第21話 隠者が戻ったらしい!

 その翌日は僕は十歳の子たちと一緒に薬草ハントがあったからメリーさんとナタリーさんの二人で角ウサギハントに出かけたみたい。

 ギルドに戻った時にちょうど出会って成果を聞いてみたら、二人とも二十羽ほどハント出来たって喜んでいたよ。

 これでネルソンさんが戻ってくるまでのお金は確保出来たって言ってたけど、どうもメリーさんのハント魂に火がついたようで、明日もハントに行くそうだよ。僕は明日も引率だから同行出来ないので、


「油断せずに気をつけて下さいね」


 って二人に伝えて別れたんだ。


「ケーイチお兄ちゃん、あのお姉ちゃんたちとお知合いなの?」


 僕が引率している十歳の女の子の一人、ナリちゃんがそう聞いてきた。


「うん、そうだよナリちゃん。お友だちなんだ」


 僕はメリーさんが一国のお姫様だとは告げずにナリちゃんにそう答えた。


「そうなんだ。ケーイチお兄ちゃんは優しくて頼りになるからお友だちが多いんだね」


 ナリちゃんが嬉しくなるような事を言ってくれたから僕はナリちゃんの頭を撫で撫でしたよ。


「もちろん、ナリちゃんもフィルちゃんも僕のお友だちだよ」


 フィルちゃんはもう一人の引率してる子で、もうすぐ十一歳になる子だ。いつも無表情なので周囲の大人たちからは何を考えているのか分からないなんて言われてるけど、僕は何回か引率してフィルちゃんの細かい表情の違いが分かるようになったんだ。今のフィルちゃんは僕の言葉に喜んでいるよ。

 その証拠に頭を撫でるようにと僕にその頭頂を差し出しているからね。

 僕は左手でナリちゃん、右手でフィルちゃんの頭を撫で撫でしたよ。


「二人とも今日は頑張ったね。銀貨五枚は十分な稼ぎだよ。明日も同じぐらい稼げるように頑張ろうね」


 そう言って僕は二人をそれぞれの家まで送ってから我が家に戻った。本当は送らなくても良いんだけど、十歳の子を二人だけで家に帰らせるなんて前世、おじさんの僕には出来ないよ。


 我が家に戻るとサチがちゃんと洗濯物を畳んで置いてくれていた。


「サチ、いつも有難う」


「アは家に居るでな。これぐらいは大した事はないのじゃ」


「ううん、毎日やってくれてるんだから物凄く助かってるよ。だから有難う」


 本当に、家の掃除や僕の服の洗濯など僕が居ない時にやってくれてるから本当に嬉しいんだ。気分は新婚さんだね。まあ、その新妻の姿は見えないし触れないんだけども……  

 いつか僕も大人になったら誰かと…… 結婚出来ると良いなぁ。前世は独り身だったからね。


 そして翌日、僕は今日もナリちゃんもフィルちゃんを連れて薬草ハントだ。


「ケーイチお兄ちゃん、昨日はママがとても喜んでくれたの。銀貨五枚もなんて思ってもなかったって言ってた。お小遣いで銅貨八枚もくれたんだよ!」


 ナリちゃんがニコッと笑いながらそう言う。銅貨八枚あれば屋台で買食い出来るからね。


「ケーにい、わたしはパパには言ってない……」


 フィルちゃんはそう言って複雑な顔をしている。フィルちゃんの家はお父さんだけの片親だけど、飲み代をツケで溜め込んであちこちから払えって言われてるらしいんだ。さすがに子供のフィルちゃんに払えとは言って来ないようだけど、ナリちゃんのお母さんの話を聞くと、フィルちゃんのお父さんはその内にフィルちゃんを奴隷商に売っちゃうんじゃないかと心配してるみたいだ。


 僕も関わった手前、何とかしてあげたいけど…… 僕自身がこの村じゃまだ子供扱いだからね。

 

