第3話 セバスの手のひら返し!

 ガサガサが段々と近づいて来てるから僕はお姫様に言った。


「血の匂いにつられて魔物か魔獣が来てるようです。危ないので馬車に乗ってこの場所から離れてください」


 しかし僕の言葉に反論したのはセバスさんだった。


「何だ? デスグリズリーを倒せるんだからケーイチが居れば心配ないだろう?」


 少し小馬鹿にしたようなニヤニヤ笑いを浮かべながらそう言うセバスさん。あなた、ご自分の雇い主の娘さんを危険にさらして今後も雇ってもらえると思ってるの?


 僕はそう思ったけどセバスさんを無視してナタリーさんと騎士さん三人に言う。


「お嬢様が危険です。今ならまだ間に合います。馬車でここから離れる方が良いですよ」


 僕の言葉に真剣な顔で頷いたナタリーさんはお姫様に向かって


「さあ、お嬢様。馬車に乗ってください。私たちはこの場にいては危険です」


 とさとして馬車へと連れて行った。後に残るは僕とセバスさん。


 馬車が進み出してもセバスさんは動かない。いいのかな?

 僕は馬車が動き出したのを確認してからその方向に進み出した。


「おっ、おい待て! 何で来る魔物か魔獣を倒さないんだ?」


 セバスさんが慌てたようにそう言うけど、僕には関係ないからですよ。


「えっと、僕が倒す必要を感じられないからですよ。元々この魔獣も皆さんが危機だと思ったから加勢しただけですし。僕は行く場所があるからこれで失礼しますね」


 そう言うだけ言って走り出す僕。慌てて僕が走る方向に走ってついてくるセバスさん。


「や、やっぱりデスグリズリーを斬り伏せたのは嘘だったんだなっ!! 貴様、我らをたばかった罪は重いぞ! 戻ったら覚悟しておけっ!!」


 喋る暇があるならもっと一所懸命に走った方が良いですよ、セバスさん。ほら、もう姿が見えた。


 ありゃ!? さっきのクマさんが子グマかと思うぐらいの大きさのクマさんが四つ足でこっちに向かって走ってきてるよ。大きいなぁ、立つと七メートルはあるんじゃないかな?

 クマさんって走るのも早いんだよね。こりゃ追いつかれるな。


 と思ってたらクマさんが微妙に進路を変えた。目に見える僕たちじゃなくて馬車の音か匂いを感じとったらしい。僕は馬車の進行方向に向かいながらも、微妙に離れるように走ってたんだけど……


 このままじゃ僕の言葉を信じて馬車で逃げてる人たちが危ない。仕方がないから僕はクマさんの進行を邪魔するためにクマさんに向かって走り出す。


 チラッとセバスさんを見ると……


 死んだフリしてるよ。確か、死んだフリってクマさんには効果無いんだよね。でも、違う世界でもその俗説が流布してる事にちょっと笑ってしまったよ。


 僕は最初のクマさんを斬った時から確信していた。この木刃はこの世界でも類を見ないほどの攻撃力を持ってるってね。だって斬った手応えが無かったのに真っ二つだよ。で、その攻撃力を上回る僕が鍛冶の神様から貰った防具一式も、同じようにこの世界でも類を見ない防御力だと確信してる。


 ちょっと怖いけどこのクマさんでそれを確かめてみようと思うんだ。


 クマさんに向かって走るとクマさんも邪魔するのかって感じで立ち止まって二本足で立って威嚇してきた。

 チビりそうだよ。でも僕は恐怖を押し殺してクマさんの間合いに入った。

  

