第20話 姫様の魔獣ハント!

 そして朝七時半……


 未だに来られないメリーさんとナタリーさんをギルド前で待つ僕……


 どうしたんだろう? 何か急用が出来て来られなくなったのかな? それならそれで連絡をくれても良いと思うんだけど……


 そんな事を思っていたら僕に向かって走ってくる人がいた。


「ハアハア、あ、あの失礼ですがハンターのケーイチ様でしょうか?」


 メイド服を着たお姉さんが僕にそう聞いてくる。


「はい、6級ハンターのケーイチです」


「よ、良かった…… ハッ、申し訳ありません。わたくしメリレア様付きとなっておりますメイドでクレスと申します。実はメリレア様とナタリー様がケーイチ様とのお約束の時間にお起きになられまして…… わたくし共も昨夜の時点でケーイチ様とのお約束をお聞きしていたならお起こししたのですが…… 今朝になってお聞きしたものですから、取り急ぎお待ちになっているケーイチ様に事情をお伝えしなくてはとやってまいりました。メリレア様とナタリー様はあと十分ほどでやって参ります。お伝えするのが遅くなり申し訳ございませんでした」


 良かった、ただの寝坊だったんだ。何かあったのかと心配だったからね。


「いえ、クレスさん。わざわざ有難うございます。何かあったのかと心配していたところだったんです。寝坊なら良かったですよ」


 僕が本心からそう言うとクレスさんは胸に手を当てて、


「ハウッ!? な、なんて尊い…… 美少年の優しい微笑み…… わたくしがお知らせに来て良かった。レーアが来ていたら拐ってしまっていたかも……」


 なんて言い出したんだ。レーアさんって人拐いなのかな? それから落ち着いたクレスさんがそれではこれでと言って去っていった五分後にメリーさんとナタリーさんが顔を涙でグチャグチャにしながらやって来たんだ。


「ヴゥェェ〜ン、ゲーイヂざま〜、申し訳ございまじぇ〜ん……」


「ケーイチどの、姫様は悪くないのだ〜、わ、私が寝過ごしてしまっで〜……」


「はいはい、お二人とも。もういいですから。それよりも寝坊で良かったですよ。何かあったんじゃないかと心配してましたからね。さあ、それよりも気を取り直してハントに出かけましょう」


 僕は二人にそう言って気持ちを切り替えて貰う。これから魔獣ハントをするっていうのに泣いてたんじゃ出来ないからね。

 今日は南門に向かう。

 

 メリーさんがハントした事がある角ウサギが多く居るらしいんだ。レイミーさん情報だから確かだよ。


 馬車に乗り込みいざ出発。


「ケーイチ殿は6級になられたとか。姫様と同じでございますね」

 

 馬車の中でナタリーさんがそう言ってきた。メリーさん、ハンターギルドの資格を持ってるんだ。


「エヘヘ、一年前に取得したんですよ。一年で一つ昇級できたんですけど、今年になってから忙しくてハントに行けなくて…… でもこうしてケーイチ様と一緒に行けるので嬉しいです!」


 聞けばナタリーさんも資格を持ってるらしくて、王太子殿下の時に取得されて今は4級ハンターなんだって。二人とも先輩だね。


「それじゃ、僕は見守るだけにしておいた方が良さそうですね。僕は6級になったばかりですし」


 僕がそう言うとナタリーさんが僕にしか聞こえないように、


「ケーイチ殿。ケーイチ殿はデスグリズリーにデウスグリズリーをソロハントされる強者。本来ならば五段ハンタークラスいや、ひょっとしたらそれ以上の腕前なのです。もちろん、見守って頂けるのは有難いのですが、目立たぬ為にはケーイチ殿も何羽か角ウサギをハントされるべきかと思います」


