近所鉄道
ガッタン、ゴットン。ガッタン、ゴットン。
家の外を電車が走ります。
1両だけの電車です。
自分で走る電車です。
近所を走る、近所鉄道です。
だから、近鉄電車です。
「近鉄さ〜ん」
と、みいちゃんは手を振りました。
キキーッと、電車が止まります。
「みいちゃんの、おうち前駅〜、みいちゃんのおうち前駅〜」
電車は、みいちゃんの目の前で停車しました。
「ご近所までなら、花びら一枚、遠くまでなら、花びら二枚。でも、遠くの駅には止まりません。近所を走る、近所鉄道でございます」
「ご近所まで、お願いしま〜す」
みいちゃんは、花びらを一枚渡しました。
「ご乗車、ありがとうございます。それでは、出発進行〜!」
ガッタン、ゴットン。電車が動きだしました。
「この度は近所鉄道をご利用いただきありがとうございます。この車両は、全車両一等車となっております。食堂車は、みいちゃんのポケットにございます。おいしい、おいしい、飴玉が入っております。それではどうぞ、ごゆっくり。ご近所の旅をお楽しみください」
窓の外には、見慣れた景色が広がっています。
「右に見えます、赤い屋根のおうちを過ぎると、電車はまもなく次の駅に停車します」
キキーッ!
すぐに次の駅に着きました。
「三角公園駅〜。三角公園駅〜。珍しい、三角の形をした公園です」
みいちゃんは降りませんでした。
「どなたも降りられないようですので、出発しま〜す!」
電車は、また、ガッタン、ゴットン、走り出しました。
でも、すぐにまた次の駅に止まります。
キキーッ!
そこは、ジャングルでした。
「ジャングルジム駅〜、ジャングルジム駅〜。この駅で、しばらく停車します。どうぞごゆっくり、お遊びください。ただし、ジャングルには猛獣がいますので、お気をつけください」
みいちゃんは、電車を降りて、ジャングルに入っていきました。
すると、ガサガサと、草の陰から現れたのは、大きなトラ。
「ガオーッ!おいしそうな子どもだ。食べてしまうぞ」
トラは大きな口を開けました。
でも、みいちゃんは驚きません。
「怖くないもん。みいちゃん、ジャングルジム、上手だもん」
みいちゃんは高いところまで、スイスイと登っていきました。
トラは追いかけてきましたが、大きな体が枝に絡まって、身動きが取れなくなってしまいました。
「うへえ、こりゃかなわん」
みいちゃんが下りると、今度はでっかいニシキヘビが現れました。
「おいしそうな子どもだ。巻きついて食べてしまうぞ」
「平気だもん。みいちゃん、縄跳び得意だもん」
みいちゃんはニシキヘビを縄跳びにして、ピョンピョン跳びました。
「やめてくれ!目が回る!」
ジリリリリ……。
発車のベルが鳴っています。
みいちゃんは電車に戻りました。
「ジャングルはお楽しみいただけましたでしょうか?それでは、次の駅に向かって、出発進行〜!」
ガッタン、ゴットン、ガッタン、ゴットン。
キキーッ!
すぐに次の駅に止まりました。
今度の駅は、海の上です。
「タコのすべり台駅〜。タコのすべり台駅〜。電車はしばらく止まります。海には大ダコがいますので、ご注意ください〜」
電車のドアが開くと、大きなタコの足がウニュウニュと入ってきました。
みいちゃんを吸盤にくっつけると、タコは頭のてっぺんに乗せてしまいました。
「おいしそうな子どもだ。海に落として食べてしまうぞ」
タコは、ザップン、ザップン、海を泳いでいきます。
頭の上はツルツル。
滑ったらどうしましょう。
「面白いわ。みいちゃん、すべり台、大好きよ」
タコの頭から、ツルーッと滑っても、海にポッチャンしません。
足の吸盤にくっついて止まるからです。
ジリリリリ……。
発車ベルが鳴っています。
「みいちゃ〜ん。電車が出ますよ〜」
電車が海の上を追いかけてきてくれました。
みいちゃんは、タコの頭をつるんと滑り降りて、電車に乗りました。
「タコさん、またね〜」
「う〜ん、残念」
タコは悔しがりましたが、電車はすぐに発車します。
ガッタン、ゴットン、ガッタン、ゴットン。
着いたのは、砂漠の真ん中です。
「砂場駅〜、砂場駅〜。大きなアリジゴクがいますから、ご注意ください〜」
みいちゃんが砂の上に降りると、ザザザーッと砂が崩れて、穴に落ちてしまいました。
出てきたのは、大きなハサミを持った、アリジゴク。
「うへへ。おいしそうな子どもだ。チューチュー吸って、食べてしまうぞ」
「簡単よ。お山を作ればいいのよ」
みいちゃんは砂のお山を作りました。
お山を登れば、もうアリジゴクは追いかけてこれません。
「う〜、あんなに高いところには、登れんわい」
ジリリリリ……。
発車のベルが鳴っています。
「アリジゴクさん、バイバーイ」
みいちゃんは、山を下りて電車に乗りました。
ガッタン、ゴットン、ガッタン、ゴットン。
「この度は、近所鉄道をご利用いただき、ありがとうございます。電車はまもなく、終点に到着します。どちら様もお忘れ物のございませんよう、ご注意ください」
電車は、みいちゃんのおうちの前まで帰ってきました。
お日様は、もうすっかり赤くなっています。
「終点〜、夕暮れ駅〜、夕暮れ駅〜。ご乗車ありがとうございました〜」
「楽しかったわ。近鉄さん、またお願いね」
ガッタン、ゴットン。
電車は去っていきます。
車庫に入って、ぐっすり眠って、また明日。
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