第11話 短い滞在

◆◆◆ 第11話 短い滞在 ◆◆◆



 腰の辺りもスッキリし、朝早くに目が覚めた俺はギルドへ行く事にした。



「おはようございます。今日からこの町を拠点にしますマキシです」


ギルドカウンターのメガネ女子の職員は、俺をチラ見だけした。


「そう。頑張って」



アレ?

拠点の変更とかしたら何もしなくてもいいのか?


「じ、じゃあお願いしますね」



それだけ言うと俺は背後の掲示板を見に。


これでもルナバックでは色々と討伐してきたんで、ギルドランクはDにはなっていた。

一応単独では一個上のランクまで出来るとあったはず。


しかし、余り良い依頼が無い。


護衛、護衛、護衛…………


他の町に行くキャラバンの護衛が殆どだった。


なので常設依頼を見てみると…………


ゴブリン、コボルト、オーク、コカトリス…………



ん?コカトリス?


今まで一度も狩った事が無い魔物だ。

一応Cランクにはなっているが、常設だし行ってもいいか?

卵も美味しかったしな。うん!これにしよう!



「ねえねえお姉さん。コカトリスってどの辺にいるの?」


先ほどのメガネっ子の所に行って聞いてみた。


「あのねえ、コカトリスはCランクの魔物。危ないから言ったら駄目!初心者は近場のゴブリンでも狩ってなさい」


むっ、俺を初心者と思ってるのか?

これでも大人だぞ!

昨日も大きくってステキと言われたくらいだ。



「俺Dランクなんですけど。一個上まではOKですよね」


「は?D? カードを見せてよ」


「はい」


俺は首から下げた認識票を見せた。



「え?本当にDランク…………あ、すみません!EかFだと思って! え?パーティー?」


「いえ、ソロですけど。どの辺にいます?」


「ソロは危ないわよ。口には毒があるし、視線には石化魔法を掛けて来るし、コカトリスはパーティーで役割分担するのが一番楽よ」


「いいえ、ソロで大丈夫です。パパっと向かってスパッと卵を取ってきますから」


「ああ、卵狙いな訳ね。じゃあ問題無いかしら?医師でも投げて居なくなった好きに巣から取って来るだけだし……場所は此処から東のカトラ山の半ば辺りよ。温泉が湧いている所に多くいるから。気を付けるのよ」


「はーい」



初心者と思われていたのは少し気に入らないが、コカトリスは意外に近くにいた事は嬉しかった。


東門の門兵に挨拶しながら途中で買ったコカトリスの串焼きを頬張る。

まんまジューシーな焼き鳥だ!


コカトリスの尻尾は蛇のはずだから、捌いてかば焼きにすると意外に美味しいかもしれん。

ウナギみたいに。


ルンルン気分で山を駆け上がり、出て来た一角ウサギを裏拳で粉塵に返す。


途中で見つけた棒を持って温泉を突きながら向かった。


すると温泉の湯けむりが出ている中、十数羽のコカトリスが集団で巣を作っていた。


背後から回って棒が折れない程度に後頭部を殴って巣から卵を拝借する。


叩いて退かしてぶんどる。

簡単なお仕事である。



すると途中でマーカーが突然点滅しだした!


「ん?なんだ?」


マーカーは一匹のコカトリスの所で点滅していた。




★アラート!石化魔法を浴びせられています

状態異常は受けませんでした

以後このアラートを表示しますか?

  はい / いいえ



おっ新機能!

勿論『いいえ』だ!

俺はいいえの方に目力を入れた。



“いいえ”を選択、以後、本人と同様のレベル魔法までアラートは表示しません



うん、良い感じだな。


ひょっとして未発見の表示がまだあるのかもしれないな。


今度から色々試してみよう!



だが、そのコカトリスは俺の方を目が血走る程睨んでいた。



「そんなに見つめると穴が開くだろ。死んどけ!」


キュイーン ブシュッ!


アースブレットで首を吹き飛ばした。



するとその音で一斉に皆から睨まれた。

多分石化魔法を出しているんだろう。

俺はブシュン!ブシュン!ブシュン!ブシュン!ブシュン!ブシュン!ブシュン!ブシュン!ブシュン!

