第5話 報奨金の行く末
◆◆◆ 第5話 報奨金の行く末 ◆◆◆
いつものように寝れない俺を寝たと見て、男が俺のポケットを探っていた。
直ぐに泥棒だと思った俺は行動を開始した。
この世界で泥棒は重罪。
下手するとギルド証は没収。
その手口や金額に依っては縛り首もあり得る。
しかもここは簡易宿泊所であり、お金の持たない低ランクばかり寝ている場所。俺をピンポイントで狙って来たのなら、それは俺がお金を持っている所を見た奴なんだろう。
コイツはゆっくりとポケットに結んでいた皮袋をポケットから取り出し、そこで紐を解こうとしていた。
そこへ俺は買ったばかりの剥ぎ取り用ナイフを一気に突き立てた!
「ぐおおッ!」
ナイフは相手の手の平を貫通し、床の板に縫い付けた!
怯んだ隙に足で顎を一気に横から蹴り飛ばした!
「うげッ」
脳震盪を起こして崩れ落ちる!
「泥棒だ!!」
深夜の宿泊所が一気に騒めき出す!
「誰だ!誰だ!」
「こん畜生!寝てる所を邪魔する奴は誰だ!」
「ふん縛れ!」
「窓から叩き出せ!」
「俺にも一発殴らせろや!」
唯でさえ力の有り余っている冒険者!
ルーキーが多いとは言っても身体は千差万別。デカい奴に力が強いのもいる。
誰かがオイルランプを付けた時、俺の前の前で意識を失って倒れている男に視線が集中した!
そして俺の小銭入れの紐が解け、ポケットから出ている事を皆に見せた。
「これは俺の小銭入れだ。こいつがポケットを探ったから泥棒は間違いない!」
俺は周りにいる冒険者らに言い聞かせた。
そると、ああ、あの時の坊主だだの、前線にまで行っていた奴かとか、数人が俺の事を覚えてくれていた。
そして俺と泥棒の成りを見つめ、俺にやらせろ!俺にやらせろと数人が集まり、逆エビ反りにロープで縛りだす。
此処にSMの上級者がいますと言うような素早い緊縛技を見せながら完全に身動きが出来ない状態で持っていたタオルを噛ませ、それもロープで縛り廊下へと転がした。
「さあ寝よ寝よ」
「ああ、明日突き出そう」
「縛り首かな?」
「見世物だぜ」
などと慣れた様子で直ぐにイビキを掻き出した。
折角の泥棒ショーはあっと言う間に終わりを告げた。
次の日、騎士団に誰かが通報したのか、泥棒は手から血を流しながら連れて行かれた。
その男がどうなったのかは誰も興味が無く、縛り首にもならなかった。
奴隷落ちなんだろう。
それを見ていたザルツは朝になって俺に言い寄って来た。
「よく泥棒が分かったな」
「ああ、眠れなかったんだ、直ぐにポケットを探っているのが分かったんだ」
「いや、真っ暗だったろ、窓が開いていたとしてもあの暗闇でナイフを刺せたなって」
「ああ…………暗闇に目が慣れてたのかな?何となく見えたんだ」
確かにあの時は真っ暗に近かった。
だけど思い出して見ればハッキリ見えていたんだ。昼間の様に…………
俺の目はどうなったんだ?
これも呪いのせい?
それともこの鑑定の余波があるのか?