 すかさず前足を僕に向かって振ってくるクマさん。でもその前足は僕に当たる一メートル手前で何かに遮られるように止まった。


 アレ?って顔するクマさんが少し可愛いと内心では思ったけど僕の体は関係なしに腰の木刃を抜いてクマさんのその止まった前足を斬っていたんだ。


 肘から先の前足が無くなった事にクマさんが気がついたのは僕が斬ってから三秒後だったよ。だって、それまで動かさなかったからね。

 動かそうとしたら斬線が肘下に走ってボトッて斬った前足が落ちたんだ。


「グギャーッ!! ガッ、ルーオウッ!!!」


 斬られた事に気づいたクマさんは痛がりながらも僕に向かって残った前足を振ってくる。けど……


 その前足も僕に当たる一メートル手前でビタッと止まる。僕はためらいなくその前足も斬ってしまう。


 また斬られた事に気づかないクマさんはそのまま前足を更に動かそうとして…… ボトッと落ちた無事だった筈の前足を見て叫ぶ。


「グギャーッ!! ガッ、ルーオウッ!!!」


 両前足が無くなったクマさんが頭を下げた。今ならジャンプすれば届くな。

  

 そして僕はジャンプしてクマさんの首を躊躇なく斬った。


 斬った後も叫んでいたクマさんだけど、その途中で首がボトッと落ちて、声が出なくなったのをアレ?って感じの表情をしたかと思ったら絶命していた。


 ふう〜、これでお姫様の馬車は大丈夫だな。そう思って一息ついてた僕に死んだフリから復活したセバスさんが近寄ってきて、


「素晴らしいっ!! 噂にたがわぬ実力だっ!! 私は知っていたよ、君が出来る男だって事を!!」


 だってさ……


 えーっ、貴方、僕のこと信じて無かったですよね? 僕はそのままセバスさんを無視して馬車の方に歩き出した。セバスさんは僕が無視しても気にせずにベラベラ喋りながら着いてくる。


「いや〜、アレ程の実力者は王都にもいない。まさかデスグリズリーの成体をたった一人で倒すとはっ! 君は幼い見た目だがさぞかし過酷な修行をして来たのだろう! 私の目に狂いは無かったようだ!」


 この人、何か鬱陶うっとうしいな。いい加減に付き合うのも面倒だから走ろうかな?


 と思ってたら馬車が見えた。どうやらある程度走って僕たちが心配で停まって待ってたみたいだ。

 

「おおっ!! ケーイチ殿! ご無事だったか!」

 

 ナタリーさんが僕を見てそう言っている。


「はい。何とか倒しましたよ。もう大丈夫だと思います。それでナタリーさん、一つお聞きしたいんですけど……」


 僕は事のついでにナタリーさんに隠者の村の場所を聞いてみることにしたんだ。


「何だ? 何でも聞いてくれ。私でわかることならば必ず答えよう!」


「この森に隠者の村っていう場所があると思うんですけど、場所をご存知ないですか?」


「ああ、ケーイチ殿は隠者の村へ行くつもりだったのか? それならば我らと同じ目的地だ。ケーイチ殿が良ければ共に参ろうではないか」


 ナタリーさんは騎士さんだけあって口調がかたいけど、兜を脱いでいるそのお顔は美少女だな。今の僕よりもかなりお姉さんだと思ったけど、お顔をみる限りまだ十代じゃないかな。


「いいんですか? 僕がついて行っても?」


 一応はこんな森の中で十二歳の僕が不審者に見えるのは当然なのでそう聞いてみる。


「我らはケーイチ殿に生命を救われたのだ。この森にいて、隠者の村へと向かわれるのには何か事情がお有りなのだろう。喜んでというか、我らとしてもケーイチ殿にご一緒していただければ心強い」


 なんてナタリーさんが言ってくれたからお言葉に甘える事にした。


 そのナタリーさんの後ろではセバスさんがお姫様から解雇通告を受けている。


「そんな! 姫様! 私が居なければ隠者たちとの交渉が上手くいきませんぞ!」


「結構よ! セバス! 貴方が居るとまとまるものもまとまらないわ! さあ! 私たちの前から消えなさい!」


 うんまあ、気持ちは良く分かるけどそれはセバスさんに死ねって言ってるようなもんじゃないかな?

 僕はそう思い、自分でもお人好しだなと思いながらも隠者の村まではついてくる事を許してあげて欲しいとお姫様に口添えしたんだ。


 村では全く関係ない人物として村の代表にちゃんと伝えて、別行動すれば良いよとコッソリとお姫様に言ったのはセバスさんには内緒だ。  

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