第19話 メリーさんの依頼!

 家の中に招き入れると玄関で靴を脱いでいる僕を見て戸惑う二人。


「あの、本当に履物を脱ぐのかしら?」

「姫様、ここはケーイチ殿に従って脱ぐべきです」


 メリーさんとナタリーさんの会話を背なかで聞いた僕は、


「どうぞ、脱いで上がって下さい。家の中ではコチラを履いて下さいね」


 とスリッパを二人に差し出した。和室ではそのスリッパも脱いで貰う事になるけどね。まあ、今回は居間のように使ってる板敷きの部屋にご案内だからスリッパのままで大丈夫。


 靴を脱いで上がった二人はスリッパを履いて何故か顔を見合わせてニコッとしている。

 

「ケーイチ様、何だか履物を脱いでみると妙に落ち着きますわ」


「ケーイチ殿、このスリッパというのは室内履きとして優れていますね」


 二人の美女からそんな感想をいただきながら僕は居間に案内して座って貰い、サチも姿は見えないけど座ったのを確認してから、お茶を用意しますと言って台所に向かった。


「お構いなく」


 ってナタリーさんが言うけど、僕としては買ってきた鳥串を美味しく食べたいからね。

 例によってサチには温かい緑茶で、メリーさん、ナタリーさん、自分の分は冷やしてた麦茶にしたよ。

 

「こ、これはガラスのコップ!?」


 メリーさんがコップを見て驚いている。そう言えば商店カルベでも木のコップか銀のコップしか見たことないね。 


 このコップはこの家にあった物だから使わせて貰ってるんだ。サチも使って良いって言うからね。


 まあ取り敢えず僕はお皿に並べた鳥串もテーブルの上にドドーンと置いたんだ。取り敢えず五十本だけ置いてみた。


「お話は食べながらでも良いですか? 僕もサチも食事がまだなので。良かったらメリーさんもナタリーさんもご一緒にどうぞ」


 メリーさんもナタリーさんも鳥串に目が釘付になってるからね。


「いっ、いいのかしら? ご相伴に預かっても!?」


 ヨダレがでてますよ、メリーさん。


「ひ、姫様、ヨダレをお拭きください!」


 言ってるナタリーさんもヨダレがでてますけど? 一体二人ともどうしたんだろう?


「遠慮せずに食べてください。それよりもお二人だけなんですか? ネルソンさんヴェルダさん、サリアさんはどうしたんですか?」


 僕がそう聞くと二人ともドヨ〜んとした空気を醸し出してポツポツとメリーさんが事情を語りだした。


「あのですね、ケーイチ様。実は私たちの国、ドルガ王国はサーラ聖王国と最近になって仲が悪くなってきておりまして…… それで中立の立場であるこのヨクヤ大森林の隠者様に仲介者として仲を取り持ってもらおうと私が代表としてやって来たのですが…… 村長のデックスさんが言うには隠者様が今はそのサーラ聖王国に行ってるらしくてですね。お帰りになるのをお待ちしてるんですけど、その事を王である父に伝える為にネルソンたち三人を国に戻したのです。で…… その際に路銀を渡したのですが、間違えてしまって私たちのこの村での滞在費も一緒に渡してしまって…… 気がついたのはネルソンたちを送り出した二日後という…… 幸いにも宿はデックスさんが用意して下さった迎賓館に無料で泊まらせていただいているのですが、食費が…… ナタリーの財布に入っていたお金で節約しながら生活している状態なのです……」


 勿論のことだけど迎賓館で出される食事もあるけど、今は少しでも支援というか仲介者が欲しくてこの村の有力者に二人で会っていってるそうなので、外食が主となるんだって。隠者様はもちろんだけど初代様じゃなくて、三代目の隠者様らしいよ。

 子孫って訳でもなくて、その時に力は持ってるけど世間から隠れ住む場所を求めてこの村に来た人を隠者様として認定してるんだって。

 いわば世捨て人なのにそんな称号を貰っても嬉しくないのでは? なんて僕なんかは思うんだけどね。


 それよりも今はメリーさんとナタリーさんの事だね。ナタリーさんも余り余分なお金は持ってないらしく、食費を削って生活してるんだって。迎賓館に戻るのも夜遅い事が多いので、厨房も既に火が落とされていて、ここ数日は迎賓館で出される朝食の一食だけで過ごしていたのだとか……


 言ってくれれば直ぐに手助けしたのに。


「メリーさん、僕は別れる際に何かあったら言ってくださいって言いましたよね? 何でもっと早く訪ねてきてくれなかったんですか? ネルソンさんたちを送り出したのが十日前、その二日後に失態に気づいたならその時に僕を訪ねて下されば良かったのに」


