第17話 段位ハンター!
いったい誰?
と思ったら、レイミーさんがその人に声をかけた。
「ショートさん! 戻られたんですかっ!?」
「ああ、レイミー。
この人がヤットの父親の二段ハンターさんなのか。本当に曲がった事が大嫌いなんだね。自分の息子を容赦なく吹き飛ばした事でよく分かるよ。
「えっとですね…… あの、そこに居るケーイチくんなんです」
言い難そうにレイミーさんが僕の事をショートさんに言った。ショートさんが僕を見る。
コレが段位ハンターの威圧なのか、物凄く視線に圧を込めて僕を見てくるよ。けれども僕はついさっき、この視線の圧よりも怖い氷の眼差しを見たばかりだから、恐れずにショートさんを見返したんだ。
お互いに目を見合うこと十秒。フッとショートさんが笑った。
「凄いな、ケーイチくんと言ったか。私の視線の圧にも屈せずに私をここまで見返したのは君が初めてだよ。自分に非がないと確信している良い目だ」
笑うと途端に怖さが無くなる。本当は穏やかな性格の人みたいだね。
「ご子息に恥をかかせた事はショートさんには悪いと思ってます。けれども、ご子息自身には悪いという気持ちは一切ありません!」
僕は今の素直な気持ちをショートさんに告げた。
「いいや、ケーイチくん。私に対しても悪いという気持ちを持つ必要は無い。息子を
聞けばショートさんの前では常に良い子ちゃんを演じていたヤットらしい。ヤットの上に二人の兄がいるらしく、その兄たち二人もハンターとして生活している。長兄は初段、次兄は1級ハンターで、ヤットも兄たちのように段位を目指して頑張りますって常にショートさんにウソの手紙を出していたそうだ。
ヤットがまだ五歳の頃に奥さんが病で亡くなったのも影響してるのかも知れないとも言ってたね。
「とにかく私の教育の至らなさによってこの村のハンターやギルド職員のみんなには迷惑をかけた。これはその詫びだ、レイミー。みんなに一杯ずつぐらいしか渡らないかもしれないが酒でも飲んで貰ってくれ……」
そう言ってショートさんはレイミーさんに革袋を手渡して、ヤットを抱えて更に言った。
「取り敢えず息子を家に置いて逃げないように縛り付けてくる。息子は再教育するために今の私の拠点に連れて行く事にするよ。それから戻ってくるからケーイチくんにはこれまでの話をもう少し詳しく聞かせて欲しい。面倒だろうがよろしく頼む。狩り女のメンバーも一緒に頼めるかな?」
「はっ、はい! 光栄です、ショートさん!」
セツさんの目が潤んでるよ。まあ段位ハンターと話すなんて7級や6級の僕たちからしてみれば雲上人と話すようなもんだろうからね。
僕はそこまで感動は無いけどね。本当ならもうショートさんとも話をしたくないぐらいなんだから。目立ちたくないのに……
でも段位ハンターの誘いを断ったら逆に目立ちそうだから、僕は狩り女の人たちと一緒にショートさんを待つ事にしたんだけど。
「ああ、ここで待つ必要は無いよ。ギルドの横にギルド運営の食堂があるから、他のハンターと一緒にそこで飲み食いしながら待っていて欲しい。私も息子を置いて直ぐに駆けつけるよ。レイミー、頼んだぞ」
「はい、ショートさん!」
という訳でギルドが運営に携わっているという食堂に向かう僕たち。そんなのがあるなんて知らなかったや。レイミーさんにそう言うと、
「ゴメンね、ケーイチくん。普段から酒飲みの憩いの場となってるから、十四歳未満には教えない事になってるの。成人となる十四歳になったら教える事になってるんだけど、今回は二段ハンターのショートさんが話したい場所をここに指定したから、特別よ」
そう教えてくれたんだ。そうか、この世界では十四歳で成人なんだね。昔の日本の元服と同じか…… いや、昔は数え歳だったから…… いやいや、そうか、数え歳で十五歳で元服だったかな? う〜ん、こんな事ならちゃんと勉強しておくべきだったな。
(注釈∶【元服】実際には数え歳で十一〜十六歳頃と、その家によって違い年齢に幅があったそうです。)
「とにかく、ショートさんが来られるまでここで狩り女の人たちと一緒に待っていてね。私は食堂の人に話を通してくるから」
そう言ってレイミーさんは奥に入っていった。僕たちはレイミーさんが示した六人がけのテーブルに腰掛ける。
そんな僕たちにハンターのみんなが声をかけてきた。
「ケーイチ、凄いな。俺なんかケーイチの後ろに立ってたけど、ショートさんの眼差しに震え上がってたぜ」
とか、
「ケーイチは7級なんかじゃなく5級…… いや、4級でもいいんじゃないか」
