第2話 スタンピードの終焉

※明日から7時と17時に予約投稿しています


◆◆◆ 第2話 スタンピードの終焉 ◆◆◆



 ここは俺の育ったルナバック領。

名前マキシ、年齢15歳。

孤児院を卒業し、兄貴分のザルツに誘われ冒険者として働き出して数ヶ月…………


俺の精神が入っている身体の記憶が次々と出て来る!


何で俺はここに居るんだ?!


地響きがはっきりと聞こえだす中、さっきの俺を抑え込んでいたモノから人々はいつの間にか人々は散らばっており、全身甲冑を着こんだ騎士団が後ろに隊列を組んで迎え撃つ体制を取っている!


アレが騎士団と言う事も見ただけで分かる!

それにその後ろには5・6名の白いマント…………いや、ローブを羽織り長い杖を持った魔法使いまでいる!


「迎撃用意!」


「バカ!巻き添え食らうぞ!!」



ボーっとしていた俺を横からさっきのザルツが俺の手を引いて大通りに面した家の壁へと連れて行かれる!


「騎士団の邪魔をすると魔物と一緒に討伐されるんだぞ! 俺達低ランクは撃ち漏らした魔物との闘いだけだ!」



「わ、分かった!」


徐々に激しくなる地響き。

代わりに俺らのいる方は静まり返っていた!



「前線が突破されたんだ!来るぞ!」


月夜に照らされた大通りに黒い物体が見えだす!


それの顔が人間では無く、異形のモノだと言うのは直ぐに分かった!


犬?

全身が毛に覆われた二本足のモノが走ってこっちに向かっていた!


その後ろからも大きさの違うモノが駆け足で来ている!



「魔法射出用意!…………撃て!!」


ローブを着た人達から火の玉が打ち出された!


ボボボボボボン


火の玉は、円弧を描きながら遠くにいる異形のモノへと当たり、バンッ!と言う音と共にそのモノを火だるまにしていく!


「詠唱再開!…………撃てええ!」


ボボボボボボン


密集している中へと着弾し、また数匹が火だるまへと変えていく!



「魔法師団は適宜撃ってよし!いいか真っすぐだけ狙えよ! 騎士団密集体形! 突っ込めええ!」


全身甲冑姿の騎士と呼ばれる者達が、槍を持ったまま三列体形で前へと進みだす!



「先頭はコボルトだ!素早いから気を付けるんだ!剣は抜いとけよ!」


「は、はい!」


ザルツが俺に指示を出し、自分の長剣を抜く。月光に照らされた鈍い光を放つ剣が、これは現実だと言い聞かせているようだった。


俺も刃渡り30cm程度の短剣を腰から抜く。


冒険者に成りたてであり、毎日の殆どを薬草採集と小動物しか狩っていないオレ・・は、この大規模戦闘にビビっていた。

しかし、頭の中のはこんな所で死んでたまるかと、意外に冷静になっていく。



「来たぞ!」


コボルトと言っていた痩せた犬顔の1,2m余りのモノが一匹方向を変えて俺らのいる家の壁面へと走って来た!


そして体当たりをかまして来ると同時にザルツが蹴り倒し、腹を切り割く!



「ブギャアアアア!」


転がったコボルトの背中に足を乗せ、動きを封じ込めた!


「マキシ!お前が止めを刺せ!早く!」


「ッ! あ、ああ!」


持っていた短剣に更に力を入れて握りしめた。


やらなきゃ俺らが死ぬ。

生死とは一切関係の無かった世界で育ち、のんびりと過ごしていたはずなのに。

いったい何がどうなったんだ!?


「やらなきゃ俺らが死ぬんだぞ!やれ!直ぐに慣れる!」



思っていた事をザルツに言われ、俺は覚悟を決めて背中の胸の辺りに剣を突き刺した!



ズブズブと肉を切り割き入って行く短剣。

力が余りないのか、動き回る身体に乗ったザルツを跳ねのける事は出来ず、俺の短剣に突き入れられながら動きを止めていく。


動かなくなった事で剣を抜こうかと思い、ザルツの顔を見ると、ウンと頷いていた。


俺は短剣を抜くとその場所からピュッと真っ赤な血が飛び出し頬に掛かった。


若干暖かい血を手の甲で拭い取る。



「大丈夫か?気分が悪くなる奴がたまにいるが。今はどんな感じだ?」



「良くは無いけど……悪くは無い」


「よし!またくるぞ!俺が牽制するからマキシが止めを刺せ!」


「……うん!」


近寄って来たコボルトの足を斬り、倒れた所で俺が首を斬る!