 僕がそう言うとナタリーさんが返事をしてくれた。


「ケーイチ殿、姫様は王族として早々に使徒様であるケーイチ殿に助けを求めるのはどうかとお考えになられていたのだ。だが、それでもそろそろ私の路銀も尽きそうなので、私がケーイチ殿に手助けを願おうと思いこうして姫様を説得してやって来たのだ。悪いのは姫様ではなく私なのだ」


 そんな事を思ってたんだね。人は助け合いなのにね。


「僕が使徒様であろうが友人が困っているならばいくらでも手助けしますよ。さ、先ずは食べてください。早く食べないとサチに食べ尽くされますよ」


 事実、話をしてる間にも鳥串は減っている。関係ないサチがひょいパクを繰り返しているからだ。僕の言葉を聞いたメリーさんとナタリーさんは目を潤ませながらいただきますと言って鳥串に手を伸ばした。


「美味ひい、美味ひいよ、ナタリー」

「はい、姫様、本当に美味しいですね」


 いや、普通の屋台で売ってる鳥串にそこまで感動するなんてどれだけお腹が空いてたんですか!?


「それで、僕に何をお望みですか? 毎日の食事? それとも路銀を貸して欲しいとかですか?」


 僕は取り敢えず僕に何の用事なのかを確認することにしたんだ。それを聞かないと話が前に進まないからね。


「いいえ、違います! ケーイチ様にお願いしたいのは私たちと一緒に魔獣ハントをしていただければという事なのです!」


 って、一国のお姫様が魔獣ハントをするんですか!?


「えっと、ナタリーさんだけじゃなくてメリーさんも魔獣ハントをするんですか?」


 僕の質問に元気よくメリーさんが答え、ナタリーさんは諦めたように頷いていた。


「ハイッ!! 私も魔獣ハントをしますっ!!」


「大丈夫なんですか? 魔獣と相対した事はありますか?」

  

 僕もそれほど多くの経験があるわけではないけれども、それでもお姫様が魔獣ハントをするよりは経験を積んでる筈だ。


「ハイ! ドルガ王国では成人する一年前から王族の義務として、角ウサギや草原ウルフをハントするんです。私も昨年、角ウサギを六十八羽と草原ウルフを三十二体ハントしてその際に解体も学びました!!」


 まさかの…… 話を聞く限り僕よりも経験豊富なお姫様だったよ…… 僕はチラッとナタリーさんを見る。


「ケーイチ殿、姫様の仰っていることは本当だ。何しろ他の王族の方々は騎士たちが弱らせた魔獣のトドメを刺すぐらいだったのに対して、姫様はご自分で最初から最後までヤられたお方なのだ…… 解体まで学ばれたのは私たち騎士もビックリしたが……」


 どうやら本当に魔獣ハントの経験があるみたいだ。僕はそれでも何と返答するべきか悩んでいたんだけど、意外なところから姫様の味方が現れたんだ。


「ケーイチよ、アが思うにこのメリーならば弱い魔獣ならば問題なくハント出来るじゃろ。ならばケーイチが気をつけて稼がせてやれば良い。ケーイチは既にそれなりに銭を稼いでおろう?」


 サチまでメリーさんの味方だったんだ。


「飢える苦しみをアは知っておる。そして、誇り高き者はその飢えを自らの力で何とかしたいと思うこともな。ケーイチよ、アからも頼もうではないか、メリーに力を貸してやるのじゃ」


 説得力あるなぁ…… メリーさんはサチの言葉に感動してるよ。


「座敷童様!! 有難うございますっ!!」


 ふう〜…… こうなると僕が嫌って言うのはNGだよね。


「分かりました、メリーさん。ナタリーさんも一緒に、明日は魔獣ハントに行きましょう。明日、一日でどれだけ稼げるかは分かりませんが、やるだけやってみましょう」


 僕の了承の言葉にメリーさんが目に涙を浮かべてお礼を言った。


「ケーイチ様! 有難うございます! これでケーイチ様に救われるのは四度目です! どうやってお返しすれば…… ハッ!? 私の身体でお返しするのはどうでしょうか?」


 いえ、僕はまだ成人してませんので…… ナタリーさんも姫様っ!! って言って怒られてるし。


「姫様のお身体でお返しなどとんでもないっ!! どうしてもと言うならばケーイチ殿、好みでは無いだろうが私の身体で辛抱して欲しい!!」


 いえ、ナタリーさん、僕は一言も身体で返せなんて言ってませんから……


 それから残り五十本の鳥串も出して、食べながら二人を説得するのにかなり疲れました……


 明日は午前七時にハンターギルド前に集合すると決めて、今日は解散となったのにはホッとしたぐらいです。


 明日、遅刻しないようにもう寝よう……

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