第0話 不幸を知らぬ幸福者(1/2)
これは、少しだけとおい、青年たちが、反逆を起こし、理不尽によりつぶされる、物語の前日譚。
薄汚れた路地、ネズミが人間の死骸すら食べて生きるこの地。戦火の跡は、復興など気にも留めず、無機物は灰色が円環を描くこの地。その一方で王族、貴族、1部の大人のみ住む円形の町があり、オブサレの7国のうちの1つで、他の6国に囲まれた地。
その名前はキングダーズ。現代における最強の国であり、昔はもはや亡国であった国。
「ん~うま!この兵士が水を持ってたおかげでひさしぶりに柔らかいコメが食べれる!幸せ~だよ~」
この青年の名前はフリデス。他国の兵士の亡骸から奪った水を、携帯の食料にかけて食べている。
なぜ子供たちが他国の兵士を害しているのか? それは、この国が、6国の中心に存在し、なおかつ国力が弱いせいで、分割の危機にさらされていることによる。
当然、6国は分割地を多く得るため、毎日のようにキングダーズを陥落させようと、武装兵と魔導士を送り込んだ。当然、キングダーズの戦力では太刀打ちできるはずがない。滅亡の危機を自身の魔法「未来」により、かなり前に知ったキングダーズ国王のヨーダインは、まだ幼い「壁」の魔法を持つ子を探し出し、奴隷、地位、権限、人間の魂についての認知を与え、「権力者に従い、権力者のために死ね。それがキングダーズの人間だ。」と洗脳し、来たる侵略の日の当日、その子を自害させ、発現した魂で「壁の概念」を使用し、国の中心部付近から高い壁を出した。
我先にと攻める6国は、せりあがった壊すことのできない概念をどうしようもなく、壁の外の街をすべて焼き払い、蹂躙し、去っていった。
その時に、6国たちはほかの国も同じ穴の狢ということを知り、以後、共同で壁を上るのではなく、侵入しては殺し合い、他国の侵略計画を延期させるようになった。
だが、6国全てが均衡であるわけではない。壁を越えかける兵士もいる。キングダーズの兵力では守り切れぬほどに。
そこで、壁の内側では、狭くなった国の口減らしも兼ね、魔力を扱えるようになった年齢の子供と40歳以上の非魔導士を、全員壁の向こうに捨てる。当然落下死人も出るし、兵士に殺されるのもいる。
だが、必要のない人間が他国の兵士を殺し、妨害し侵攻を遅らせてくれるだろう。ここまで有効的な名案はないという権力者の一声で決まった。
ここまで質の悪い弱肉強食の世界で暮らせている人間は、かなり強い。だが、物心がぼんやりしている時期に捨てられたので、キングダーズへの反逆などみじんも考えることなどできなかった。
「や。フリデス。三日連続で飯にありつけるとは贅沢者め。」
「へっへ~勝負は僕の勝ちだな!フェルシュ!」
「なんの!まだ空は明るいぞ!」
この二人は、偶然にも同時に落とされ、その時ちょうど壁を上る敵兵の頭に…すなわち、人間爆弾のようにおとされ、なお生き延びた者。
生存した奇跡、あれで敵兵を殺せた奇跡。そのミラクルを共有した彼らは、当然のように協力しながら暮らしている。
「いいよ。ごはん探し。手伝ってあげる。」
「いいのか!?」
「その代わりまた貸しね?」
(めちゃちょろくない?返した覚えないし。30以上は聞いたよ。)
そうして、敵兵、魔導士を探しに行ったとき、ちょうど目標が3人も固まっていた。
それに…囲まれた、白い服の少女。
「助けに行く?」
「行く。」
瞬間飛び出すフリデスとフェルシュ。フリデスが先に短剣を二本生成して、男の一人の首、両腕を刈り取る。
「!? 誰…」
男のもう一人が気づき、銃を構えるも、少し遅れてフェルシュが自分の「時間を加速」させ、フリデスからナイフを取り、一息で男の心臓に根元まで一突きにした。
「わ、、わわわ!!」
3秒にも満たない時間で仲間が全滅したのを見て、男が慌てふためく。すぐにそれは最後の遺言となった。
その人たちから食料を奪う前に…襲われていた少女に話しかけることにした。
「あの…大丈夫…でしたか?」
「おみぐるしい?物を見せてごめん。」
「ううん。ありがとう。それに…そんな硬くならなくていいわ。私の名前はリーナル。もし、いいなら…私についてきて。アジトに案内してあげる。」
しっかり男たちから食料をとれるだけ取り、リーナルと名乗る少女についていくことにした。
ここから、彼らの認知できなかった絶望が崩れ去ることとなる。認知の膜がはがれた絶望。降りかかる災難を登り切り、偽りのない平和と幸せをつかむ。彼らには、その時に知る由もなかった。
リーナルとともに行ったアジト、そこは何もない更地だった。