蹴り倒されたコボルトの腹を蹴り、悶絶している間に頭に短剣を刺す。


次は1m程の小鬼。


「ゴブリンも来たぞ!やれるか?」


「大丈夫です!」


次々に現れるゴブリンをザルツが一撃入れ、それに俺が止めを刺す!


二人一組の連携を作り、騎士団が押し上げる戦域に沿って町の外輪部へと戦い続けていく。



「危ない!!」


背後の小さな路地裏から出て来たゴブリンを蹴り倒し、短剣で首を斬る!


徐々にこの戦争に身体が慣れていた。

コボルトは前後左右に動き剣を躱す事もあるが、ゴブリンは頭が悪いのか、来る時は一直線だ。


二種類とも小さく力も弱い。


俺の体も細くて力が無さそうに見えているが、意外に力があった。

スタミナもあるのか、一切の疲れを感じていない。


だが終わりの見えない闘いに、一人、また一人と魔物の中に人が倒れ消えていくをの何十と見ていた。



俺ってこんな事初めてなのに、どうしてこんなに冷静になれるのかと思いながら、回りが良く見えていた。



進行方向に対してザルツの斜め後ろに居た俺も、ザルツの剣の範囲に入らないように真横に居られるようになっていた。


ゴブリンの腕が伸びて来る。

それを短剣で斬り払い、胸に短剣を突き立て蹴り倒す。

背後から現れた新しいゴブリンの顔を蹴り上げ、むき出しになった首を一閃する。


コボルトも、ゴブリンも、ほぼ二撃で仕留められる。


何時の間にか乱戦になり、ザルツを見失った。


だが、行く手を邪魔する魔物を斬り割き、騎士団と共に前線を押し上げていた。



バキッ!


「くそッ折れた!」



ゴブリンの目に短剣を突き刺した拍子に短剣が折れた!


「俺のを使え!!」


隣にいた騎士が声を掛けて来た!

その腰に帯刀している剣を俺に向けて。


「悪い、借りる!」


騎士の腰から抜刀すながら背後にいたゴブリンに上段から斬り落とす!


漫画の様に首下まで真っ二つに分かれながら沈む魔物。


リーチも伸びて切れ味も倍増!


俺は新しい剣を持って、生き残る為と言う思いを忘れ、その騎士と共に戦い続けていた。



町の外輪にある城壁まで到達し、戦いは佳境を迎えていた。


「第三段は来ない!此処を凌げば終わるぞ!」



誰かの声と共に城壁から矢が降って来る!



騎士団と冒険者の奮闘からか、乱戦だった戦域は減っており、徐々に城門へと押し戻すようになっていた。


俺は借りた騎士と共に戦闘に立ち、数匹いたデカい身体の豚の化け物らと対面していた。


いや、豚と言うよりはイノシシか。

焦げ茶の短い毛が密集しているし、口からは下あごから突き出た太い牙が見えていた。


その数10は下らないが、このスタンピードで武器を持っている魔物が少ない。

こいつら大物も武器無しでここまで来ていたからか、騎士団に取り囲まれていた。



ザシュッ!


「うぐッ!」


「このザコがあ!」


イノシシのオークに気を取られていた隙に、背後からゴブリンの爪で斬り割かれたが、近くの冒険者が、代わりに斬ってくれた。



「すまん!」


「良いって事よ!」


気さくな兄ちゃんが笑顔で行ってしまう。

防具は皮の防具だが、背中は基本的に守られていない。

肩と胴をベルトで固定しているが、その背中の隙間を狙ったんだろう。


服を切られて肌まで切られた感触があるが、傷はそう深く無いと感じた。



回りを警戒しながら先ほどのオークを見ると、身体や腕、足に槍を突き立てられ、身を振るって槍を折ったまま反攻していた。


俺も最後だと思い、背後に回って膝裏の腱を斬ると、そのオークは立つ事が出来ずに派手な音と共に倒れた。そこをタコ殴りのように一斉に斬っていく騎士団や冒険者。



回りに動く魔物が見えなくなると、朝日が昇っている事に気が付いた。


そして身体が鉛のように重く感じ、城壁に背を当てて座り込んでいた。




初めての異世界

初めての戦闘


何も分からず巻き込まれたスタンピードに俺は生き残った実感を一人味わっていた。

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