第19話 終わりの始まり

◆◆◆ 第19話 終わりの始まり ◆◆◆



 ひょっとしたらこの作戦がバレていて、警戒した奴は出てこないのではとも思っていた。


だが、その時は突然きた!



暗くなった深夜、誰かが突然城壁を飛び越えて来た。



森に入る寸前で奴は立ち止まると、一気に走り出した!


身体が突然大きくなり、来ていた服を千切りながら猛然とダッシュしていた!


これは怒っている!


薬を忍ばせた事を分かているのか、それとも俺の匂いを感じていたのか、前と全く違う行動へと出ていた!


そして木々の間から見える俺の服に飛び掛かり、木と一緒に弾き飛ばし、宙を舞う人型に向かって飛び上がって大きな口で一気に噛みついた!


最大の攻撃方法が決まった瞬間だった!


「ペッ!  ガルルルル」


噛んでいた人型…………本物を俺ではない人型に作った藁人形に俺の服を着させた物に見事に引っかかっていた!


俺の利点がもう一つあった。


それは夜目は俺の方が利くと言う事だった!

狼と同じ位は夜目が利くらしいが、俺は更にその上を行く!


こんな人形に騙される事はない!

嗅覚を重視している畜生ならではの勘違いだった!


それともう一つ俺の方が勝っている点があった!


音も無く奴の後ろへと回り込む俺。

そう、こう言う隠密行動は確実に俺の方が上だった!



回りを見る狼男の頭にマジックポーチから小瓶を投擲した!


何か音でも聞こえたのだろうか、その投げた俺の方を見た瞬間!

小瓶が頭に当たって割れる!



「グッ……………グギャアアア!」


小瓶自体は痛く無かっただろうが、中身はどうかな?

コショウと唐辛子とそこらへんにあった魔物の糞と俺のオシッコを混ぜて発酵した物が、狼男の頭から顔に掛けて液体が掛かって苦しんでいる!


そこへルナバックで貰っていた銀のインゴットで作った槍先をはめた槍を思い切り投げた!


狼男は銀に弱いんだろう!


「喰らえ!!」


それを6本次々に投げる。


銀言えば俺も弱点だと思われるが、触ってもどうも無かった。

しかし奴はどうだ?


一本目は見事に腹へと突き刺さっていたが、二本目からは見事に躱される!



こうなりゃ弱っている所に肉弾戦だ!


と思った時、俺とは違う声が突然聞えた!


「ホーリーランス!」


眩い光の矢が突然奴に向かっていく!


その発射した地点には黒装束のカレンが立っていた!


「ッ!お前にはまだ早い!」



当たると思いきや、簡単に躱した狼男は、そのままカレンの元へと走り出していた!


「逃げろ!やられるぞ!」


しかしカレンは逃げもせずに再び聖なる矢を連発していく!


左右に素早く躱す狼男!


一気に近づくと右腕を一閃!


「キャア!」


カレンも躱したんだが、間に合う事も無く胸からザックリと爪が食い込み、腕も千切れそうになって転がっていた!


そして最大の噛みつき攻撃がカレンの頭をッ!


「これでも食ってろ!!」


どうにか間に合った俺は、大口を開けていた奴の口の中にもう一つの劇薬刺激満載小瓶を放り込み、強引に口を閉じさせ蹴り飛ばす!



苦しみながら地面を転がる奴を見ながら、俺は倒れているカレンを見た。


「大丈夫か?!」


「え…………ええ。もうだめかな? 身体が動かないよ」



地面には真っ赤な血が水たまりを作っていた。

胸は裂け、骨が見えて所々から血がビュッビュッと噴き出していた。


「動くな!まだどうにかなる!」


「自分の事位わかるよ。やっとこの世界で出会えた家族みたいなものだったのに…………死にたくないよ」


「まだだ!気をしっかり持て!」


「もうだめ…………ねえ、私をどうして仲間にしないの?」



俺とセックスして来た女性は必ず俺と同様に変化していたが、カレンは聖女の為か、俺の呪いを中和していた。

ひょっとしてこのまま一緒に居られるかもと、微かな期待はあったのだが、初めてエッチしてから2週間でそれを俺は諦めていた。


「…………イヤだろ、こんな男と不死身の体になるのは」


「イヤだったらエッチ……しないよ、お兄ぃ。ねえ仲間にしてよ……死にたくないよぉ」


残り僅かな力だったんだろう目に力が無くなり、それでも涙を流しながら俺の腕を握っていた。



もうだめだ


誰も仲間にして呪いの中で暮らして行かせたくは無かった。


二度とあの二人のようになって欲しくは無かった。


だが、俺は一度目の狼男との接触で、俺自身の鑑定をして、見て見ぬ振りをしていた。



「ずっと俺と同じになるんだぞ」


カレンは話す力も無かったのか、俺に微笑んでいた。



「分かった。ずっと一緒にいよう」



俺は覚悟を決めた



五月だというのに、どんよりと曇った空から急に雪が降りだしていた。


俺の体から赤いオーラが迸って行く。


左腕を俺は噛んだ!

今まで無かった牙が腕に食い込み、それを引きちぎる!


ドボドボと流れる血をカレンの体や口に注ぐ!


暫くすると急に土気色だった顔が白を通り越して、青白くなっていく!


胸の肉が逆再生をするように盛り上がっていく!



「ガルルルル!」


目を離した隙に狼男が俺の右の顔を爪でえぐっていた!