俺は何事も無かったようにギルドへ行き、常設依頼などを確認した後で再びいつもの大森林近くへ赴き、ゴブリンを倒しながら薬草採集を続けていた。
あのスタンピードが終わって1週間が経った。
薬草の買い取りも通常に戻り、俺は値段の良い魔物討伐の仕事へと変わった。
そして俺は魔物討伐の数が一定数を超えた為、漸くFからEランクへとギルド証を書き換えられていた。
仕事場も大森林外輪部から少し中へと入った所。
少しドキドキするが、今日が初めてとあってザルツが俺と一緒に来ていた。
「マキシ、大森林に入って直ぐはゴブリンやコボルトが多いんだ。この二種類は群れを作るから特に要注意だな。後は角ウサギとかもいるが、不意打ちはしてこないから良いけど、索敵はいつもしておかないとやられるからな」
先輩と言う事でザルツは色々と注意をしていた。
この辺りもザルツのいつもの狩場なんだろう。
だが…………
ピピッ
・ザルツ
・19歳
・レベル8
・冒険者
スタンピードでいつもより多く狩ったはずだが、そのレベルはあっまり高く無い。
この世界ではレベルと言う概念は無く、俺だけに見える鑑定の結果なのだろうか。
今の俺がレベル16なので、攻撃力や防御力などの能力的には俺の半分って所か……
それに…………
ピピッ ピピッ ピピッ ピピッピピッピピッ
回りの草むらの中にマーカーだけが沢山付き出していた。
「ザルツ兄、回りを囲まれた。ゴブリンだ」
「え? 見えないぞ?」
ザルツと言うか他の人には見えない位置に隠れているが、俺にはこの鑑定で分かる。
呪いとは言うが、こんな呪いだったら大歓迎だね。
風が吹いたように草がサワサワと揺れているが、立ち止まっている俺には風は感じられない。
つまりそう言う事だ!
「背後に注意しながら一旦戻ろう」
「え?あ、ああ」
ズル賢いと言われるゴブリン。この世界でもその定説は当たっているみたいだ。
俺達が背後に後退しだすと、真後ろにいたゴブリンが襲ってきた!
しかもこん棒のような木を振りかぶっている!
俺は一気にダッシュしてゴブリンの振り上げた腕を剣で一閃!
ダッシュの速さと斬られた事に驚いている隙に、下から跳ね上げた剣で逆袈裟掛けで斬り倒す!
「あと5匹! ザルツ兄、前!」
俺の方を見ていたザルツに前からゴブリンが肉薄している!
剣を抜いていたザルツは咄嗟に前に剣を出すと、無手だったゴブリンの胸に軽く突き刺さる!
「ブギィイ!」
自分の胸に剣が突き刺さった事を認識したゴブリンが固まった。
その瞬間、ザルツもスイッチが入ったようにゴブリンに蹴りを入れて斬り掛かりだした!
その隙に俺もザルツの背後に回り、迫るゴブリンを斬っていった。
「すまんマキシ。危なかった」
「いや、草が変に揺れてたから。助け合いだろ」
「ああ、そうだけどな!」
ザルツはハアハアと荒い息を整えていた。
反対に俺は3匹を斬っていたが、全く息が上がっていなかった。
この身体は身体機能が元々高かったのか?
レベルが上がっていたからか息も上がらず、今更ゴブリンでは動きも遅くて痛手を負う事もないだろう。
それからは俺が索敵を行い、二人で仕留めるようになっていた。
スタンピード後だからか、ゴブリンやコボルトの数はそこそこ多かったらしく、二人で均等に分けてもいつもより買い取りが多かったとザルツは言っていた。
「今日はありがとうな。でもマキシは何処までも上にいけるんだろうな」
「そんな事ないよ。ザルツ兄よりも少し気配に敏感だっただけだって」
「いや、それを除いてもこの前のスタンピードの時よりも格段に腕が上がってた。俺はそこまでの強さはないって分かってる、今日だって7割はマキシが倒しただろ」
「たまたまだって」
「いいや、俺は良い所でもDランク止まりだよ。マキシは行ける所まで、何処までも高く上がってくれよ。そして俺達の事も忘れないでくれよな」
「も、もちろんだよ」
この身体の記憶にはあるんだが、俺自身にはそう言う記憶が無い。
だがザルツを見る度に、この身体はなつかしさと頼りになる兄と言う記憶を蘇らせていた。
呪いの事もあるけども、俺もどこまで上がれるか試してみたいと思っていた。
その後、夕食前になって俺は娼館へは行かず、一人で教会へと向かった。
そこでシスターにスタンピードで報奨金を沢山貰ったからと、金貨2枚を渡した。
お礼を言われながら口うるさかったシスターのふくよかな胸に顔を押しつけられ、ありがとう、ありがとうとお礼を言われ窒息しそうだった。
こんな事も悪く無いと感じていた。
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