理系の夫、主夫になる。
マサムネ
プロローグ
「準備できたかー?」
サンルームで洗濯物を干しながら、僕は子供たちに声をかけた。
「うん、できたよ」
「できた!」
長男の
「「行ってきまーす」」
重なり合った二人の声。
玄関を出たところで、二人仲良く手を繋ぎながら、サンルームにいる僕を見て手を振っている。
「おう、行ってらっしゃい」
僕の声を聞いてから、二人は小学校に向かって出発する。弟の手を引く兄の姿は頼もしかった。
「私も、もう行くねー」
洗面所から化粧を終えて出てきた奥さんは、そのまま急ぎ足で鞄を持って玄関に向かっていった。
「ああ」
洗濯物を干し終えた僕は、その背中を追いかけた。
「行ってらっしゃい」
玄関の扉を開けようとしている奥さんに声をかける。
「うん、行ってきます」
奥さんは急ぎながらも、振り返ってそう答えてから、玄関を出て行った。
二〇二四年、四月。
僕は、専業主夫をしていた。
いまから語る物語は、何の変哲もない物語だ。
ドラマのような特別なことは起きず、映画のようなスペクタクルな出来事もない。
取るに足らない物語だ。
でも、いま僕が専業主夫をしているなんて、将来の進路について悩んでいた高校時代の自分には、想像できなかっただろう。
そこに至るまでの思考や展開、行動と結果は、僕にとっては想像以上にドラマティックだった。
自分の意思があっても、思い通りの筋書きにはならず、外力に翻弄されながら、ただそのときに伸ばした手と、掴まった枝、その瞬間の決定の連続が織りなしたくせに、一見何の変哲もない物語。
興味のない人には、とことんどうでもいい話。
でも、これは、人ひとりの人生観が、確かに変わった物語だ。
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