肉片が飛び散るのを左目で見ていた。


「フン!!」


そのまま俺は噛みつこうとしていた狼男を一撃のもとんに蹴り飛ばした。


噛んだ左腕はもちろん、顔を右半分が無くなっていた顔も肉が盛り上がり元へと戻っていく!


いや、一つだけ違う所があった。


それは右目も漆黒の黒目になり、両目が漆黒の目になっていた。


そして中心に小さな赤い点が灯った。



「待たせたな。これからが本番だよ」



俺の体を中心に炎が竜巻の様に回転しだした!

火災旋風の様になった俺は、そのまま奴に殴りかかる!

「グアアア!」


早さは俺の方が早くなっていた!


瞬間移動をするみたいな速さに奴は逃げ出す!


そこへ急に回りが白く成りだした。


霧だ!


興奮の為か、居場所を見失った奴は周りをキョロキョロしていた。



そこへ蝙蝠の大群が急に現れ奴に当たりだす!


腕を振り回し蝙蝠を叩き落とす所に声が響いた!


「これも一緒に味わいなさい!」


カレンの声がした!


そして今度はネズミの大群が足元からも襲いだした!



「凍れ!」


一気に狼男が凍りだす!


そこへ2m程の火球が当たり、太い腕がもげていく!


再生で腕を元通り生やしていくが、今度は羽を生やしたカレンが足を尖らせて錐揉みになりながら身体を貫く!


血反吐を吐きながらもカレンを投げ飛ばし、その隙に俺が再び奴を凍らせていった!


「そろそろ最後にしようか」


俺は凍ったままの狼男の側に行き、信じられないくらいに大きく開けた口で奴を噛んだ!!


犬歯よりも大きな牙が氷を突き破り、肩に食い込んでいく!


口の中に入り込む暖かい血が何とも言えない様な甘美な味がしていた!



だが、タフな身体を持つ狼男が、割れた氷の中から抜き手を俺の腹へと刺してきた!


一気に背中まで貫かれる!


しかし、俺は気にすることなく甘美な血を啜っていく!


奴は腹から腕を引き抜き、もう一度腹へと抜き手を刺してきた!


ドボドボと零れるはらわた。


奴は最後の力を使って俺の肩へと噛みついて来た。



そして辺りは霧に塗れ、静かな夜へと戻って行った
































「なあ、この廃墟にはお宝が眠ってそうだよな」


「この町は何百年も誰も住んでいないらしいからな。手つかずだったら何かあるのかもな」


「何か出るって噂があったけど、ありゃ噂だけか」


「あははは、みんなビビっているんだろ」



冒険者の男二人は、廃墟となった町に入っていた。


何百年も前に突然誰も居なくなったとの事だが、今となってはその原因を知る者はいなかった。


そして、ボス級の魔物がいるとの噂もあったが、出る魔物はゴブリンや、オーク止まり。

一度だけオーガが出たが、二人で協力をして何とか倒していた。


ギルド証にはAランクと書かれており、二人は名の知れた冒険者であった。



ギギギギギ――



錆びたドアの金具が不気味な音を響かせていた。


いつもどんよりとした空が今が昼間だとは誰も分からない程に時間を忘れさせてくる。


ゆっくりと巨大な室内へと入って行く二人であったが、その床には塵も埃も無い事に気が付かなかった。



トン トン トン トン


突然足音が聞こえだした!


「何かいるぞ!」


二人は剣を構えて一気に戦闘態勢に入る!



「お客様、お待ちしておりました」


突然タキシードを着た初老に見える男が階段の上に立っていた。


「誰だ!」

「人間か?」



「私は執事のセバスと申します。短い間でしょうがお見知りおきを。さて、当館の御当主様参りましたので私はこれにて」


それだけ言うと、セバスと言った男は音も無く消えて行った。


「幻か?」

「幻覚の魔法を使い者がいるかもしれん!気を付けろ!」



「それは私の事かな?」



突然、誰も居なかったはずの右側から声が聞こえ、男達は飛びのいた!



「誰だ!」



音も無く現れた男は薄っすらと届く光の中で片足を半身だけ残して少し後ろへと下げ、片足に手を当て、反対の腕を外へと広げる貴族風の挨拶、ボウ・アンド・スクレープを綺麗に見せていた。



「初対面の平民が先に挨拶をするのが本来ではあるのだが今日は特別だ、無礼を許してあげよう。何しろ久しぶりのお客様だからな。 


私の館へようこそ。私はマキシ・マクスウェル。伯爵だよ。

今日は妹のカレンがまだ休んでいるのでな。私が相手をしてあげよう。



なーに、痛くない。一瞬で終わるからな」



バタン!


開けっ放しであったドアが突然閉まった!



音に驚きドアを見ると、二階に消えていたセバスと言っていた男がドアを閉めていた。


「お前…………お前らは何モノだ!」

「やるぞ!こいつらは人間じゃねえ!」


「少し五月蠅いですね。カレンが寝ていると言ったではないか。 では最後にお教えしよう。




私はマキシ・マクスウェル。



バンパイアだよ。下っ端とは違う真祖だがね」




マキシと言った男はシルクハットにスーツ、髑髏をあしらったステッキを持っていた。

そしてその口からは大きな牙が伸びていく……


そして動けない冒険者に音も無く近づいて行った。




その後、その冒険者二人は二度と外へと出る事は無かった…………………………



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黒呪の魔眼~転移後直ぐに呪われた俺の行く末 永史 @nagaman

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