第18話 トーナメント⑨ 完全無欠のマグマヤロー!

Bブロック第一試合、ユードVSファッスルの結末は、「やりすぎ」をあれほど嫌っていたユードがファッスルに致命的なダメージを与えて決着をつけた。


圧倒的行動の矛盾、困惑している学生と観客。それらに目もくれず、ファッスルをおんぶしてユードは広場を後にする。







「ねえ…ユード君はこういうの嫌じゃなかったの?それに…」

「キュアンナがどうなっているかわかってやったの?もう、治す分の魔力はないんだよ?」



この傷をすぐに治せないなら…失血死は免れない。

ユードは依然下を向いている。


「ねえ…何か言ったら…わぁ!」


突然押しのけ現れたのは…カイザリオン。「マグマ」を使っていた男の子。

何をするのか。とその時


「ボクが治すよ! 自浄作用オートヒール!」

状態を巻き戻したとも見間違えるほどに、傷がふさがり意識も戻った。

さらに困惑する一同。本来、この世界では魔法は一人に一つしか宿らない。先ほどのカミナのように、解釈と発想次第で能力の幅を広げることはできるものの、原理が異なる魔法など使えるはずがない。しかし、カイザリオンはいとも簡単にそれをこなした。

(次も会おうね。ユード君♪)

思考停止するユードの耳元で、カイザリオンは優しくささやいた。




「えーと、うん、おしまい!」

状況を飲めないファッスルを含めた皆がたたずむ中、ユードは逃げるように走っていった。その頬には、赤みがかっていた。



   ◇




「試合10分前だ!グローウィ・タルスとカイザリオンは広場に来るように!」

お、もうあと10分か。少しかっこいいとこ見せなきゃなぁ。


ボクの名前はカイザリオン。先生からブリューナク最強と言われている生徒だ。

だけど、ボクは自分のことをちっともすごいとは思はない。なんだって、もうとっくに自分よりすごい人を見つけてるのだから。




「ホント~ユード君はスマートでスタイリッシュでアグレッシブなな戦い方でかっこいい~なぁ~♪

ボクもあんな感じで勝ってみたい!」


そう、ユード君はほんとにかっこいい。商店街のときから何回も見てたけど、マジでクール!銃を使うさまがほんとにかっこいい!

そして今日、やっと話せた!しかも顔を赤らめてた!これはボクのことが気になっているんだ!



   ◇



「お、来た来た。」

「どうした?ユード?」

「カイザリオンだよ。」

「へえ、生徒内最強と言われている人じゃないですか。」


俺はファッスルの隣に座って、名誉の恩人(?)の試合を見ようとする。

てか…フェリアなんかよりずっとかわいいこと。小っちゃくて、やさしい声で…

フェリアと性別が逆だったらいいのに…とちらりと見る。

「…デスヨネー。」

やっぱまだ怒ってたわ。


「でも…グローウィ・タルスもなかなかだって聞いたことあるぞ?」

「なんにしたって、貴族の家系だってさ。ファッスル君。」

マーセンが口を開く。こいつって、こんな情報通だったっけ?

貴族の家系か~。すこーしだけうらやましがりながら、もうそろそっろ始まる試合に目を向ける。


「これよりBブロック第二試合、グローウィ・タルスVSカイザリオンを行う!」


「始めい!」


先手を打ったのは、タルス。

「フェイルノート!」といい、魔法陣から弓をとりだし、力強く引っ張ってはなった弓は明後日の方向に飛んで行った。

しかし、それはカイザリオンにめがけて方向を変えたではないか。



一部でどよめきが起こる。間違いない。あれは「魔道具」だ。

魔法を込めた武器。どのようにして生まれるのかは誰にもわかっていない。

基本的にかなり貴重な代物であり、一つ売れば最低ランクの代物でも家一軒は立つ。

フェイルノートは低ランクの魔道弓であるが、その能力は「必中」。

確定で当たる、なんともシンプルな能力。

だが、魔道具には難点がある。

それは、持ち主の魔法、魔力と混ざり、異常反応を起こすからだ。ファッスルが使ってみれば、たぶんその矢は肥大化して使い物にならなくなる。

それを難なく扱うには、魔法を遮る膜を作る、他人に魔力をまとわせれる、即ち魔力の放出をできなければ話にならない。


んで…セフィムは何で目をキラキラさせているんだ!?


