第4話 野営地にて!
というわけで僕は隠者の村まで馬車について行く事になったんだ。立場上は護衛として雇われた事になってる。
ちゃんと報酬も出すとお姫様に言われたけど、迷子だったからね。隠者の村まで連れていってくれるなら報酬なんかは要らないって言ったんだけど、押し切られてしまった。
で、行く前に僕が倒したクマさんを回収しようって話になったから、僕一人でまた逆戻りしてるんだけど、そんな事なら僕の収納に入れておけば良かったと思ったよ。
何でもあのクマさんの体は素材の宝庫だから放置するのは勿体ないんだって。隠者の村で買い取ってくれる筈だから絶対に持って行きましょうとナタリーさんに力説されたんだ。
みんなは馬車を停めた場所に待機してもらってる。前世の僕の特技は一度通った道は忘れないだから直ぐにクマさんを倒した場所にたどり着いたよ。クマさんを回収して、もう一体も回収しおえて馬車まで戻るとナタリーさんが今日はもう遅いので、この場所で野営するって言ったんだ。
まあ、ちょうど幅は小さいけど小川も流れてるから野営にはいいかもね。
「それでケーイチ殿にお願いがあるのだが、デスグリズリーの毛を切ってこの周辺にバラまきたいのだ。そうすればデスグリズリーよりも弱い魔物や魔獣は近寄って来ないのでな」
なるほど、そういう事ならばと僕は収納から毛だけを選んで取り出してみんなが休むスペースを囲うようにバラまいた。
セバスさん? お姫様に嫌われてしまったから騎士さんたちにも相手にされずに一人ポツンと小川の側に座ってるよ。
ナタリーさんいわく、アレで誰かが声をかけてくるのを待ってるから話しかけないでくださいとの事。
「ケーイチ殿がお優しいのは良く分かっておりますが、今までにもセバス殿の所為で何度も困った事が起こっております。今回ばかりはお嬢様も許すおつもりが無いようですので、どうかセバス殿とこれ以上は関わらないようにお願いします」
って注意されてるから僕も無視をしている。チラチラと僕をみてきてるけどね。
で、お姫様なんだけど野営の準備が整って食事をしようという時にその正体を明かしてくれた。
「ケーイチ様、私はドルガ王国の第三王女でメリレアと申します。言いにくいでしょうからメリーとお呼びください」
「姫様っ!?」
ナタリーさんや他の騎士さんが驚いている。どこの馬の骨か分からない僕に正体を明かしたからだろうね。
「良いのよみんな。ケーイチ様には二度も命の危機を救っていただいたのだから」
メリーさんの言葉に騎士さんたちも納得したようだ。セバスさんがゴチャゴチャ言ってるけど誰も相手にしてない。
「このケーイチが間者では無いと言い切れない状態で姫様の事を話されるとは!? 騎士の怠慢の所為だぞ! 何かあっても私は知らんからなっ!!」
うん、貴方が最初から姫様って呼んでたからっていうのも正体を明かした理由の一つだと思いますよ。
「それで、もしもよらしかったらケーイチ様が隠者の村に行く理由をお伺いしてもよろしいでしょうか? 失礼ながら私よりも年下に見えるケーイチ様がお強い理由なんかもお聞かせ下されば……」
とここまで聞いてきたメリーさんだけど、僕の視線がセバスさんを見ているのを知って、騎士さんの一人に命じる。
「ネルソン、悪いけど羽虫がいるようだわ、追い払ってもらえないかしら?」
「ハッ! 姫様。ただいま直ぐに!!」
命じられたネルソンはセバスさんを羽交い締めにして声が聞こえない場所まで連れていき、縄で木に括り付けてから戻ってきた。アレ? あそこってクマさんの毛をバラまいた範囲外だけど良いのかな?
何やら喚いているセバスさんだけど、その声は僕たちの居る場所ではそれほど気にならない。
「ネルソン、有難う。だいぶ心地よくなったわ」
本当にセバスさんはこれまでにも色々とやらかしてたんだね。さてと、それじゃどういう風に話そうかな? 正直に言ったら信じてくれるかな?
悩んだけれども結局正直に話してみることにした。
「まあ! それではケーイチ様は使徒様でしたのですね!?」
使徒様? いえ、違います。
「いや、それは違うと思いますよ。僕は何も神様たちから使命を帯びてませんから」
僕がそう否定するとメリーさんは首を横に振りながら教えてくれた。
「いいえ、ケーイチ様。私たちは別の世界の記憶を持つ方たち全てを使徒様と呼んでいるのです。神様にお会いしておられるお方たちは何の使命も帯びておられなくとも神様から遣わされた尊いお方だという伝承が我が国だけでなく他の国でも伝わっております。けれども我が国に使徒様が来られたのは記録上では恐らく初めてかと思われます」
そうなんだ。神様と出会ってるから使徒様なんだね。まあ、僕はそんな大層な者じゃないから出来れば名前で呼んで貰いたいな。
「仰ることは分かりました。けど一つお願いがあります。僕の事を使徒だとは他の人には言わないで欲しいです。僕はこの世界で出来ればノンビリと過ごしてみたいと思ってますから。お願いできますか、メリーさん、騎士の皆さん?」
僕の言葉にみんなが頷いてケーイチ様、ケーイチ殿と呼ばれる事になったんだけど、出来れば呼び捨てでお願いしますって頼んだら、命の恩人を呼び捨てなど出来ないと却下されてしまった。
まあ、そう言われるとこれ以上は言えないかな。
「あら? 羽虫の音がかなり静かになったわね?」
メリーさんがそう言うとみんながセバスさんの方を見た。
そしたら…… 居ないよ!?
「バカな!? 私はシッカリと括り付けた筈ですっ!!」
ネルソンさんがそう言うからみんなで見に行くと、縄はナイフでスッパリと切られていたよ。う〜ん、セバスさんナイフなんか持ってたんだね。
「申しわけありません、姫様…… 身体検査を怠った私の落ち度です」
ネルソンさんが落ち込みながらメリーさんに謝ってる。
「いいえ、ネルソン。これで堂々とお父様に言えるわ、セバスはやっぱりサーラ聖王国の間者だったって! これまでも怪しい素振りはたくさんあったけど、遂に尻尾を掴んだわ。お父様に伝書魔法で直ぐに伝えるわ」
そう言うとメリーさんは何やらブツブツと呟き、右手を空へと上げた。上げた右手から何かが飛んで行く。
「ふう〜、これで今日中にお父様に届くわ。みんな、悪いけれども交代で見張りをお願いしますね。セバスが何かを仕掛けてくるかも知れないから」
「ハイ! 姫様!!」
あ〜、僕も交代要員でと言ったんだけど、みんながケーイチ殿はお休み下さいってどうしても入れてくれなかったよ。
仕方がないからテントの中から気配感知を使って警戒する事にしたんだ。寝てても自動発動するみたいだからね。
で、何事もなく夜は明けた。
「さあ、それでは隠者の村へと向かいましょう! ケーイチ様もよろしくお願いします」
メリーさんのその言葉と共に、僕たちは隠者の村へと出発する。
今さら気がついたけど…… あのイケメン神樣、僕に反対の方角を教えてやがったよ……
うん、あのイケメン神樣は信仰せずに鍛冶の神様を信仰しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます