第6話 二つ名

◆◆◆ 第6話 二つ名 ◆◆◆



 スタンピードが終わった後から気が付いていたが、町には冒険者が減る所か、逆に増えている。


あの大暴走で死んだ人も多かったと思うが、残党狩りを見込んで他の町から遠征に来た冒険者も多かった。


すると起こるであろうモノが起こるべくして起こった。



ドガア!


「いてえな!お前なにすんだ!」


日も暮れて暗くなった町中で、ギルド奥にある酒屋ではいつものように依頼や討伐終わりで飲んでいた常連の足を蹴った男に回りが一気に殺気だっていた。



「ああん?わりいな、ザコだから見えなかったぜ」


体つきは2m近くある大柄の男4人組がヘラヘラ分からいながら空いているカウンターへと座った。


そこへ地元常連と一緒に足を蹴られた男が背後に立った。


「ザコとはどういう意味だ、おい。余所者がデケエ面するな」


四名の地元冒険者が苛立ちを押さえられずに文句を言いだした。

だが、余所者は薄ら笑いをして言い出した。


「ザコにザコと言って悪いのか?こっちは全員Bランクなんだ、やろうってのか?」


首に掛けているギルド認識票、ドッグタグのような個人プレートを見せて来た。


◎Bランク

〇ニクラウス

〇ギルド冒険者


そこにはギルドランク、名前、ギルド公認の冒険者と言う事が書かれてあった。


その認識票には確かにBランクと刻んであり、それを見た地元冒険者が一歩引く。


「そもそもギルド内での暴力は禁止されている事くらい分からないのか?だからスタンピードでやられるんだよ」


ルナバック領地にはBランクが少ない。

辺境とは言え、敵国からは距離があり、大森林とエルフの森が敵を寄せ付けないからだ。

依って冒険者は稼げる場所に移動するのだ。


そこはこのルナバックでは無かった。


ルナバックにいるBランクは引退前の歳を食った中年だけであり、毎日を食って飲めれば良いと言うだけであり、気概があるような者は全くいなかった。



「表へ出ろや!」


言いがかりも良い所だったが、死んだ仲間もいた。

それなりにルナバックにも愛着があり、それを悪く言われると腹が立った冒険者は喧嘩腰で余所者に顎でギルドから出ろと言った。


殆どがCランクであり、ランクは負けているが言われて引くような柔な精神では無かった。


四対四であり、地元ではそれなりに実力もあった。

ランクは一つ上だが、そう簡単に負けないつもりだった。



だが、先にギルドから出ようとしていたドア付近で、後ろからいきなり蹴り飛ばされる!


不意打ちを食らった冒険者は全員ゴロゴロと道端まで転がっていた!





「うおっと!」


俺は閉門ギリギリまで討伐を行い、ギルドへ入ろうと思っていた時、いきなりギルドから突き飛ばされるように転がり出て来た男達にビックリして飛びのいた!


「やりやがったな!」


そこは腐っても冒険者!

直ぐに体勢を整え言い出した!



「その段差で躓くんじゃ実力も知れてるな」


「てめえがやったんだろううがッ!」


「それともこの町にはお前みたいなのしかいねえのか?」


「バカにするな!」


「俺が仕切ってやろうか?万年Cランクよ」


「誰が!この強盗崩れが!!」


「何い!?」



俺はこの間に立っており、あっちが言えばあっちを、こっちが言えばこっちを見てキョロキョロしていた。


どっちにも言い分はありそうだが、ギルド内は暴行禁止になっていたはず、ギリギリだがよそ者と言っていたギルド前に居る四人組の方が悪い気がする。



「マキシ!そいつは俺たちの町をバカにしやがった!お前も加われ!」


「は?」



スタンピードから一ヶ月余り、俺も何故か顔が売れていた。

夜の方が稼げると思って昼から動き出し、暗くなっても戻らずに活発化してくる魔物を狩っていく。

他に誰も冒険者が居ないのも返って好都合だった。


だからなのか、夜の掃除人と言う変な二つ名を貰い、今日も麻袋一杯に討伐証明を詰め込み帰って来たばかりだった。



「何だ、ヒヨッコが。DかEランクだろ。俺のBランクを見てみろよ」


一番前にいた男が胸からギルド認識票を出してきた。


確かにBランクとは書いてあった。

だが…………


ピピッ


・ズム

・26歳

・レベル20

・盗賊(人殺し)

・健康



「そのギルド証は誰の?おじさんのじゃないでしょ」


明らかに名前が違う。

それに盗賊?