リーナルが大声で叫ぶ。「おとーさん!!3人で帰ってきたよー!!!」と。
その時、魔法が消失した反応がし、更地の岩には1本の線ができ、そこから岩が開き俺たちは落下した。
尻もちを打ち、とっさに剣を構え、見上げた先には、一人の男性がいた。
「おとーさん!また私たちの計画に賛同してくれそうな人たちを探してきました!」
「「いや、、、話から、、」」
「おお~!さすがだ!わが娘よ!ホントかわいいやつめ!」
話を吞み込めない2人を前にして、ファルフィオスと名乗る男が娘の頬をすりすりしてるのを見、さらに困惑が募る。ただ、彼らのほかにも数十人、彼らの言う協力者がいることが見えた。しかし、なぜ…この世界に親というものがいるのか。この世界にいるのは、敵兵と、子供だけのはず…
「早速質問ですが、あなたたち含めこの子供たちを地獄から救う計画に協力してくれないでしょうか?」
「どういうことだ?地獄?」
「はい。あなたたちは親に捨てられ、この町で碌に食べ物にもありつけず、人を殺しながら生きてきたでしょう。」
「それについては当然のことです。殺しをせずにこの世界で生きることなど、不可能です。」
「ただ…もうこれ以上、だれも死なさせないと思ったことはありませんか?」
「どうか、壁の向こうの王を打倒し、この制度を終わらせるために、どうか…どうか一緒に…!」
まごうことなき勧誘。この人が言うことには、何の間違いもないのかもしれない。
客観的にはね。俺たちの返答は一つ。
「あんたたちが地獄というのならあんたたちにとってはそうかもな。だけど、俺たちはこの暮らしで生きていけるんだよ。この計画が成功したら、向こうで暮らせる?
そんなの興味ないね。俺たちの尺度で生きていけるなら、何も不便じゃない。
そうだよね。フェルシュ。」
「まったく…その通りだけどな。」
俺たちが拒否の反応を示すと、ファルフィオスという男は、少し寂しい目をして、
「いつでも、私たちは待っています。」 「それに、ここで知り合った縁もあります。もし、国体を変えれたなら―――必ずあなたたちを見つけ、戻れるようになったことを、知らせに行きます―――」といい、俺たちを見送った。
その日の夜。俺たちは、あのアジトの前で黄昏ていた。
俺らの価値観はもしかするとおかしかったのか?「殺さず生きる道がある」と奴は言っていたが、ずっと人を殺して生きるのが、人を殺さなくてもで生きれるようになること、何が違うんだ?別に殺す相手は悪そうなやつだし、何しろ相手もこちらを殺そうとしてくる。
そう知らなかった常識に悩んでいたら、リーナルがドアを開け、俺たちの横に座った。
「ごめんね。あの人、何言ってるかさっぱりだったでしょ?」
「うーん…そうかも」
「あの人さ、熱意がすごくてさ、もともとここで育ってたから、みんなのことをほっとけなくってさ。その、私が生まれて―――捨てられそうになった時、私を抱っこして一緒に落ちてさ、腰を打って、その後しびれる体に鞭打って、兵士たちの追撃を振り切って、このアジトに逃げたんだ。」
「!?ファルフィオスさんはあの壁の向こうを見てきたのか?」
「うん。この国では、どうやら落とされた魔導士が20歳くらいになったら、王国から兵隊が送られて、強制的に向こうに連れていかれるんだ。」
「当然、おとーさんは抗った。でも、魔導士としての格が違ったんだってさ。この世界で生きぬいたどんな猛者でも、あれには勝てないって。」
「それでも―――あきらめずに立ち向かった。なんでって、非魔導士もかくまってて、もし自分が向こうに行ったらあいつらは生きていけないからって。でも、それを口にしてしまったのが運の尽き。その魔導士は戦いの最中、人間を見つけては「爆破」して、おとーさんの意思をそぎ…抵抗をあきらめさせたの。」
あまりにも非道なやり方。俺たちよりも恵まれているらしいのに、なぜここまでするのか。抵抗する気のない人を殺してどうなるのか。もしその魔導士がいたならば、胸倉掴んで問い詰めようとしただろう。
「そして…壁の向こうに連れてかれたおとーさんは…その風景・暮らしを天国といつも言ってた。どうやら向こうでは、魔導士の職について、見たことのない食べ物を食べさせてもらって、自分の好きなことが何でもさせてくれたって。」
「壁の警護、魔導士の連れ去りも平気でやったって。平和に暮らして、お嫁さんもできて、私も生まれた…から…またここに帰ってきてしまったの…」
「「それが…」」
「そう。産んでしまったから。失ってばかりの地獄から解放されて、もうこれ以上捨てれないようになってしまったか、それとも…失う苦しみを思い出されてやっと洗脳から解放されたか。多分どっちもだけどね。」