とか、
「ケーイチ、ショートさんは人格者だからな。安心しておけ」
とゴズさんから言われたりしたんだ。で、何故か僕たちの近くに【ダンジョン調査隊】のロッシュさん、ディンさん、ヘラさんが座っている。
「やあ、ケーイチくん。僕たちも貴重な二段ハンターのショートさんの話を聞きたいんだ。近くに座らせて貰うよ、ゴメンね」
ロッシュさんがそう言って謝ってきたけど、何処に座ろうが自由席だろうから僕はどうぞどうぞと言っておいたよ。
待つこと十五分、ショートさんが食堂に入ってきた。待っていたレイミーさんがショートさんにコソっと言う。
「ショートさん…… 一杯ずつって言ってましたけど、とんでもない! みんなが酔いつぶれるぐらいあったじゃないですか!? 本当に良いんですか?」
「うん? ああ、そんなに入れてたかな? 金貨数枚と残りは銀貨だった筈だけど?」
「この食堂はギルドが運営してますから、ハンターには二割引が適用されます。つまり、金貨五枚に銀貨五十八枚あれば、この人数がたらふく飲んで食べてもまだ金貨三枚以上が余りますよ!」
「あっ! そうだったな…… いや〜、他の町の基準で考えてたから…… まあ、良いじゃないかレイミー。余った分はギルド職員のみんなで分けてくれ。これまでの迷惑料だよ」
なんて軽く言ってのけるショートさん。凄いな、段位ハンターってかなり稼げるんだね。
「いえ、そういう訳には行きません。ギルド長に相談してちゃんとハンターたちの為になるように使わせていただきます」
「子供の頃から真面目だったけど、相変わらずだなぁ、レイミー。まあ、それならそれでそうしてくれ。っと、待たせたね」
レイミーさんは僕たちを見て声をかけてきたショートさんに頭を下げてギルドへと戻っていった。
「それで、だ!! ケーイチくん!! 君の武器ってどうなってるんだ!? 聖剣ヴァリヴァリヤを斬るなんて!! アレは使い手の能力を最高に高める剣なんだ。その硬さも一級品だよ、どうやったのか聞いても良いかい!?」
めっちゃ興奮してるんですけどーっ!! さっきまでの威厳はどこへやら?
「あ、あのショートさん。僕の武器についてはみだりに話すなと師匠から言われてまして…… ごめんなさい」
ここは居ない師匠に罪を被ってもらう事にしたんだ。
「ありゃ!? そ、そうなんだ…… それじゃ無理に聞けないよなぁ……」
ズーンっていう擬音が聞こえてきそうな程に落ち込むショートさん。
「本当にごめんなさい」
「いやいや、謝ることじゃないから。ケーイチくんは悪くない。純粋に興味があったから聞いてみただけなんだ。私は武器が好きでね。ダンジョンにも未知の武器があるから潜ってるようなもんなんだ。商人の国ランナに拠点を移したのも、鍛冶の神様が作られたと言われるダンジョンがあり、商人の神様が作られたと言われるダンジョンもあるからなんだよ。お陰でかなり新しい武器が手に入ってるんだ」
そこからはショートさんの独壇場だったよ。僕たちの直ぐ近くに座ってるダンジョン調査隊の面々も聞き入ってたね。
それから二時間ほどして、
「おっと! そろそろランナに戻る馬車の時間だ。それじゃ、ケーイチくん、狩り女のみんな、本当に愚息が迷惑をかけて悪かったね。それと、この場に居るハンターのみんな! 必ず愚息は再教育して真人間にしてみせるから! 今日の所はここの飲み食い代で勘弁してくれっ!!」
「おおーっ、勿論だぜ、ショートさん!!」
「ショートさんが悪い訳じゃ無いからな!」
「それでもこのギルドに来るたびに奢ってくれたらもっと許せる気がするぜーっ!!」
「ハハハ、毎回は勘弁してくれよ、いくら私でも破産してしまう! それじゃ、また、良いハントをっ!!」
「良いハントをっ!!!」
こうして、ヤットを連れてショートさんはランナへと戻っていったんだ。
人格者ってみんなが言う通りの凄い人だったよ。
「ケーイチくん、もしも良かったら、私たちと臨時で組まない?」
セツさん、ライラさん、ハンナさんに別れ際にそう聞かれた僕は、明日もジュボッコハントに行くつもりですけどそれでも良いならって返事をしたんだ。
三人ともジュボッコハントに行くつもりだったらしく、快諾したから明日は朝七時にギルドに集合する事になったよ。
僕も段位ハンターに負けないように頑張って稼ごう。明日は今日の分も買取ってもらわないといけないしね。
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