第14話 最大の敵

◆◆◆ 第14話 最大の敵 ◆◆◆



 俺は馬車に乗って隣の大きな町、アルシュタット領地へと来ていた。


ゴトゴトと馬車に揺られて2週間程掛かったが、森を切り開いて作ったらしい町が直ぐ近くに点在し、1の町、2の町と全てで9つも城壁に囲まれた町が作られていた。


何でこんな事をしているかと言うと、御者に言わせると、森の中で増える人々が勝手に集落を作り、そこに城壁を作っていった為に小さい町が点在する事になったと言っていた。


中心は領主の住む町だが、基本的にそこには全ての店が集まっていた。

そして専門店などが、他の町にあるらしい。



面倒だ。


つなげろよ。



1丁目、2丁目みたいなものか。


取り敢えず公爵の領地らしい中央の都市は、森の中と言う事もあって常に魔物との接触があるらしい。

何でここに町を作ったのかと言えば、此処には石炭や鉱石、宝石、そして油田があるとの事だった。


そんな所に住むくらいだから、領主であるこの国の王の親戚である公爵も腕に自慢がある武闘派だと言う事だった。


『武は知を凌駕する』


この言葉をモットーに子供も全て武闘派揃いで、何時版強い者が次の領主になれると話していた。



まあ、俺に関係無いがな。

公爵よりも伯爵の方が響きは良いし、普通の人間が俺に敵う訳もない。


理解できない事もあるが、気にしないでおこう。

どうせ、死ぬ時はいつかは死ぬんだ。



護衛を引き連れた馬車は町の中で解散し、大金を支払った商人達はあちこちに散らばって行った。



夕方なので、取り敢えずいつものように普通の宿を決めて、ギルドへと行く。



「ガリガリがああ!」


いきなり襲ってきた筋肉達磨の顔面に拳を入れて倒す。


「調子に乗るなよ新米!」


殴って来た拳の中心に俺の拳を当てて手を粉砕する。



「どっちが上か教えてやる!」


横っ面を張り手で飛ばし、奥へと転がっていく。



「何だ?余所者いびりか?」


回りを魔物の森に囲まれた武闘派の領主が引き入れぅギルド内は、血気盛んな野郎どもがぎらついた目をして俺を見ていた。


何も答えず、包囲網を作って来る冒険者に俺は言ってやった!



「てめえら、今から俺が此処を仕切る!嫌なら掛かって来るがいい。そう言う町なんだろ」


ギルド職員は見て見ぬ振りをしている。

つまりそう言う事だった。






そして全員倒した所で俺はカウンターへと来た。


「今日から此処を拠点とするマキシだ。宜しく」


カウンターに居たデカい女職員にギルド証を見せた。



「マキシさん……Dランクなのですね。そろそろ昇格試験を受けられては?最低でもBランクはありますよね?」


「ランクに興味は無い。面倒事も強制依頼も受けたくない。のんびり生活をしたいだけなんだ」



「おい!今仕切るって言っただろ! あべえええ!」


元気の良い五月蠅い奴が食って掛かって来たが、蹴り転がして黙らせてやった。



「伯爵領で通常の倍の魔物をソロで倒したと聞いていますが、こちらでもソロで?」


「ああ、もちろんだ」



「俺たちのトップがソロじゃあ!  あがあああ!」



中々ここは元気の良いヤツが多い。

それがウザいんだけどな。

今度は歯を折ったので暫くは話せないだろう。



「この町の周りは全て魔の森。上位種や徒党を組んで来る魔物ばかりです。それに時々ですが、森の主と呼ばれる狼が出るとの確認が取れています。くれぐれもご注意を」


「狼ね…………気を付けとくよ」


主ってフェンリルか?

狼如きに負ける訳ねえだろ。



「主は多分獣人だ。気を付けろよ、奴にやられた奴は結構いるからな」


まだ元気な奴がいたか。


獣人ね。見た事ないから会ってみたいわ。

ウサギとか猫とか可愛いじゃん!

身体機能が高い半獣半人なんだろ。一発で終わらせてやんよ!



獣人と言えば、エルフの森もルナバックの近くにいるって話だったな。

ちと遠くなったから行くのは無しだな。


俺は忠告した奴に手を振ってギルドを出た。



森へ出るのも遅い時間なので、一度宿へと向かう。


窓から見える物は街並みだけしか無く、どんよりと曇った空がまだ寒い冬真っ只中を表していた。



「寒さは苦手だったんだが、冬の方が体調が良い気がする…………」


俺はそのまま暗くなるまで窓の外を眺めていた。




次の日、少し遅めにギルドへと向かい、討伐対象を確認して城壁の外へと出て行く。

南門から入って来たので、時計回りで今日は西だ。



何てことは無い。

ゴブリンとオークの混合だったり、リーダーがいる上位種が入っていたりするが、ゴブリンはその場で粉砕し、肉の需要があるオークだけを狩っていく。


次の日は北門から出ていくが、やはり同じ雰囲気。

出て来る魔物も変わりは無かった。


そして次は東門。

ここはと思ったが、出て来るモノに変わりは無い。


どこも獣道が多く、ダンジョンのように台車に直ぐ積めない。


魔法を使って更地にする事もできそうだが、後に公爵から何か言われると困るので止めた。


ふと考えるが、俺って騎士団よりも強い?