 そう忠告してくれた。


「そうですね、分かりました。ナタリーさん有難う」


 馬車が南門に着いて門番さんにギルドカードを提示する。


「おう、ケーイチ。今日は角ウサギか?」


 門番さんは顔馴染のタッキさんだったよ。持ち回りで各門につくらしいから、今日は南門に居るんだね。


「はい、タッキさん。今日は臨時パーティーで角ウサギをハントします」


「そうか、最近になって大繁殖したらしくてな。ほらあそこに穴があるだろ? アレも角ウサギがやったんだ。だから数を減らしてくれるのは有難い。頑張ってくれ!」


 見ると防壁の下に穴があいてて内側に繋がってる。既に入り込んだ角ウサギはハント済みらしいけど、他にも出てくるだろうから少しでも減らして欲しいんだって。


「はい、頑張ります!」


 そうして僕たちは南門から外に出たんだけど、僕の気配感知にそこかしこで角ウサギの気配が……


「メリーさん、ナタリーさん。物凄くたくさん居ます。頑張って数を減らしましょう! 角ウサギはご存知でしょうけど、角や毛皮、肉が買取りされますから」 


「はい! ケーイチ様!」

「ウム、ケーイチ殿!」


 先ずは目の前に居る角ウサギ五羽をハントする事にした。角ウサギたちも僕たちに既に気がついていて臨戦態勢に入っている。


 僕が一歩前に出た途端に走り出して飛び掛かってくる角ウサギたち。でも、僕の二メートル手前で何かに当たったようにガンという音とともに角が折れてその場に落ちた。


「ああーっ!! ダメですよ、ケーイチ様! 角を折ったら!!」


 メリーさんにダメ出しされる僕。折れる程の勢いで突っ込んでくるとは思ってなかったから、二人を怪我させないようにと僕が前に出たのが悪かったみたいだ。


「ご、ごめんネ。メリーさん。二人に怪我させないようにと思ったんだ……」

 

 ちょっと落ち込んでそう言うとナタリーさんがフォローしてくれた。


「姫様、ケーイチ殿騎士道精神をお持ちの方なのです。だから女性である私たちを守ろうとして前に出てくださったのですよ。けれどもケーイチ様。私も姫様も角ウサギの突進ぐらいは躱せますのでご安心くださいませ」


 有難うナタリーさん。そう言って貰えると僕も少しだけ気分が上向きに戻ります。


 それから角が折れて倒れた角ウサギは全てトドメを刺して、一応だけど折れた角も回収したんだ。

 そして、今は三人とも横並びで二メートルの間隔を空けて角ウサギが居る方向に進んでいる。


「ハッ!!」


 ナタリーさんはさすが騎士さんだね。サッと躱してスパッと角ウサギの首を剣で斬ってるよ。


「キャーッ、可愛いーっ!!」


 その掛け声はともかくとして、メリーさんも楽に角ウサギの突進を躱してダガーで角ウサギの目を突き刺すんだ。言ってることとやってることのギャップが物凄いよね。

 でもさすがはハント経験者だよ。ちゃんと素材をダメにしない方法で二人ともハントしてるんだ。


 で…… 僕はというと……


「ああ! そんなに勢いよく来たらーっ!?」


 相変わらず、突進してくる角ウサギを躱せずに、防具の障壁にぶち当たられて角が折れてる……


 僕は素材、角を諦める事にしたんだ……


 武器も防具もチート過ぎるぐらいチートだけど、僕自身は凡人だからなぁ…… 二人みたいにサッと躱したり出来ないよ……


 聞けばメリーさんはレベル22で、ナタリーさんはレベル38なんだって。僕はまだレベル一桁台だからなぁ。レベルが上がれば二人みたいに躱せるようになるのかな?


 まあ、今は無い物ねだりだけどね。


 こうして三者三様でハントを続けて、メリーさんが十八羽、ナタリーさんが二十三羽、僕が十五羽の角ウサギをハントして、この日はやめる事にしたんだ。時刻は午後三時半。門へと戻って、馬車に乗りギルドの買取り受付に向かったよ。


「お疲れ様です、皆さん。今日はどうでしたか?」


 レイミーさんに聞かれてまずまずだったわと答えているメリーさん。角ウサギは解体せずに持ち込んだから一羽大銅貨八枚。討伐報酬は一羽につき大銅貨二枚だから、一羽銀貨一枚になるんだ。

 メリーさんの稼ぎは大銀貨一枚と銀貨八枚(十八万円)。ナタリーさんの稼ぎは大銀貨二枚と銀貨三枚(二十三万円)。


 僕? 角を折っちゃってるから、買取り額が下がって、討伐報酬は大銅貨二枚だけど、買取り額が大銅貨五枚…… なので大銀貨一枚と大銅貨五枚(十万五千円)だったよ……


 僕が一番少なかった…… チート過ぎる防具もこういう時は困っちゃうもんだね……


 まあ、メリーさんやナタリーさんがホクホク顔になってるから良いんだけどね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る