第15話 テンプレだ!

 何だろ、テンプレの匂いがするよ……


「煩いわね、ヤット! あなた達には関係ないでしょ」


「おいおい、随分と強気じゃねぇか! まさかそんな子供を連れてるからって粋がってるんじゃねぇだろうな? それともアレか? 少年趣味かお前? 立派な男じゃ濡れませんってか? ワーハッハッハッ!!」


 ヤットという男に合わせて連れのパーティーメンバーも笑ってるよ。しかし前世だと直ぐにセクハラで大炎上だよ! 昭和の時代だとそうはならなかったようだけど、その時代でも不快に思う女性は多かっただろうね。

 事実、男の僕でもヤットの言葉を不快に思ってるからね。


「そんなんじゃないわよ! ケーイチくんにはちょっとだけ手助けして貰っただけよ!」


 僕は目立ちたくないっていうのをセツさん達に伝えていたから、こういう言い方をしてくれたんだと思う。


「おいおい、ホントにこんなガキに手助けして貰ったのか? こりゃまた7級に逆戻りした方がいいんじゃないか、狩り女かりじょじゃなくて【ガッカリ女】って名前を変えてよ、ワーハッハッハッ!!」


 自分の言葉が面白いと思ってるのかな? いわゆるオヤジギャグだよ、ヤット。僕はハンナさんに聞いてみた。


「知り合いなの、あの人たち?」


「ううん、知人と呼ぶのも嫌なぐらいの知ってる人ね。5級ハンターパーティーの【やさグレ】よ。リーダーは今しゃべってるヤットで剣士。後ろの右側が魔法士のカット。左側が盾役のハットよ。全員が名前に【ット】ってつくから他のハンターからは嫌味を込めて【ト兄弟】なんて呼ばれてるわ。素行に問題が多くてギルドでも次に問題を起こしたら資格剥奪するって通達を受けてるんだけど、ヤットの親父さんが二段ハンターなの。でも今は商人国ランナに拠点を置いて活動しているからその親父さんに連絡を入れてるんだけど、まだ返事が無いって言ってたわ。段位ハンターはこの大陸では貴族並みの権限を行使出来るから、ご子息の問題行動は目に余りますって伝えてるらしいんだけどね。どうやら依頼でダンジョンに潜ってるらしくて…… それをいい事にヤットはやりたい放題してるのよ。でも親父さんがダンジョン依頼を終えたらヤットも終わるのにね。ヤットの親父さんは品行方正、曲がった事は大嫌いなハンターの鏡のような人だからね」


 親が偉大過ぎて息子がグレちゃったのかな? まあ、名は体を表すよね。パーティー名が【やさグレ】なんだから。


「ふーん、そうなんですね。でもギルドから注意を受けてもそんなに強気なのはちょっと分からないですね」


 ハンターギルドは国を越えてる組織だ。各国の首脳とは良好な関係を築くようにしてるけれども、基本的には独立した組織で、各国の行政とは切り離されている。それは他の大陸でもおんなじだって聞いているよ。


「そうなの。だから他のハンターたちもあまり大っぴらには【やさグレ】を批判しないのよ。あの自信には何かあるんじゃないかって言ってね」


「でも僕は皆さんや僕に降りかかる火の粉は払いますよ。ハンター規則、第五条のa項【降りかかる火の粉は自身で払え】に従います」


「それでももうちょっと待ってね。セツが何とかするかも知れないから」


 とハンナさんとコソコソ話してたらヤットのターゲットが僕に変わったようだ。


「おい、小僧! 何をコソコソ話してやがる! ハンナのオッパイに顔でも埋めたいのか? 止めとけ止めとけ、ハンナは盾役なんてやってるから、筋骨隆々でオッパイも鋼で出来てるぞ! ワーハッハッハッ!!」


 うん、ちょっとぐらいは痛めつけてもいいかなぁ。ちょっと僕も呆れを通り越して怒りになってきてるよ。


「訂正してください。ハンナさんの包容力は優しく包み込む柔らかさです!!」

  