人殺しとマーカーが示しているので、こいつは他の冒険者を殺して奪ったのか拾ったかのどちらかだろう。


「てめえ、ぶっ殺すぞ」


後ろでは馴染の冒険者が他人事みたいにヤレヤレと俺に向かって囃し立てていた。



「領地内での殺しは重罪。そんな事も知らずにBランク?ガキからやり直したら?」


俺もレベル20になり、幾つかのスキルが発現していた。それに今となってはそこら辺の冒険者に遅れは取らないと自負している。

だからこそのこの言葉だった。


「てめえ!」


腹を立てた男が駆け足で俺に向かってきた!


俺は地面の土に力を込めると5cm程度、土が隆起した!


「うおッ!」


男は足を引っかけ前に屈みながら転ぶのを耐えた。


その瞬間、俺のつま先が男の顎を横から払う!

ガコンッ!と顎にクリーンヒットした瞬間、男は脳震盪を起こしその場に崩れ落ちた!


ニヤニヤと笑っていた男の仲間が一気に殺気立つ!



足元の土を一瞬で戻し跡形も無くす。


元々オレは魔法なんか使えなかった。

だが、俺がレベル20になった時、簡単な魔法が使えるようになった。

鑑定も一つ項目が増えた。


呪い万々歳だ!



残りの三人はレベルはさっきの男よりは低く、やろうと思えばいつでもやれる。


そう思った時、そいつらは突然現れた!



「何をしている!ルナバック騎士団だ!」


白銀のチェストプレートにウエストプレートだけの簡易鎧だけを付けた騎士二人が駆けつけて来た!


「チッ!」


仲間の三人は突然駆け出し逃げていく!


残された俺達は逃げる道理もないのでその場に残っていた。



「こんな場所で何をしているんだ!」


「喧嘩ですよ喧嘩」

「余所者がこの町を悪く言うんでね」

「ギルド内じゃないんで問題無いでしょ」

「だよな、うん」


初めにおっぱじめた男達は俺の後ろ盾をしているようだった。

だったら自分達でどうにかしろよ。


「俺がギルドに戻って来たら掛かって来たので蹴り倒しました。

多分、この顔は犯罪者リストに乗っていた気がします。一度照会して下さい」


その言葉に騎士達は俺の顔を覗いた。


「夜の掃除人か…………分かった。連れて行こう」


騎士達は後ろ手に縛り、強引に立たせて何処かへと連れて行った…………



名前よりも二つ名が有名とは……何か解せん!



「流石はソロの掃除人!」

「伊達に夜の番人じゃねえな」

「お前、本当にEランクかよ」

「あれくらい俺だったらパパっと全員やれたのによ!」


みんな気分良くなって再びギルドへと戻っていく。

今度は俺を肴にして飲みだすんだろう。

一応15歳からは飲めると言う決まりらしいが、飲んだことも殆ど無かった為に俺は酒場へは行った事が無かった。

どうせなら娼館に…………


その内にな。



討伐証明を買い取りカウンターへと持ち込み、少し待ってから代金を貰う。


夜になると魔物が多くなる為に毎日の儲けも金貨1枚程度にはなっていた。


大体1万円程度の儲けだ。


そろそろ少し内部に潜って金額の高いオーク辺りを狙ってみようと思っていた。




いつもの安宿へ戻り、オーク肉のステーキとスープを頼み、身体を拭くお湯を頼んで個室の部屋へと戻っていく。


このルナバックは大陸の北に位置する為、夏の終わりが早い。


この異世界の一年は地球を同じであり、12ヵ月の一月30日だ。

8月の終わりに転移し、今は10月の初めになって夜は涼しいを少し超えて寒さを感じ始めていた。


だが、俺にとっては寒さは問題無く、今までと同じ麻で作ったシャツにズボン、皮の防具で十分だった。

寒さを感じない事は無いが、気温が低いだけで寒いと思った事が無い。

この先妙に浮くのもイヤなので、今度冬服も買おうかと迷っていた。


大事な剣を手入れを行い、桶にお湯が運ばれて来たので、全身を熱いタオルで拭いていく。

南西に行くとデカい火山があるらしく、一度行って見たかった。

多分温泉くらいはあるだろう。

先ずはこの場所でもっと強くなり、お金を稼がないといけない。


それに呪いの事もあった。


いったい何の呪いなのだろう。

俺に少しもの影響を与えているとは思えなかった。

鑑定が呪いの代償と言うのはあり得ない。

レベルが上がり身体能力も上がった。

魔法も覚えた。

一つ分かるのは、ギルドランクでは無く、俺の見えるレベルに影響されている事だけだった。


次はレベル25か?30か?

それとも俺の命か。

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