下手すると何万かいそうだが、この地を更地にしようと思えば出来そうな気もする。


まあ、統治するには仲間が全くいないんだけどね。



更に北へと進むとマクスウェル王国の王都レリザーヌが来る。


獣人狼が出るのは何か条件があるのか?

季節とか、天気とか、時間とか…………



稼ぎだけだったら前のダンジョンの方が良かったが、アソコはね…………もうダメになりそうな気がするし。


暫く条件を考えながら獣人とやらをやっつけようと思った。




年を越し、雪に塗れ、そこそこの稼ぎを出しながら暫くの間、アルシュタット領を拠点にして生活を続けていた。


勿論、娼館はあるんだが、あんな事を知ったら利用も出来ない。

まだ俺自身に納得する自覚が無かった。



いつの日かデロイトのダンジョンにボスが出ると噂も聞こえていたが、あそこは魔物が一晩でリポップする。

多分、町までは安全なんだろう。



そして春の建国祭を前に、暖かくなってきた事もあり、魔物が溢れるように街道まで出て来るようになった。



俺は皆と時間を変え、再び夜の掃除屋として昼過ぎからの討伐を始めた。


この頃になると狼の事は一切忘れており、何かの見間違いじゃないかと頭の片隅にも無い状態だった。




生暖かい夜の中、そいつはいきなり現れた!



ザザッ


静かに音を立てずに森の中を進んでいいた。

突然背後で草を踏みしめる音が聞こえ、微かな殺気を感じて横へと飛んだ!



ザシュッ


右腕を何かが掠め斬られる!


早い!!


何か黒い物体が俺と同様のスピードで左側を通り過ぎた。


一瞬の間を持って追いかける!


思っていたのと違う!

俺の全力同様の速さで逃げる黒っぽい狼人間だった!


獣人らしきモノは細い木々をものともせずにへし折って行く!


走る速さは、木々を折りながら走る獣人と、木々を避けて走る俺と互角の速さであった。


すると、人間では出来ないような急ターンを突然決めて、一気に俺に飛んで来る獣人!


両手を振りかざして月夜に輝く爪で攻撃してきた!


それを身体を右に逃がしながら左腕で横へと弾く。


すると満月の月を背後にその姿がはっきり分かった!



上半身は筋肉隆々の狼そのものであり、下半身もアスリート並みの太い太ももに引き締まった腰!

俺よりもデカく、二本足で仁王立ちする様は正に化け物!

顔はデカい狼そのままで、大きな口からは涎が垂れ下がっていた。



「出たな狼男」


「グルルルル」


対面すると分かる。

コイツはメッチャ強い。


すると自然にマーカーが反応し、鑑定が始まっていた。


ピピッ


・■■■(隠蔽中)

・18歳

・レベル0

・狼男(呪い)

・狂乱状態


マジか!

マジで狼男か!


一瞬怯んだ隙を突かれて、狼男がダッシュしてくる!


右手を振り上げ袈裟掛けに振り下ろしてくる!


両手で握り、そのまま背後に投げ飛ばす!


ザクッ!


その一瞬で手首を曲げられ左腕に深い傷を入れられ、血が滴っていた。


一瞬で回復する身体を感じながら投げ飛ばした地点に走る!


着地した場所から立ち上がろうとする狼男に横から蹴りを入れた!


それを簡単に左手で受け止める狼男!



まずい!

力も反応速度も奴の方が高い!


メキメキと骨が握りつぶされ、久しぶりの痛みを感じ唸る俺を投げて来た。


だが、俺はそれも一瞬で再生すると、空中で練っていた土の魔法で弾を幾つも作り、着地と同時に奴に撃った!


流石にこの速さには勝てないようで、無数の玉が身体に当たる。


だが、唸りながらもその着弾点から弾が逆再生するように出て来て地面に落ちていく。



「お前も一緒かよ!」


再び俺に向かって両手を下ろして来る奴の手を合わせて握った。


四つ手の体勢で力比べが始まった。


2mはある身長から腕を舌に押さえながら、俺の手の甲には長い爪が食い込んでいた。

流れ出る血が腕を伝い地面を濡らす。


思ってた通りでジリジリと後ろに押され、腕も力に負けて曲がって行く!


臭い息を吐きながら俺に迫るデカい顔。

そこから大きく口を開けて一気に噛みつき攻撃をしてきた!


その口に魔法の火球を叩きこむ!


体の表面からならどこででも撃ち出せると知らないのか?


慌てて引き下がる奴は、燃えた毛すら直ぐに再生していた。


「ガルルルル」


「いつまで経っても勝負が付かんぞ!」


今度は俺が逃げる番だった。


木々を掻き分け弱点を知らべようとするが、徐々に迫る奴の速さに負けて考える暇すら与えてこない!


「チッ!」


火球を連続で撃ち出し、紛れて土の弾もばら蒔く!



全て有効打になったはずだが、一切効いた感じを見せずにピッタリとマークされていた。



撃っては再生され、こっちも爪でやられては再生する。

体力もあるのか、俺同様に一切疲れを知らない狼男は数時間もずっと俺と戦い続けていた!



そしてその時は遂に訪れた。


急に立ち止まると、俺を睨み付けた狼男は、一までと同じような最速の速さで後ろへと走り去っていった。



冒険者の服はボロボロで、防具もあってないようなモノだった。


決着の付かない闘いは急に終わりを告げた。


指先から水を出し、飲みながら一息していると朝日が上がりだし、俺は生き延びたと言う事を実感した。

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