 ちなみにこの村には奴隷商は無いよ。行商というか聖王国サーラから『売る子はいねぇか〜』って来るらしいんだ。聖なる王国なのに奴隷制度があるんだって驚いたんだ。

 まあ前世の僕を間違いで死なせた女神を信仰してる時点でお察しだけどね。


「うん、フィルちゃんはそれで良いよ。もしもの時は僕の家の場所は教えたよね? ちゃんと逃げて来るんだよ。座敷童様と僕がフィルちゃんを守ってあげるからね」


 こう言うしか出来ない僕は前世と同じ年齢ならもう少し違う事も言えるのになぁなんて考える。


「うん、ケー兄。アリガト」


 表情は変わらないけど喜んでいるのが分かる。何故なら右耳がちょっとピクって動いたから。僕もかなりフィルちゃんの感情の機微きびを読めるようになってきたよ。 


 それから二人を連れて薬草ハントに出かけた僕は、ちゃんと二人を角ウサギから守りつつ昨日と同じぐらいの量の薬草をハントしたのを確認してギルドに戻った。


「ターニャさん、これ今日の!!」


 ナリちゃんが元気よくターニャさんに革袋を差し出す。後ろからフィルちゃんもちゃんと差し出している。


「はい、ナリちゃん、フィルちゃんお疲れ様。二人のお陰で村の薬の備蓄が出来てるから本当に助かるわ。ケーイチさんもいつも二人を見てくれて有難う」


「いえいえ、僕は何もしてませんよ。ナリちゃんとフィルちゃんが頑張ってるんです」


 実際に二人はちゃんと薬草に関する知識を蓄えて、ハントの際にはその薬草に合ったハントをしてるから魔獣にさえ出会わないならば二人だけで薬草ハントをこなせるぐらいなんだ。

 まだ二人には魔獣ハントはさせられないからね。


「ターニャさん、ケーイチお兄ちゃんは凄いの! 角ウサギが来ても木刀でソッと撫でるだけで斬っちゃうの!」


「ケー兄は強い!」


 ナリちゃんやフィルちゃんがそう言って僕を褒めてくれるけど、そこで僕は大切な事を思い出した……


「あ、あの、二人とも少しここで待っててくれるかな? 僕、レイミーさんに用事があるんだ」


「あーっ! そう言えばケーイチお兄ちゃん! 一回も角ウサギを買取りしてもらってなかったね!?」


 ヴッ! そう、僕はいつもこの二人と一緒の時は角ウサギの買取りをして貰うのを忘れてて、次の週にまとめて出してたんだけど、先週にまとめて出した時にレイミーさんに一度にこれだけ出されると査定に時間がかかるから、出来たらその都度出して下さいねって言われてたのをたった今思い出したんだ。


 僕はそそくさとレイミーさんの所に向かう。


「良かった、ケーイチさん。一日遅いけどちゃんと覚えててくれたのね」


 ちょっとだけ冷たい視線だけど、それでも何とか許してくれそうな雰囲気です…… 思い出して良かった。


「すみません、レイミーさん。次からはちゃんとその日に出しますね」


 僕はそう謝りながら、昨日と今日のハントした角ウサギを魔術ザックから出す。合計三十二羽。


「ふぅ〜、ホントにお願いしますねケーイチさん。まあ、今回は特別に許します。フフ、ってそんな事を言えるのもケーイチさんが優しいからですけどね。他のハンターの人だったら逆に怒られちゃいますから」

 

 いえいえ、レイミーさんを怒れるハンターなんてそう居ないでしょう。婚約者さんが居るのはみんな知ってますが、それでも大人気な買取り受付嬢なんですから。しかも、結婚した後も退職せずに受付を続けるって公言されてるから、ハンターたちからの好感度がかなり上がってるそうですよ。(byゴズさん情報)


「ああ、そう言えばケーイチさん。隠者様が聖王国サーラから本日戻られるって知ってます? 村中で噂になってるんですけど。何でも聖王国サーラではある提案を持ちかけられたらしいんですけど、さすがに詳しい内容までは分かりませんけどね。ある提案って何なんでしょうね?」


 そうなんだ、隠者様が戻って来るんだね。まあ僕には関係ないけど、メリーさんやナタリーさんはやっと待ち人に会えるんだね。良かった、良かった……


 って、まさか僕が巻き込まれるとはこの時は思ってもなかったんだ……

  


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る