こころまだら

 そわそわ、うきうき、そわそわそわ。

 そわそわ、うきうき、こころもよう。

 こころまだら、そわそわそわ。

 こころぼそいな、そわそわそわ。


 みづはさんは落ち着かないのです。

 新しいおうちは、庭が広くて、景色がずっと見渡せます。

 今まで住んでいた都会の家は、マンションで、窓からは向かいのビルが見えるだけ。

 でも、田舎暮らしをしたいというお父さんの車に乗せられて、何時間も走って着いた、おうちの周りには、川が流れ、桜並木の向こうに、山が見えます。

(友達できるかな。先生は優しいかな。ひとりぼっちになったらどうしよう)

 明日は小学校の入学式。

 ちょっぴりドキドキ。

 でも、ワクワク。

 だけど、そんな気持ちをわかってくれるお友達がいません。

 幼稚園のお友達とは、みんな離れてしまいました。

 今頃、みんなはどうしてるだろうと、空を見上げると、みづはさんは、顔に冷たいものが当たるのを感じました。

 ちら、ちら、ちらと、空から落ちてきたのは、白い雪。

 都会と違って、山の近くは、春でも寒いようです。

 雪は、次から次へと降ってきて、お庭の石を濡らしました。

(寒いよ。前のおうちに帰りたいよ)

 すると、そわそわ、そわそわと、見たことのない小さな蝶が、みづはさんのまわりを飛んでいます。

 この辺に住んでいる蝶ではないのでしょうか?

 まるで迷子のように、そわそわ、そわそわと、落ち着きのないようすで飛んでいます。

 羽はオレンジとこげ茶のまだらもよう。

 目は青い色です。

「あなたも、お引越ししてきたのかしら。どこから来たのかな」

 みづはさんは、目が青いから、外国から来たのかなと思いました。

 蝶は一匹だけです。

 お友達はいないようです。

「あなたも、心細いのね。こちらへおいで。わたしとお友達になりましょう」

 手を差し伸べると、蝶は、そわそわと飛んできて、手のひらに止まりました。

「ここが気に入ったのね。いいわ、一緒に暮らしましょう」

 みづはさんがそういうと、蝶は嬉しそうに羽ばたいて、みづはさんの鼻の頭に止まりました。


「ねえ、お父さん。いいもの見せてあげる」

 みづはさんは得意になって、蝶をお父さんに見せてあげました。

「おや、雪が降ってきたかと思ったら、降ってきたのは、春だったみたいだね」

「この蝶、春に飛ぶの?」

「蝶?あっははは。蝶じゃないよ」

 といって、お父さんは、みづはさんの鼻の頭についていたものをつまみました。

「あっ、だめだよぉ。かわいそう」

「ごらん、みづはの鼻についていたのは、これだよ」

 と、見せてくれたのは、一枚の桜の花びらでした。

「あれえ?蝶は?」

「蝶?見間違えたんじゃないの」

「そんなことないよ。オレンジとこげ茶の、まだらもようの蝶がいたんだよ」

 というと、お父さんは、はっとして、みづはさんをぎゅっと抱き寄せました。

「みづはは、前のおうちに帰りたいかい?」

「うん」

「ごめんな。父さんのわがままで。でも、みづはには、空気のいいところで、のびのびと育ってほしかったんだ」

 みづはさんの目の前には、そわそわ、そわそわと、蝶が飛んでいます。

 後ろを向いているので、お父さんからは見えません。

「みづはは、ウスイロヒョウモンモドキを見たんだなあ。その蝶はね、心細さに寄り添ってくれる蝶だって、言われているんだよ。だから、大丈夫。その蝶が見えたのなら、みづはは一人じゃないよ」

 いつの間にか、雪は止んでいました。


「わあ、きれいな桜」

 次の日。桜並木の下を、そわそわと歩いていく女の子が一人。

 不安そうに、でも、うきうきとして。

 真新しいランドセルの上に、ひらひらと桜の花びらが舞い降ります。

 そばには、そわそわ、そわそわと、オレンジとこげ茶のまだらもようの、蝶が寄り添っていました。

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