放たれた矢はカイザリオンに当たる…その時、あいつは俺と同じような足さばきでミリ避けをした!

しかし、「必中」はその程度で止まらず…いや、止まっている。空中で静止している。そして、矢じりだけ粉々に砕け、棒は当たって落ちた。


「う、うそかよ」


タルスはビビったものの、直ぐ立て直して4連射した。

それらはすべて空中で止まり、矢じりは破壊された。


「ならば…クラウソラス!」


直ぐに切り替え、また魔道具を魔方陣から取り出した。

その二振りの剣は、片方が光り輝いていて、もう一振りは一片の誤差すらない精密で至高の宝といえるもの。

タルスはそれを持ち、走ってカイザリオンのもとへ駆け出す。

カイザリオンはその2振りの連撃も最低限の動き俺のパクリで避けていく。


(スマート、かっこよく、早く)


「ん…カウンター用の動きなのになあ…もったいない。」

天才的なセンスに脱帽すると同時に、俺はすこーし不満を漏らした。


クラウソラスの双剣は、光が増すと振りの速度が増し、もう一振りの曇りが取れるにつれ、重みが増す。さすがにカイザリオンもこの動きでよけきれないところまできた。

「グングニール!」

その投擲は、カイザリオンの肘をかすめた後にタルスの手元に戻る。

能力は必中に加え防御無視、リターンの3種類混成。どう考えても高ランクのもの。

カイザリオンはバックステップで距離を取り、笑顔で言う。


「ちょっとね!ボクのあこがれの人にかっこいいとこ見せたいからさ!

本気でやるよ!」

会場皆の心臓の鼓動が高まる。魔力がうねる。安らぐ声で言ってくれたから何とかなったけど…マジで死が近い気分がした。


「まずはこれ!グラビティオルガン!」

体をそらし、空気を捻じ曲げる重力を飛ばす。


「クラウソラ…ぐうぁ!」

生半可…いや、防げるものではない。紙屑のように壁に突き刺さった。

回復、重力、マグマ…まったくもって奴の魔法のからくりが読めない。


「もういっちょ!」

「イージスぅ!」

二回目は盾により防がれた。「概念防御」が妥当だと思うが…カイザリオンは重力を応用して浮遊しながら新技を放つ。


「マグミティオルガン!」

「イージス!!」

鈍重なマグマを勢いよく重力で打ち出す。単純に見えて一番えぐい技。

盾なんぞ数秒で溶け去った。


「グローウィ家のために負けるわけにはいかんのじゃあ!」

「エクスカリバー!」

「!!!!!」


セフィムが気絶するほどの伝説級の魔道具の一振りで、マグマは重力ごと両断された。

「エクスカリバー」。皆が知る伝説の剣。その能力は極限強化。ファッスルの上位互換になると考えていい。それと次元を切る能力。何であろうと切る。このような代物を何でこいつが持ってるか勝負内容より心配になるほどだ。


だがカイザリオンは…何故か空中で逆立ち腕組みでかっこつけていた。


「ちぇりりゃゃぁぁ!!」

音速をはるかに超えた踏み込みで空に飛ぶタルス。

それを笑いながら迎え撃つカイザリオン。

勝負は一瞬の刹那に決まる。


「フィナーレの!マグミティドレガン!!」

さっきと同じ攻撃重力とマグマ、また切り裂くべく剣を振ったその時。

次元全てを切る剣が止まった。

それは木の根っこみたいなものに止められていた。

そして重力とマグマがタルスを飲みジュッ、と嫌な音を立て地面に落ちる。

「わわわ!!やべやべ!!大丈夫!?」

黒い炭になったタルスとエクスカリバーにカイザリオンは駆け寄り、また「自浄作用」を使用した。

「あと1回か~節約しなきゃね。」


もはや死んでいるほどの状態だったタルスは即座にぴんぴんして、すぐに立ち上がった。

「え…あーと。ギブです。」


「グローウィ・タルスの危険によりカイザリオンの勝利!」

あまりにも離れている力の差。さっきの木の根っこには、吸収の魔法があった。魔道具はもともと魔法を込めた武器。魔力を取り除けばエクスカリバー程の宝剣もただの業物と変わりない。

しかし、マグマがかかった木の根っこは何で燃え尽きないのか?