と連続でコカトリスの首を飛ばしてく。

何故かこいつらは殆ど卵の上から逃げないんだ。撃ってくれと言っているもんだ。


倒しきったコカトリスの足をロープで結び、棒にぶら下げていく。

勿論卵は麻袋の中に沢山入っている。


俺は僅かな時間で狩りを終わらせ、再び温泉へと浸かった。


ついでに卵を一つ源泉近くに入れて温泉卵を作る。


サッパリした所で冷え冷えの水を指を咥えて飲み、丁度良い感じの温泉卵を割り、少し塩を掛けて食べた。


「んまい! しっとりとして中は少しとろっとろで、ああ、卵ってんまいなぁ」


素っ裸で食べる卵は格別だった。



その後、ギルドまで行って換金する。

遠目でメガネっ子職員がもう行って来たの?と驚いた眼で見ていたが、こんなもんですよとサムズアップして見せた。


小腹が空いていたので屋台で串肉を食い、町中を散策して回った。



やはり観光地なのか、武器道具はそれほど良いモノは置いて無く、領主の城も城と言う程大きくも無い。

しかも魔物はそれほど強い者も多くないと言う事で短期間の滞在が決定したようなモノだった。



夕方になって再び娼館エリザベスの館へと向かう。


「いらっしゃいませ、気に入って頂きありがとうございます」


直ぐに気が付いた店員のおじさんが、挨拶をしてきた。


「暫く通おうと思って、また来ました」


入場料を払い、嬢の待機所へ。


昨日対応してくれたカレを探したが見当たらない。

残念だと思って他の人を探そうとしていた。

すると奥の方で小さく手を振る女性がいた。


誰だと思って近づいてみると、それは凄く綺麗になったカレだった!


「え?カレ?」


「はい!マキシさん昨日はありがとうございます!」



可愛い感じはもちろんあるんだが、一晩でここまで変わるのかと言う程の変貌を見せていた。

回りの嬢も気味悪がって少し間を開けているが、白い肌はそのままで、髪、肌艶からはオーラのような雰囲気を出していて、一皮剥けたように美人に変わっていた。



「なんか雰囲気が変わった?直ぐに分からなかったんだけど」


「うふふ、昨日はマキシさんが最後のお客様だったんですけど、夜から調子がとても良くて、朝目が覚めると何か私が私じゃないようになってて。これもマキシさんのお陰かな? 今日もどうです?」




何かが違っていた。

大人になって二日目な初心者なので、詳しくは分からないが、昨日と何かが違った。

悪い意味では無くて凄く良い意味で良かった。


肌がぴったりと合うと言うか、長年連れ添った伴侶だとこうなるのかと思うような感じだった。




「ねえ、時間を空けておくから次に来る時間とか教えてください」


ピロ―トークではないが、カレから次のお誘いを受けた。


お金は本当に腐る程あった。

普通の生活をしていれば、何千年も生活出来るほどに。

だから俺はこの不思議な感じを確かめる為に毎日、火が暮れる頃にくると伝えた。




それからの俺は、毎日娼館へと通った。

どんどん綺麗になっていくカレとの逢瀬を確かめる為に。


それが1週間ほど経った時、カレは突然娼館を辞めていた。


あれ程に妖艶な美貌に変わっていたんだ。

何処かのお店に引き抜かれたのではと思ったが、店員のおじさんに聞くと、田舎へと帰ると言って辞めて行ったそうだ。



連日カレの指名をするお客が多くなっており、その賃金が溜まったのだろう。

残念だ。



俺はこの辺が頃合いだと思い、僅かな滞在に区切りを付けて他の町へと行く事に決めた。



次の日を食料調達に一日使い、装備などを確認してから俺は短いベルツ領に別れを告げた。



「おい、近頃男の変死体がこの辺りや町中で見つかっているらしいからな、お前も気を付けろよ」


ギルドで他の町を聞いている時に、職員の男が俺に忠告してきた。


「変死体ですか。怖いですね」


「あんた夜の掃除屋って言われてたんだろ。必ず夜にやられるらしいからな、気を付けろよ」


「ああ、分かった」



俺は幌馬車に乗り、幾つかの小さい集落を経由して隣の領地へと向かった。


やけに魔物が多く、護衛していた冒険者が全て対応している。

寝る間も無いほどに。


これじゃ金額と見合わない!と声を荒げていたが、俺は単なるお客なので知らない。

剣もマジックバックに入れて、ナイフしか持っていない旅人を演じていた。


この頃になると、飛竜と言うちっこい竜種が飛び始めていた。


人間に危害を加える事は無く、魔物などの死体を食い漁るので、荒野の掃除人と呼ばれているらしい。

だが、気を付けないといけない事があった。

こいつらは竜の親戚らしく、殺したら本物の竜。所謂ドラゴンが仕返しに来ると言う話だった。



無線もメールも無い世界で、どうやって連絡しているのかが興味があったが、ドラゴンに現れても困るので、何も見てない聞いていない事にして次の領地、デロイトにたどり向かっていった。


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