第9話 座敷童!
二人を前に歩かせて僕が後からついて行く。馬車だと早く着いてしまうから徒歩移動を了承したんだけど、けっこう歩くなぁ。
前世だと一旦休憩を入れて貰ってるところだよ。今は体も若いからそんなに疲れては無いけどね。
さてかなり歩いたぞ。まだつかないのかなって思ってたらどうやら着いたみたいだ。
「長く歩かせてしまい申しわけありません、ケーイチさん。コチラがあの訳アリ物件です。先ほど敷地面積が二十メートル四方と申しましたが、あの奥に見える建物が家となります。家の床面積は十メートル四方となっております」
クルスさんの説明を聞いていたけど日本式家屋がデデーンと建ってるよ。二階建てだけど中々の立派な作りだよね。この税金が年に大銀貨一枚(十万円)なんだね。安いと思っちゃうのは今は大金持ちだからなのかな。
って、税金ばっかり聞いたけど肝心の購入額を聞いて無かった!? 僕は慌ててクルスさんに確認してみた。
「あの、クルスさん! 税金の事ばかりお聞きしてしまって肝心の購入額をお聞きするのを忘れてました!」
僕の言葉にクルスさんも右手を額に当てて、
「そっ! そうでした!! 申しわけありません。私の落ち度です。先に見られた物件の購入額は、土地家屋込みで金貨八枚(八百万円)です。コチラの購入額は座敷童が決めるので、私どもでも分かりませんが……」
ほぇ〜、家の購入額まで座敷童が決めるんだ。
「村の代表であるデックスが座敷童と契約してそのように決まりました。実を言えばこの家はここに村が出来る前から建っていたそうです。で、許可を得てこの地に村を建てたという経緯があるのです」
「えっ、では初めはこの土地にはこの家しか無かったんですか?」
「はい、村建設史によるとそのように書かれています。初代村長である隠者バーモンが記した建設史なので嘘ではないと思います」
驚いた。そんな由緒ある家を僕なんかに紹介して大丈夫なのかな? 僕は心配になってクルスさんに確認してみた。
「家の購入を検討している人が居たら必ず紹介するようにと座敷童から通達が来てますから、大丈夫ですよ」
それなら大丈夫か。僕たちはクルスさんを先頭に家に向かった。
「ここでちょっとお待ち下さいね。ご都合を聞いてみますから」
クルスさんが家の二メートル手前で僕とレイミーさんに待つように言い、クルスさん自身は家の玄関前まで行って吊されている鈴を鳴らした。
前世で良く神社なんかに吊されている鈴と同じに見えたけど、音自体は風鈴のようなキレイな音が鳴ったならビックリしたよ。
そして玄関の引き戸の
その女の子が喋っている。
「誰じゃ、アを呼ぶんは?」
「サチよ、私だ。商業ギルドのクルスだよ」
座敷童はサチさんというんだね。いい名前だ。それに自分の事を【ア】って言ってるんだね。何でだろ? まあそれはもしも仲良くなれたら聞けば良いか。
「クルスか、何用じゃ?」
「この家の購入を検討してる人を連れて来たんだ。サチの都合は良いかな?」
「うん、そうか。ならば入るが良い。アは大丈夫じゃ」
その言葉の後に鍵を開ける音が中から聞こえた。引き戸だから昔ながらの家の中から閉める回し鍵なんだね。
「分かった。それじゃ入らせて貰うよ」
それから僕とレイミーさんを手招きして今度は僕が先に入るようにと促したんだ。
僕はその言葉に従って引き戸を開けて玄関に入った。玄関は前世と同じで履物を脱ぐスタイルだったよ。
うん、この方が落ち着くね。
座敷童のサチさんの姿は見えないけれども僕は気にせずに玄関で靴を脱いで
「ケーイチさんはこの家のルールをご存知だったみたいですね」
僕がそうして家に上がるのを見てクルスさんがそう言う。
レイミーさんがすかさずフォローしてくれた。
「何でもケーイチさんの住んでた田舎でも家では靴を脱いで生活してたそうよ」
「へぇ~、そうなんだね。そんな場所もあるんだなぁ」
