不思議なレストラン

 算数の嫌いな男の子がいましたとさ。

 わがままばかりの男の子がいましたとさ。

 いつも好き嫌いばかりで、にんじん、きのこにたけのこも、みんな嫌いの大嫌い。

 ある日その子のお母さん、知恵を絞って一工夫。

 にんじん、きのこにたけのこも、細かく刻んで春巻きに。

 けれど一口食べてみて、中身が出てきた大騒ぎ。

 慌ててその子は逃げ出した。

 逃げた先は公園だ。

 不思議なテントを見つけたよ。

 おっかなびっくり入ってみれば、そこは不思議なレストラン。

 世界で一つしかないレストラン。

 世界で一番おいしいレストラン。

 世界で最後のレストラン。

 メニューは一番嫌いなものだけ、春巻き出てきた、さあどうしよう。

 でもでも、におうよいい香り。

 よだれが出てきた、おいしそう。

 勇気を出して、食べてみた。

 あらあら不思議、なんておいしい春巻きだ。

 にんじん、きのこにたけのこも、みんなおいしいほっぺが落ちる。

 たちまち大好物に早変わり。

 もっとちょうだいコックさん。

 ぼく、春巻き大好きなの。

 でもね、おかわり禁止だとさ。

 それがここのレストラン。

 不思議な不思議なレストラン。

 食べたきゃ、おうちで食べといで。

 そこで家に帰った男の子。

 お母さんの春巻き楽しみにして。

 お母さん、さっきはごめんなさい。

 にんじん、きのこにたけのこたっぷり、おいしいおいしい、お母さんの春巻き食べさせて。

 ところがお母さんは首を傾げた。

 それより坊や、今夜はあなたの好きなハンバーグ。

 ひき肉ジューシー、お肉いっぱいのハンバーグ。

 お母さん、春巻きはどこにいったの?

 ぼく春巻きが食べたいよ。

 にんじん、きのこにたけのこたっぷり、世界で一番おいしい、お母さんの春巻きが食べたい。

 でも、お母さんは答えましたとさ。

 おやおや。春巻きって何かしら?

 にんじん、きのこにたけのこも、聞いたことない食べ物ね。

 さっきまでそこにあった春巻き。

 にんじん、きのこにたけのこたっぷり、世界で一番おいしい、ぼくの大好きなお母さんの春巻き。

 消えちゃった。

 消えちゃった。

 世界から消えちゃった。

 全部消えてなくなっちゃった。

 誰に聞いても知らないよ。

 誰も食べたことないよ。

 春巻きなあに?にんじんなあに?きのこって、なに?たけのこ知らない。

 どこにもなくなっちゃった。

 誰も知らなくなっちゃった。

 男の子は探したレストラン。

 でも見つからないよ、見つからない。

 どこを探しても見つからない。

 どこかに消えちゃった。

 なくなっちゃった。

 最後のレストラン。

 不思議な不思議なレストラン。


 世界で一番おいしいレストラン。

 一番嫌いなレストラン。

 漢字が苦手な女の子。

 わがままばかりの女の子。

 お魚嫌い、見るのも嫌い。

 くさい、怖い、気持ち悪い。

 お魚なんて、大嫌い。

 そこでママは考えた。

 お料理上手のママにおまかせよ。

 お魚すり潰してお団子に。

 でも、女の子にバレちゃった。

 全部すっかりバレちゃった。

 ママの嘘つき、これはお魚よ。

 わたしがお魚嫌いって知ってるのに。

 ママなんて大嫌い!

 女の子は家出した。

 海に向かって家出した。

 たどり着いたは海のほとり。

 不思議なレストランを見つけたよ。

 不思議なコックさん現れて、不思議な料理を持ってきた。

 クンクンにおうよ、いい香り。

 これはわたしの大好きな、大好きなママのカレーにオムライス。

 冷やしたトマトのサラダ。

 お料理上手なママの味。

 ママが作るとなんでもおいしい。

 ママのお料理はやっぱり世界一。

 女の子は満足して家に帰った。

 ところがママはその日から、ごはんを作らなくなっちゃった。

 ごはんって、なにかしら?

 お料理って、なにかしら?

 大好きなママのカレーにオムライス。

 冷やしたトマトのサラダ。

 食べられなくなっちゃった。

 食べられなくなっちゃった。

 女の子は探したレストラン。

 海のほとりでキョロキョロキョロ。

 でもどこにも見当たらない。

 どこかに消えちゃった。

 どこにもなくなっちゃった。

 もう二度と行けないレストラン。

 もう二度と食べられない、大好きな大好きなママの味。


 世界で一番いばっている王様。

 世界で一番わがままな王様。

 世界で一番不幸な国の王様。

 世界中のコックさんを呼び寄せた。

 世界で一番グルメな、このわしの口に合う料理を作れなければ、縛り首。

 不思議なコックさん申し出た。

 わたしが作りましょう。

 世界で一番おいしい料理を。

 それには、王様の一番嫌いなものを教えてください。

 王様はいった。

 わしの一番嫌いなもの。

 それは仕事のできない家来。

 生意気な口を聞く青二才。

 不思議なコックさん、たちまち料理を用意した。

 味のないスープに、味のないサラダ。

 味のないお肉に、味のないパン。

 まずい、まずい、なんてまずい。

 これは世界一まずい食べ物だ。

 怒った王様は家来に命令した。

 こいつを牢屋に入れておけ。

 明日の朝には縛り首だ。

 だけど家来は見当たらない。

 一人の家来も見当たらない。

 王様の嫌いなもの、全部消えた。

 家来はみんないなくなっちゃった。

 誰もいなくなっちゃった。

 王様は一人ぼっち。

 一人ではなにもできない一人ぼっち。

 お腹ペコペコ、喉はカラカラ。

 ごはんを作ってくれる人は誰もいない。

 お世話をしてくれる、家来は誰もいない。

 困った王様は国を出た。

 長いあいださまよった。

 砂漠の果ての、果ての果て。

 ようやく見つけたレストラン。

 不思議な不思議なレストラン。

 不思議なコックさん、やってきた。

 王様は飲む、一杯の水。

 カラカラの喉に染み渡る、おいしいおいしい普通のお水。

 ああ、世の中にこんなにおいしいものがあったのか。

 不思議なコックさんいいました。

 ええ、王様。わたしは世界で一番おいしい料理をお作りしたのです。

 不思議な不思議なレストラン。

 世界一おいしいレストラン。

 世界で最後のレストラン。

 すぐ近くにあって、どこにもないレストラン。

 今度は何が消えるかな。

 今度は何が消えるかな。

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