あとがき
『理系の夫、主夫になる』は2019年にわたしが書き上げたものです。
作中で主人公の
この作品はあくまでノンフィクションではありません。自分の今までの人生を参考に、その頃の日常で感じたことと、自分の今後の可能性の一つとしての『if』を掛け合わせて小説としてまとめたものです。
そして、2024年4月を現実に迎えまして、実際の自分がどうしているかということですが……。
わたしは主夫になることにしました。
この作品を書いているときは、本当に主夫になろうとは思っていませんでした。
あくまで、可能性として、こういう考え方も今の時代ありじゃないかと考えて書いたのです。むしろ『if』のつもりでなければ、小説にしようとはしなかった気がします。
作中と同じ考えはもちろんありますが、それだけではありません。
仕事面、職場での変化というのも理由の一つとして存在しています。
しかし、主夫になることを決意するに至った決定的な事件があったのです。
それは2023年半ばだったと思います。
わたしは、下の子をベッドに投げつけてしまったのです。
上の子(今後は作中に合わせて虎徹とさせていただきます)が2023年から本格的にあるスポーツのクラブチームみたいなものに入りました。すると、平日も週2回、学校が終わってから練習があったり、週末は練習と試合があったりと大忙しになりました。
もちろん夫婦協力して動くのですが、家のことがおろそかになっていきました。
単純に時間がないのです。
そして、家のことであればまだよいのですが、下の子(今後は作中に合わせて忍とさせていただきます)に時間と手を掛けてやることもできなくなりました。
わたし自身も仕事が溜まりながらも残業が出来なかったりしますし、奥さんにしてもそうだったと思います。忍は自分がやるわけではないのに、虎徹の練習に連れていかれるし、休みの日だって忍のしたいことをさせたり、行きたいところに連れて行ってやることが出来ませんでした。もともと、虎徹が融通の利かないところもあり、その分、弟の忍に譲ってもらうということも度々ありました。
忍は、時折そういったストレスからか、感情を爆発させることがありました。
大体眠くなった頃に感情の制御ができなくなるので、『風呂に入るよ』『歯を磨きなさい』『寝なさい』そういったことに「嫌だ!」としか反応しなくなるのです。
何を言っても「嫌だ!」
だったら好きにしなさいと言っても「嫌だ!」
じゃあどうしたいのと言っても「嫌だ!」
こうなるともう親も怒り散らして、子供も泣きわめいて、行きつくところまで行きつかなければ落ちつくことはないのです。しかし、手を上げるようなことはありませんでした。
でも、その時は違いました。
忍が「嫌だ」の癇癪を起したとき、わたしにはすべて聞こえた気がしたのです。
「嫌だ!」(いつも兄ちゃんばっかり!)
「嫌だ!」(僕だってやりたいことがあるのに)
「嫌だ!」(僕だってママに甘えたいのに!)
わたしは冷静ではいられず、忍を抱えてベッドまで連れていき、投げつけました。
頭ではやってはいけないことだと分かっていました。
だから、首を痛めないように首を支えながら、
勢いも少しゆっくりではありますし、
投げつけると言っても、強めにベッドに下ろしたと言った方が、正しい表現かもしれません。
しかし、わたしには叩きつけてやるという明確な意思がありました。
そして、心の中で叫んでいました。
『これ以上、俺に一体どうしろというんだ!』
もういっぱいいっぱいだったのです。
仕事も、家事も、子育ても、すべて自分のやれることはやろうと頑張っているのに、子供は言うことを聞いてくれない。
忍に、分からせたかったのです。
奥さんもわたしを追って来て「ダメ!!」と大声で制止しましたが、わたしはその行動を止めませんでした。
忍は、
「パパこわい、パパ怖い……」
そう繰り返していました。
わたしはすぐに我に返り、忍を抱き、
「ごめん、本当にごめん、パパが悪い。ごめん……」
そう繰り返しました。
忍は、
「うん、うん……」
そう頷いてくれました。
そして、わたしは隣にいた奥さんに告げました。
「ごめん、俺、仕事辞める……」
奥さんも頷いてくれました。
子供に手をあげ、傷つけてまで、どうして働く意味があるのだろうか?
わたしのなりたかった父親像は、そんなものではなかったはずだ。
わたしは、何でも許してくれた自分の母親のような親になりたかったのだ。
いまは、時間が必要だと思いました。
虎徹のやりたいことをやらしてあげたい。
忍にも、忍の好きなことをやらしてあげたい。
それは、今しかできない。
翌日には職場で話をして、2023年度いっぱいで仕事を辞めさせてもらうことにしました。
実際は、人員補充と、その指導の必要性もありましたので、2024年度もしばらくはパート職員として勤めますが、夏休み前には辞めることになっています。
まったく、このようなストーリーを思い描いてはいませんでした。
作品では、綺麗にまとめて終わっていますが、実際はこんな感じになってしまいました。作中での主人公の気づきは、間違いなく自分の気づきではあり、子供たちともうまくやっていけるはずだったのですが、このような余裕のない状況に陥ってしまうことは、想像できていませんでした。『事実は、小説よりも……』というやつでしょうか。
子供たちにも父親であるわたしが仕事を辞めることを告げると、虎徹にしても忍にしても、不思議と落ち着いていきました。
年齢的な成長もあるのでしょうが、やはりこちらの行動から、彼らに思いが届いたのだと感じます。
パパが、自分たちのために仕事を辞めるんだと。
と、いうわけで、わたしは主夫になりました。
もちろん、状況が落ち着けば仕事を再開したいとは思いますし、また今の仕事でやりたいこともあり、やれることは空き時間でやっていこうという考えもあります。
そして、このように趣味としての物書きも継続していきたいと思っています。
今後がどのようになっていくかは、全く分からない状況です。
それでも、あくまで子供たちの状況が最優先の基準であることは間違いないでしょう。
これにて『理系の夫、主夫になる』お話は本当の終わりとなり、これから主夫となった男と、その家族の物語が始まっていきます。それを作品にする気はさらさらないですが。
まずは、料理のレパートリーを増やすこと、部屋を綺麗に片付けること、家計簿をつけることなど頑張っていきたいと思っていますよ。ぼちぼちとね。
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