第12話 いよいよ我が家へ!
今日の僕は少し興奮している。
「おう、ケーイチ。家を借りたんだってな。それじゃ、延長は無しだな。借り賃をちゃんと稼いで払うんだぞ。払えなくなった時はまたうちに来い。二日〜三日ならタダで泊めてやるよ」
「お世話になりました。また何かのときにはお願いするかも知れないので、その時はよろしくお願いします」
僕は宿の親父さんにそう挨拶してから宿を出た。
良し、ちょっと遠いけど歩こう。今日はハントも休みにしたしね。
僕は購入した我が家に向かって歩く。この村にも随分と馴染んできたと思う。まだ、来てから数日なんだけど、僕がハントした薬草類のお陰で不足気味だった薬関係が充実してきたって薬師さんたちが村の人たちに話してくれてるからだと思う。
もちろんだけど、ターニャさんやレイミーさんが一枚噛んでる様子だけどね。歩いていると
「おう! ケーイチ! 遂に引っ越しか? 借家だがあんな大きな家に一人で大丈夫か? って一人じゃ無かったな。座敷童様が居たんだった!」
「おう! それそれ! 購入したオーナーは気に入られ無かったらしくて借家にしたけど、借りたいって申し出た一人目のケーイチがまさか座敷童様に気に入られるとはな!」
こんな風に住宅地区でも話題になってるんだ。というかみんな座敷童【様】なんだね。まあこの村ができる前から建ってる家とそこに住んでる存在だから様をつけるのも仕方が無いか。
僕も一緒に住むから座敷童様って呼んだ方がいいのかな?
ようやくたどり着いた我が家。時刻は午後三時だったよ。宿を出たのが親父さんにアレコレと引き止められて遅かったからね。
敷地内に入ると何故か玄関の引き戸が自動で開いたよ?
「えっと、自動ドアじゃ無かったよね?」
そんな事を思いながらも僕は中に入った。
「ただいま〜」
つい自分の家だと思うといっちゃうよね。返事は期待してなかったんだけど……
「おかえりなのじゃ、ケーイチ」
座敷童のサチさんがちゃんとおかえりを言ってくれたよ。前世では両親が早くに亡くなったから久しぶりに聞く【おかえり】は何だか嬉しいな。
まあ相変わらず姿は見えないけど……
「ケーイチは
サチさんに言われて僕は磨りガラスを見ると、確かにサチさんの姿がガラスに映っていた。まあハッキリとは見えないけどね。
「どうしてもの時はアの空間にケーイチを呼ぶからの」
「はい、分かりましたサチさん」
「さんは要らぬ。ただサチと呼べ」
「分かったよ、サチ」
そこで気になる事を聞いてみた。
「サチはご飯はどうしてるの?」
「アは言うなれば
「分かったよ、サチ。それじゃウサギ肉があるからサチの分も料理するね」
「よろしく頼むのじゃ」
ちょっと声が嬉しそうになった気がするよ。よーし、前世で培った料理の腕前を振るう時が来たよ。
勝手知ったる台所と同じ作りだし、このコンロとかもちゃんと使えるってサチが言ってたから大丈夫だ。
しかも調味料関係も揃ってるし、この家の中の物は消費してもサチの
サチってチート持ちだよね。武防具が無いと凡人の僕とはえらい違いだ。
「ケーイチよ。この家の中ならばアがケーイチを守れる。なので装備は外しても大丈夫じゃぞ」
そうだったや。もう癖になっちゃってるから装備をしたままだったよ。
「僕の部屋というか私室として使っていいのはどこかな?」
「出来れば仏間の隣が良いのじゃ。アはこの家の中におるが仏間が一番心地よいのでな」
という訳で仏間の横にある六畳の部屋を僕の部屋に決めた。二階? 二階はもしもお客さんが来た時に泊まって貰う部屋に決めたんだ。
驚いた事に二階にもお風呂とトイレがあったよ。
「アがここに来る前に住んでおったこの家の
「その
「分からぬ。この世界に来た時にはアとこの家だけしか居らなんだのだ。元の世界に残っておると信じておるが……」
うーん、そうなんだね。でもリフォームって言ってるから僕が生きてた時代とそう変わらない時代からサチとこの家は来てるんじゃないかな? 暦は分からないってサチが言ってるから正確な事は分からないけど…… 僕は部屋に装備を置いて、台所に向かい、ウサギを料理し始めた。
料理しながらサチと話をする。
「サチ、暦は分からないって事だけど住んでた場所とか分かる?」
「うむ、アは讃岐の金毘羅さんの近くにおったのじゃ。大物主命様には良く遊んで貰っておった……」
何だ、金毘羅さんの近くだったのか。それほど近くは無いけどご近所さんって言えるな。
「そうなんだね。僕は伊予の東端に住んでたし、金毘羅さんにも何度か初詣に行ってたからひょっとしたら会ってるかもね」
「何じゃ、ケーイチはそんな近くに住んでおったのか。ならばアもケーイチと会っておるやも知れぬな」
そんな会話をしながら料理するのが楽しい。前世では家でも一人だったからね。我ながら独り言が多くなってしまって困ってたんだ。
「よし、出来たよサチ。僕と同じでこの机に置いていいのかな?」
僕は台所にある机と椅子で食べるつもりだったからそう聞いてみた。
「うむ、それで良い。アもご相伴に預かるとしようぞ」
僕は自分の分とサチの分の料理を机に置いて、椅子を引いた。お箸も置いてサチは温かい緑茶が良いって言うから急須から茶碗にお茶を注いだ。
その姿は見えないけれども、お箸が宙に浮いて僕の作った料理をつつく。
「
「有難う。前世では調理師として働いてたからね。和洋中ある程度の料理は一通り出来るからね」
「うむ、ケーイチよ。済まぬが明日以降もアの為に料理を作ってくれぬか? こんなに美味しいのは久しぶりじゃ。何だか力が湧くようじゃ」
「うん、お安い御用だよ。明日から朝食と夕食は僕が作るからね。一人分よりも二人分の方が分量も良いしね。でも、昼だけは僕は仕事に行くから作れないけど、大丈夫かな?」
「それは大丈夫じゃ。アは生前は一日一食だったのでな。朝と夕の二食もあるならむしろ有難いのじゃ」
こうして、家のルールも一つ決まったよ。僕が家に居る時はサチの分も料理をしてご飯を作る事になったんだ。
サチは僕が仕事に行ってる間に洗濯や掃除をしてくれるんだって。
有難いよね。
細かい事は住んで慣れてから決めたら良いねと二人で話し合って、僕は遂に我が家を手に入れたって事で朝から興奮してたからか、ご飯の後片付けをした後に寝てしまってたよ。
起きたのは翌朝。それもサチに起こされたんだ。
「よう寝たのう。ケーイチ。今日の朝餉は作らぬとも良いぞ。既に六時半じゃ。仕事に行くのであろう?」
「うわっ!? もうそんな時間なの? ゴメンね、そして起こしてくれて有難うサチ」
僕はパパッと準備して家を飛び出したよ。明日からはちゃんと起きないとね。
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