第11話 マギさんとランチ



 うーん、なんか試験官の短剣魔法使いさんにはやたら評価されてるんだけどどうなんだ? 上にいけるって言われてもねぇ、そりゃ実力的には余裕でBランクあると思うけど受かるとは限らないからね。自己評価が低いってわけじゃなくてギルドを信用してないだけだよ。


「フィオさんただいま、きっちり狩って来たよ。怪我もしてないから安心してね。」

「ティーロくん! よかったぁ… オーガなんて森の奥にいるのによくこんなに早く帰ってこれたわね?」

「あぁ、そこは色々ね。俺はこのあとどうしたらいいのかな?」

「えっと… オーガの魔石の提出をお願いします。これまで討伐報告はしたことないから3個あると助かるんだけど…」

「わかった。これが今日のぶんで、あとこっちがオーガの魔石3個ね。」

「はい、オーガの魔石が3個と今日の3個にこれは… オーガウォーリアー!?」

「うん、試験官パーティーから報告があると思うけどオーガ3匹とオーガウォーリアー1匹倒してきたよ。」

「うそ… ソロよね…?」

「もちろん。最近は誰とも組んでないの知ってるでしょ?」


 普通はパーティーでオーガを討伐して、個別に礼儀作法を見てパーティーランクとして試験をする。Bランクパーティーのメンバーが個人のランクとして上げたかったら模擬戦で試験をするんだっけ? 普通はパーティーとしてのランクで判断するから個人ランクってあんまり気にしないんだったかな。メンバーが変わるときは過半数が残るならランクは維持で、逆なら再試験とか、入るメンバーの実績で見るとか色々あるはず。


 とりあえず俺はソロパーティーとしてと同時に個人としてのランクを上げるために試験を受けたことになる。


「えっと… 報告書を確認してから礼儀作法の試験になるわ。今日中に結果が出れば私が帰るときに教えるってことでいい?」

「それでいいよ。さすがにちょっと疲れたからあとは町の中にいるね。晩御飯作って待ってるから。」

「うん、いつもありがとう。」




 さて、まだ昼過ぎか。マギさんとこで軽く食べて晩御飯作ろうかな。オークメイジはどうしようかな… いい脂身だからそこも食えるものにしたいよね。




「こんちはー、マギさんいるー?」

「ティーロくん? いるわよ〜、入ってらっしゃ〜い。」


 マギさんの食堂「魔女の大鍋」ではどんなに混んでいても俺の席は用意してくれてる。何回も止めるように言っても聞いてくれないならもう諦めてるよ…


「今日はどうしたの? 」

「狩りに行って来たんだけどお昼を食べ損ねちゃってさ、マギさんならなにか食べさせてくれるかなって… お願いできる?」

「もちろんいいわよ〜、でも簡単なものになっちゃうけど…」

「ありがと。あと、ちょっと新作やりたいから手伝ってもらっていい?」



 マギさんは簡単なものって言いながらかなり美味しい昼ごはんを作ってくれたよ。でもなぁ… パンばっかりで正直なところ少し飽きてきてるんだよね。半年ずーーっとパンパンパン… 小麦しかないならせめて麺とか食べたいよね。そう思いながら自分でもやらないからダメなのかもね、こんどやってみようかな…



「それで、今日はどんなものを作るの?」

「さっきオークメイジの肉がドロップしたから角煮にしようと思ってるよ、それをカーパオっていう蒸しパンで包もうと思うんだけど蒸し器ってある?」

「角煮? カーパオ? 蒸し器? どれも聞いたことがないわねぇ…」

「あちゃー… どうしようかな… もう作る気食べる気になってるんだよなぁ… そうだ! マギさん、申し訳ないんだけど鍋を1個潰してもいいかな? 加工したいんだけど…」

「好きなのを使ってちょうだい。私の持ち物は全部ティーロくんにあげるものだもの。」


 あ、あれ? ちょっと重いことを言われたような… でもいいか、やっちゃお。

 大きめの鍋とそれにすっぽり入るサイズの鍋を用意して、小さい方に魔力を通す。何段も重ねるタイプの蒸し器はさすがにやめといて、水を張った鍋に入れるタイプにしよう。これなら大きい鍋は加工しないで済むしね。土魔法の応用で金属を操作して形を変えていく。ポツポツと穴が空いてて縁の立ち上がった皿みたいな形に成形する、ちゃんと持ち手もつけて完成かな。これを逆さにして鍋に入れれば蒸し器になるわけだ。


「はぁ〜… すごいわ、惚れ惚れする魔力制御ねぇ、土魔法でここまで金属操作ができる魔法使いなんてなかなかいないわよぉ。これが蒸し器になるの?」

「そうなんだ? じいちゃんの鍛冶を見ててざっくりした成形なら魔法でいけそうだなって思ったんだ。水を張った鍋にこれを逆さに入れると、この上に乗せたものに蒸気で熱が入るよね? その調理方法を蒸すって言うんだよ。カーパオは蒸しパンだよ、サンドイッチみたいに具材を挟んで食べるんだ。」



 調理過程は簡単に、醤油はまだ作れてないから味噌とジンジャの根、香辛料も足りないからチリの実を少し、砂糖もないからハチミツを使ってオークメイジの肉を角煮にしていく。

 カーパオは小麦粉、塩、ハチミツ、水をこねて、光魔法で発酵を促進。

 角煮がいい感じに煮えてきたタイミングで発酵もいい感じ。成形して蒸していこう。角の丸いひし形みたいにして2つに折りたたむ。このとき軽く油を塗っておくとくっつきすぎなくて挟みやすくなるんだ。



「はい、これで完成だね。角煮と一緒に野菜を入れても美味しいよ。今は試食だからはんぶんこしよ?」

「ティーロくんとはんぶんこ… うん! 挟むのは私がやってみてもいいかしら?」

「うん、お願いします。そう、そうやって開いて…」

「できたっ! 半分にちぎるわね? はい、こっちはティーロくんね、いただきまーすっ。」


 うん、ほんとは醤油味でやりたかったけどこれはこれでありかな。チンゲンサイを一緒に挟んだりしたいなぁ…


「はふはふっ、美味しい! パンも普通のと違って柔らかくて甘くて美味しいわね、このパンってこれからうちで作ってもいいかしら…?」

「もちろんいいよ! でもこねるのに力がいるからマギさんで大丈夫?」

「そこは魔法でどうにかするわ、パンを仕入れるより安く作れて高く売れそうだしね!」

「それはハチミツの値段次第かな? 俺がハニービーのハチミツなら取ってこれるけどそこまで安定して確保はできないと思うよ?」

「う… 確かにそうねぇ… なら取れたときの特別メニューにしようかしら。これからもお願いするわね?」

「もちろんいいよ、マギさんに頼まれたら断る理由なんてないからね!」


 ただ、今回の試験結果によっては… ね。

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