 あっ! 思わず反論しちゃったけど、コレもセクハラになるよね…… 僕はチラッとハンナさんを見ると、ハンナさんは顔を赤らめながらも僕を優しく撫でてくれた。


「フフフ、有難うケーイチくん」


 お礼まで言われたよ。


「ケッ! 狩り女は全員が少年嗜好かよ! おい、カット、ハット、今なら他のハンターは居ねぇ! コイツら痛めつけて大人の男の良さを分からせてやろうぜ!」


 ヤットがそう言うとカットは杖を構えて、ハットは大盾を持ち直して突っ込もうと体勢を変えた。


「ちょっと、やる気なの! それなら私たちも応戦するわよ!!」


 セツさんの言葉にも構えを崩さない三人。それをみて取った僕は狩り女の皆さんに下がって下さいと言ったんだ。

 もうこれは僕に喧嘩を売ってるような物だからね。僕は前世でも大人しい方だったけど、売られた喧嘩を買わなかった事はないんだ。

 それはこの世界でも変えるつもりは無いよ。


 でも武器がチート過ぎるからかなり手加減しないとヤバいとは思ってるけどね。


 僕の言葉を聞いたヤットが笑う。


「ワーハッハッハッ、ガキが一丁前に女を庇おうとしてやがるぜ! カット、ハット、先ずはこのガキを痛めつけるぞ!!」


「おう! その火は全てを焼き尽くさん! 豪火炎!」


「カットの火で燃えたら俺が弾き飛ばしてやるぞ! 小僧!」


 カットが魔法を唱えて僕に向かって放つ。それを見たハットが燃える僕を弾き飛ばそうと突っ込んでくるけど……


 プシューって音を立てて僕の二メートル手前でカットの火の魔法は消えた。


「なっ! 俺の魔法を!? 気をつけろ、このガキ結界師かも知れねぇ!」


「ならば物理で魔法結界を壊してやるよ!」


 魔法が消えた事で止まってたハットが僕に突っ込んできて、そしてカットの魔法と同じく二メートル手前で何かに弾かれたように、盛大にもと来た場所を飛び越えて吹っ飛んでいった。


「グワーッ!!!」

「ハット!!」


「ヤりやがったな! クソガキがっ! 俺の剣はそうはいかねぇぞ!!」


 ヤットはその言葉通り僕に向かって走ってきて、剣を振り下ろそうとする。僕は防具がその攻撃を弾く前に木刀を腰から抜いてヤットの剣を斬った。


 キイィィィン! と澄んだ音とともにヤットの剣が鍔元から斬れて落ちた。


「なっ!? 俺の金貨一枚をはたいて買った愛剣がっ!!! 手前てめえ、その武器は何だっ!?」


 ヤットが聞いてきたから僕は素直に答えたよ。


「ただの木刀だけど?」


「「ウソつけーっ!!」」


 ヤットとカットの声がハモってるよ。男のハモリは需要ないと思うな。


 僕はそのまま優しく木刃でヤットの鎧を撫でた。バラバラバラバラとヤットの鎧が落ちて……


 しまった、まだ力を入れすぎてた! 服まで斬っちゃったよ!! 見たくないなぁ……


「フフフ、ヤット、お粗末なモンぶら下げてるわね!」

「あれでセツをモノにしようなんて、十年は早いわ!」

「ライラ、もうヤットは大人なんだから十年経ってもあのままよ」


 何か前世の女子と反応が違うね。キャーキャー言わずにしっかりと確認して批評してるよ。まあ、確かに十二歳の僕よりも小さいからね。

 アレ? そう言えば何気に前世の僕よりも今のジュニアの方が立派な気が…… まあそれはそれでイケメン神様の優しさなんだと思う事に。

 ヤットの股間のジュニアは僕の右手親指と同じぐらいのサイズかな?


 狩り女の皆さんに見られて、お粗末と言われたヤットはジュニアを手で隠し、僕に向かって捨て台詞を吐いた。


「このクソガキがっ!! 規則違反でギルドに訴えてやるからなっ!! 覚悟しておけよーっ!!」


 最後の台詞を言いながら仲間を置いて駆け出すヤット。カットは魔法で軽くしたのか大柄なハットを抱えてその後を追う。


「ウフフフ、凄いわケーイチくん。お陰でスッキリしたわ!」

 

 セツさんがそう言って僕の頭を撫でてくれる。そんなに年は変わらないと思うんだけどなぁ。


「セツ、ケーイチくんも男だ。頭を撫でたりするのは失礼だよ」


 ライラさんがそう言って感謝を表すと言いながら僕のほっぺにキスしてくれた。それを見たハンナさんが


「なっ!? ライラ、抜け駆けは許さないわ!」


 と言って鎧を脱ごうとしている。何をする気ですか、ハンナさん。僕は慌ててハンナさんを止めたよ。そしたら鎧のまま抱きしめられて、口にブチューとキスされちゃったよ。


 見た目十二歳でも中身は三十九歳のオッサンに、十六、七歳の美少女からのキスは刺激が強すぎだよ。思わずジュニアがオッキしちゃうよ。


 それに気づくハンナさん。他の二人に見えないようにサラッと僕のジュニアをひと無でされてしまった。


「ウフフ、まだ早いからケーイチくんが十四歳になったらね」


 ハンナさんが耳元でそんな言葉を囁いた。益々オッキしちゃうでしょうがっ!

 僕は因数分解を頭の中で巡らせる。

 

 ふう〜、やっと鎮まったよ。


「ケーイチくん、ギルドに戻りましょう。ヤットの奴がある事ない事言ってるでしょうけど、大丈夫だからね。私たちがちゃんと証言するから」


「そうね、私たちにまかせて!」


 うーん…… レイミーさんやターニャさんが居るから多分大丈夫だと思うけど、証言してくれるなら更に大丈夫になるよね。


「はい、よろしくお願いします」


 僕はそう言って三人と一緒にギルドに戻ったんだ。


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