レイミーさんのフォローに素直に感心するクルスさん。いい人だ。
僕はサチさんに咎められたりしないようなので家の中を見せて貰う事にした。
入って直ぐ右にトイレがある。ちょっと広いね。四畳ぐらいあるよ。
その隣は脱衣所があってお風呂になってる。湯沸かしは薪なのかな? ガスや電気は見当たらないからきっとそうなんだろうね。
そこを出て左を見ると台所だったよ。台所から通じてる扉を開けると居間みたいだね。その居間から廊下に戻り、お風呂の隣の扉を開けると仏間になってた。
僕は取り敢えず仏壇にお参りさせて貰った。線香を立てさせて貰い、合掌してお祈りし仏壇に一礼して立ち上がるとクルスさんもレイミーさんも見えなくなっていて、僕の後ろに女の子が立っていたんだ。
「名はケーイチか。ケーイチは転生者じゃな? アはこの変な世界にこの家と共に連れて来られて五百年になるのじゃ。ケーイチならばこの家に住んでも良かろう。アが許可する。クルスに土地家屋代として金貨五枚を払うのじゃ」
そう言うだけ言うとサチさんは見えなくなり、クルスさんとレイミーさんがキョロキョロと僕を探してる姿が見えた。
「「ケーイチさん!? いったい何処に?」」
二人の声がハモってるよ。
「はい、サチさんとお話させて貰ってました。で、クルスさんに土地家屋代として金貨五枚を支払えばこの家に住む許可を与えてくれるそうです」
僕は先ほどのサチさんの話を二人に伝えた。それを聞いてクルスさんが言う。
「では、コチラを購入されますか?」
「はい。先の物件も魅力的でしたけど、コチラを購入する事にします。それで何ですが一つお願いがあります。僕がこの家の家主だとは公表せずに、借りている形だという事に表向きはしてもらえませんか?」
僕がそう言うとクルスさんはニッコリと笑って、
「はい。レイミーからその話は聞いておりますので、ご購入者の名前は公表せずに、ケーイチさんはご購入者から借りたという事に表向きはさせていただきますからご安心を。商業ギルド内では私だけ、ハンターギルド内ではレイミーだけがケーイチさんが購入した事を知っている状態を維持します。これは契約書に記載して、私とケーイチさんしか見えないようにしますから」
それを聞いてホッとした僕は、宿屋に一週間分を先払いしてるから、住みだすのは一週間後でお願いしますとも伝えた。
意外にもそれに返事をしてくれたのはサチさんだった。
「分かったのじゃ。一週間の間に掃除をしておく。楽しみにしておるぞ、ケーイチ」
その言葉の後にヒラヒラと白い紙が天井から落ちてきた。
「それを今の村の代表に渡すのじゃ、クルス。それで上手く行く」
「分かった、サチ。デックスさんに必ず渡すよ」
と、住居も決まり今度は馬車に乗って商業ギルドへと戻り、契約書が作成されるのを待ってシッカリと読んでからサインしてクルスさんに返した。その時に土地家屋代の金貨五枚も一緒に渡す。
「はい、コレであの家は表向きは借家扱いですが、書類上ではちゃんとケーイチさんの物となりました。どうかサチとも仲良くしてやって下さいね。あんなに嬉しそうな声を出したサチを私は初めて聞きましたから」
「はい、サチさんとも仲良くして暮らしていきます。では、一週間後からあの家に住むことにしますね。クルスさん、有難うございました。レイミーさんも付き合ってくれて有難う」
「いいえ、私としても将来どころか今すぐ有望な新人ハンターのお世話ができて良かったわ。これから獲物を狩ってきたら私を指名してね、ケーイチさん。それで私のお給料も上がるから」
なんて冗談ぽくレイミーさんが言うけど、お世話になったレイミーさんが昇給するならば頑張ろうと心に誓った僕だった。
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