したいことってなんだろう? 君ほどのハンターがオレに相談することなんてあるかな?」

「はい… あ、その前に… 今更なんですがお名前を聞いてもいいですか? 昨日は聞きそびれてまして…」

「そうだったね。オレはルイ。魔法使いでBランクハンターだよ。」

「ありがとうございます。俺はティーロです。魔法使いと剣士をしてます。それで、試験のことなのですが…」

「そうそう、礼儀作法の試験はいつになったんだい? 2〜3日うちにやると思うけど。」

「いえ、礼儀作法の試験はありません。不合格でしたから。」

「うん? すまないがもう1回言ってくれるか? 不合格と聞こえたが?」

「はい、不合格だそうです。昨日取ったオーガとオーガウォーリアーの魔石は試験費用として徴収、帰りにお世話になってる担当の職員さんに昇格条件ぶんのオーガの魔石を3個渡したんですがそれはなかったことにされました。」

「はぁ!? ありえないだろ! 試験のときに取った魔石だって換金して必要額を引いた残りはくれるものだよ!? それにオーガの魔石3個をなかったこと!? 冗談じゃないよ!!」


 あ、あれ? 俺よりずっと怒ってる…?


「あの、必要額っていうのは…?」

「あぁ、それはね。俺たち試験官への報酬と事務手数料だよ。これは規定があって、銀貨5枚をその試験で討伐した魔石の代金から引くことになってるんだ。だから君は昨日の試験の後にオーガのもので大銀貨3枚、オーガウォーリアーは今の相場だと大銀貨1枚と銀貨3枚のはずだから、合わせて銀貨で43枚。そこから試験費用の銀貨5枚を引いた38枚を受け取れるはずなんだよ? もちろん後から渡したっていうのは全額受け取れる。」


 えっと…? 銅貨が100円くらいだから銀貨が1万円だろ… ってことは68万? うわぁ…


「わかるかい? こんなことをされて黙っていられるわけがないだろ!」

「俺の代わりに怒ってくれてありがとうございます。でもこれはいいです。こんなことよりルイさんにはお願いしたいことがあります。」

「うん? 一緒に抗議してほしかったんじゃないのかい?」

「はい、大銀貨3枚なんてすぐ稼げますからいいです。それよりお願いがあります。」

「大銀貨3枚がすぐ… はは… この店に来れるんならそれくらいはすぐか… それで? オレに頼みたいことってなんだい?」


 大銀貨ねぇ、じいちゃんとばあちゃんに素材を渡したらすぐなんだよね。でもよく考えたら俺が渡したぶんを全部あの2人で加工できるわけないよね。ってことはどこかに流してるんだと思う。余談だけどね。


「ルイさんは見たところとてもしっかりされています。今回の報告書も写本くらい取っていると思うのですが。」

「なるほどね、写本がほしいってことか。今日中に用意して明日の朝には渡せるようにしよう。」

「話が早くて助かります、試験官がルイさんで良かったです。」

「え…? なんでオレが試験官だと…?」

「俺がルイさんをギルドで見かけたのは3回、毎回メンバーが違いましたし試験のときのメンバーもこれまでとは違う人でしたからね。」





作者です


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