第2話 森の中、クマさんがっ!

 転生したぞーっ!!


 心の中でそう叫ぶ僕。大声は出さない。魔物や魔獣がいる場所で大声を出すなんて生命知らずな行動は取ったりしない。

 例え今は身体が十二歳の子供であっても中身は三十九歳の大人なんだから。


 僕は取り敢えず教えられた通りに隠者の村へ向かって歩き出した。武器も防具も既に装備済みだ。


 あ、そうだ。歩きながらでも良いか。確認しないと。僕は心の中で能力値表示と唱えた。



名前∶ケーイチ

年齢∶十二歳

性別∶男

種族∶人

位階レベル∶001

体力∶125

気力∶125

攻撃∶50(+999,999,000,000)

防御∶50(+5,555,555,000,000)

武器∶神木刀(銘【木刃きば】)

防具∶神防具一式(銘【木鎧きかい】)

技能∶言語完全理解·収納·古流刀術·気配感知


 おお、これが僕の異世界での能力値か。中々じゃないか…… って、何事!? 攻撃と防御のプラス補正値は?

 これが鍛冶の神様がくれた武防具のプラス値だと!?


 うん、数値的に凄すぎて実感がわかないな。それにひょっとしたらこの世界の魔物や魔獣は攻撃や防御が億や兆単位なのかも知れないしね。


 僕はそんな風に思いながら歩みを止めずに歩いて行く。歩くこと三十分……


「オカシイ…… 十分じゅっぷんも歩けば隠者の村に着くって言ってたのに…… まだ着かないぞ」


 ブツブツと不満を言いながら歩いていると、前方から人の声が聞こえた。


「クッ! まさか、ここでデスグリズリーに出会うとは!? 姫様を護れ! 決して馬車に近づかせるなっ!!」


 揉め事かな? あんなに大きな声を出してたら魔物や魔獣に襲われると思うんだけど。


 僕は少し小走りになって先を急いでみる。すると、前方には見たこともない大きな大きなクマさんと、それに相対する甲冑を着た人たちが居た。その人たちの後ろには馬車が見える。


「うん、アレがイケメン神様が言ってた魔獣だな。それにしても大きいなぁ。立ってるけど鍛冶の神様より少し低いぐらいで、四メートルは超えてるよな」


 僕が呑気にそんな事を思ってたらクマさんは甲冑を着た人たちに向かって振り上げた前足を振り下ろした。当たってもないのに吹っ飛ぶ甲冑の人たち。


「うわっ!? 凄いな。風圧で吹っ飛んだのかな? 三人も吹っ飛ばされちゃったよ!?」


 馬車の前にはもう一人しか甲冑を着た人が居ないぞ。これはヤバいのでは?


 僕がそう思ってたらその人が馬車に向かって叫んだ。


「セバス殿! 私が時間を稼ぐ! 早く馬車を出せっ!! ここから遠ざかるのだっ!」 

 

 女の人なんだね。あんな重そうな甲冑を着て動けるなんて凄いなぁ。でもこのままじゃあの人も危ないよな。不意打ちなら僕でも何とかなるか?


 僕はそう思いクマさんの死角へと音を立てないように近づいていく。幸い風上かざかみになるから匂いでも気づかれないと思う。


 クマさんの注意が目の前の甲冑の女の人に向いてるのを確認して僕は腰の木刃きばを抜いてクマさんの背中を切りつけた。

 高さが足りないからジャンプして切りつけたけど、浅いかな?


 やっぱり浅かったのかクマさんは痛がる素振りも見せずに右前足を振りかぶり、そして……


 僕が切りつけた場所からズレて二つになってアレ? って表情をしながら倒れたんだ。


 えっ!? もしかして今の浅い切りつけで両断しちゃったの? クマさんの右肩から左脇腹にかけて木刃を振るったけど、感触的には撫でただけの感じだったよね? 

 僕自身もクマさんと同じくアレ? ってなったよ。


 で、クマさんが両断されて倒れたから僕が見えるようになった甲冑の人も固まったまま動かない。

 僕も何が起こったのか分からないから動かない。

 

 悪いことに切りつけが浅いと思ってたからもう一度って思って木刃を構えてたんだよね。


 正気に戻ったのは僕が先だった。僕は慌てて構えていた木刃を腰に戻し、甲冑の女の人に声をかけたんだ。


「あの、大丈夫でしたか? 苦戦してるようだったので加勢したのですが…… 余計なお世話でしたか?」


 僕の言葉にハッとして構えていた剣を鞘に戻した甲冑の女の人は、僕に向かって頭を下げながらこう言った。


「ご助力、かたじけない。あのままでは我らが主も命は無かったと思う。本当に助かった。私はドルガ王国の正騎士でナタリーと申します。ご貴殿の名をお伺いしてもよろしいか?」


 あのイケメン神様を信仰する王国の人なんだね。


「僕の名前はケーイチです。お姉さん、無事で良かったです。それじゃ、僕はこれで」


 面倒なのはゴメンなので僕はこの場を去ろうとしたけど、お姉さんに止められてしまった。


「お待ちをっ!! ケーイチ殿、どうか我が主からの礼の言葉も受け取って頂きたい。どうか、暫くお待ちを!」


 う〜ん…… 正直に言って偉い人からのお礼なんて要らないんだけどなぁ。けれどもそれでお姉さんの立場が悪くなっても後味が悪いから僕は少しだけならと言って待つことに。


 あ、ちなみに先に飛ばされた三人の騎士さんたちも無事だよ。吹っ飛んだけど甲冑を着てたから怪我はしてないんだって。

 僕なら着てる甲冑が体に当たる衝撃で怪我してるよね、絶対に。


 そんな風に考えていたら、馬車に行ってたお姉さんがエスコートしながら一人の女の子と、一人の男性と共に戻ってきたんだ。


「あちらが今回、デスグリズリーを一撃で斬り伏せたケーイチ殿にございます。ひ、お嬢様、セバス殿」


 ナタリーさんが僕の事を二人にそう紹介した。セバスさんは胡散臭そうに僕を見て、女の子は目をキラキラさせながら僕を見ている。一瞬だけどナタリーさんが姫様って言いそうになってたから多分お姫様なんだろうね。


「他ならぬナタリー様がそう仰るならば真実なのであろうが…… このような年端もいかぬ少年が騎士が最低でも十人いないと倒せないと言われているあのデスグリズリーを?」


 セバスさんがそんな疑問を僕にも聞こえるように言った。だから偉い人は面倒なんだよね。

 まあ、信じるも信じないも貴方次第ですって事で。僕はナタリーさんに向かって、


「それじゃ、本当に僕はこれで。道中、お気をつけて」


 って言ったんだけど、お嬢様がそんな僕を見てセバスさんを叱り出したのにはビックリした。


「セバス!! なんて失礼な事を言うのっ! ナタリーが見たのなら本当にこの方が私たちを救ってくださったのは明白でしょっ! そんな事を言うのならもう貴方は必要ないってお父様に伝えておくわ!」


「姫様! そんな! 私としては目の前で見ていない事をにわかに信じる事が出来ないというだけでして…… ましてやこんな少年があの巨大なデスグリズリーを斬り伏せたなど、我が目で見ておらぬので信じられないのです!」


 うん、セバスさんが信じられないのも無理はない。僕自身もまだ信じられてないからね。


 って思ってたら、ガサガサと大きな茂みをかき分ける音が聞こえてきて、コチラに向かって来てる。


 ほら、長居したから血の匂いに誘われて他の魔物か魔獣が来ちゃった。だから早くこの場を離れたかったのに。


 とは思ったけど時すでに遅しなんだよね…… 

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