考えられるのは…膨大な魔力を纏えること。しかも自分の射出した魔法に。

この仮説が本当なら、セムセムの日ではないほどの近距離適正はおろか、

空も飛べる。…いや、飛んでたわ。


「えぐいねえ…マジでワクワクしてきた。」

超久しぶりとなる格上との戦い、しかも完全決着まで安心してできる。そう考えたら顔がニヤついてきた。もしかしたら俺も戦闘狂なのかもしれない。


「悪魔みたいな顔ね…」

冷徹なフェリアの言葉。たまらず俺はシュンとする。

「おいおい…俺は治ったからもういいだろう?ギスギスするのはやめようぜ?」

ファッスルがフォローするが、やっぱ俺は怒られてもいい。

さんざんキュアンナの窮状を聞いていながら、迷いなく大怪我人を増やしたのだから。

カミナに文句を言ったのに、同じ穴の狢だったから。

手刀で意識を落とすなんぞ漫画のようなことはできないながらも、もうちっと何かあったはず。

でも…なんかな~なんかおかしいところがあるな…


くよくよしても仕方ないから、天使カイザリオンが俺に向かって手を振る中、会釈だけして初めからやろうとしたことをするためにある場所へ向かうことにした。



     ◇




「ゼルガアルよ。お前はこいつカイザリオンのことをどう見る?」

「誠に申し訳ないものの、私1人の力では…敗北します。が、他のfoursと組めばきっと落とせるでしょう。」

「よいよい、はっきり伝えてくれて作戦が取りやすい。」

「メリデム、ゼルガアル。今回は戦争のきっかけとして回復役《キュアンナ》を殺さないことにした。ここで勝てる見込みは薄いからな。」

「ま、後は商店街にでも行って楽しんできなさい。しばらく旅行はできないからな。」

「…戦争が終わるまでは、な」



    ◇


かつん、かつんと暗闇の廊下に響き渡る足音。少し開けて明るい場所には、世界最強とうわさされるマリウスという男が喫煙していた。

義務、責務から逃げれるこの行為こそ、今の彼が求める至福。

だが、それを壊されることになるのは薄々承知していた。


「…なぁ。マリウス先生」

「ユード君か。こそこそ付け回ってたのは知ってるぞ。要件次第では…ひっぱたく。」

?」

「やっぱりか…聞いてたのかよ…」

マリウスは頭をポリポリ搔きながら恥ずかしがる。

「俺に…俺にカイザリオンを倒すための稽古をつけてください!」

煙とため息を出すマリウス。安易なことを言うから、もう断れなくなってしまった、と後悔しながらも返す。


「カ~っ。試合30分前から稽古って…まあいい。お前は負けてないんだ。出来る程度の稽古はしてやる。俺について来い。お前に足りない応用力と発想を伸ばしてやる。だけどな…ホントせこいやつだよなぁ…お前というやつは。」


「ひひ~せこいから今まで生きてこれたんです~。」



いよいよ次は使とのバトル。でも、かわいいからとかでは手は抜かない。

ましてや男なんだからマジで殺す気で行ってもいいでしょ!


なんにしろ、決勝でカミナに…あれをするために。








・魔方陣

使用者 グローウィ・タルス

分類 象形魔法


事前に魔力でマーキングしていたものならば、自在に取り出せるという能力を持つ魔法。この魔法は何も殺傷力はないものの、タルスはあらかじめ所持している魔道具を出し戦う。








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