「それで…戻ってきたわけだけど。もちろん、守るべき非魔導士は、全員消息不明。仲間の魔導士も散り散りで。その時、おとーさんはたぶんすごい後悔してたと思う。
組織の頭なのに、自分が楽になりたいために、命乞いして、仲間をすべて犠牲にして…そのあとに、幸せの絶頂に浸って、分不相応に求めて、挙句の果てに国のルールを忘れて自滅して…」
「…なあ。ものすごい失礼なんだけど。」
「なんで君はそのお父さんについて行って、命を懸けようとしてるの?」
「決まってるじゃない。おとーさんは、それでもなお、リーダーとなり、自分の過ちに決算をつけようと、今度こそみんなを救おうとしているからよ。」
「…いろんな意味ですごい人だよ。失敗しても、リーダーをしようと思うなんて。」
(それに、おとーさんに命を懸けることが、私の贖罪だからね)
「??なんかいった?」
声にもならぬ声を聴いたその後、リーナルはまた明日見に来るよ。といい、またアジトの中に帰ろうとしたその時。
「俺たちにも命を懸けさせてくれ。なあ。いいだろフリデス。」
「ん。いいよ。」
「俺たちの力でその地獄とやらがなくなるのなら、俺たちももう襲われてる人を見ずに暮らせるから楽ちんだしな。それに、国にはいろんな食べ物もあるんだろ?見てみたいな。」
「い…いいのですか…本当に、本当にありがとうございますうぅ!」
((硬くならなくていいって言ったのどっちだよ…))
とまあ、このような出来事を経て、俺たちはアジトのメンバー、ひいては、このキングダーズ開放計画の主力メンバーとして迎え入れられた。
向こうの空気は、今まで暮らしてきたどの日よりも、明るかった。
「え~久しぶりに、死体ではなく、生きた人間が、魔導士が!二人も!来たお祝いで~ここにあるカードゲームをしようと思います!
今いる42人で、7つ班を作ってください!各班のゲームで1,2の人は1つ小さい班に行き、ワースト1,2の人は1つ大きい班に移動してください!」
ルールの説明が終わり、いざ、フェルシュとともにカードゲームに取り組んでみる。
意外とデザインもしっかりしており、どう描いたのか気になるし、何より、こんな楽しいことがあったことを初めて知り、ところどころで泣きそうになった。
でも、しばらくすると、この空気にもなじむことができるようになった。
「ははぁ!そこのあんちゃん!その2枚のカードの効果は1枚ずつでも発動するんだぜ?1枚無駄にしちまったな!」
「ふっふっ!同じ番号のカードが4枚あるなら、まだ警戒を解かないほうがいいんじゃないのか?」
「な、なに!ばかな!そんなのありえねぇ!お前の残り手札は2枚だし、そもそもルールを知らん奴が1枚だけ残してるわけ―――」
「攻撃とは2の矢3の矢を用意するのが鉄則さ!ほれ!」
「は…8が、、、もう一枚、、、」
「しゃ!ターン飛ばしからの俺の勝ち!びりは回避したぜ!」
瞬間、頭をたたかれる。振り向いたら、リーナルが立っていた。
「フリデス君。今カードを作ったね!魔法を使ったずるはだめです!」
「げっ!見てたのかよ。なら、魔法ナシのズルなら―――」
「 ダ メ で す !!!」
なーんてリーナルに怒られてたら、
「おーい!カードを作れるそこの人!スペードの11がどっか行ってしまったからさ!お願いだけど作ってくれ~!!」
「いいよ!」
なんて、楽しいひと時を終え、夜になったからみんなで寝ることにした。正直言って、42人の雑魚寝はとても息苦しかった。だけど、そんなのは苦にならなかった。
いろいろなことをして楽しんで数日後、モルデルデウスさんから、魔導士だけが招集をかけられた。
どうやら、食料を奪うために、壁の向こうに侵入する役を決め、動くことにするという。
「それでは、戦闘力に最も長けている私と逃げ足の速いフェルシュ君が食料を調達してくるので、みんなは持ち場を離れないでくれ。それと、今までは壁の向こうに行く際は、きれいでいい服を用意していたが、フリデス君が新品の服を作れるらしいので、自由に着てよし!奪い合いはするなよ!」
と、二人で行くこととなった。どうやら、傷一つない壁を上る方法としては、ファルフィオスの「接続」で手のひらをくっくけながら登るか、リーナルの「矢印」で壁を伝って上がるしかないようだ。
そして、壁の向こうで怪しまれないために、そこそこの半そでの服を作るようにいわれ、どこでとってきたかわからないポスターを見ながら、創造した。
フェルシュには、子供が無効に素直に入れるわけがないので、とても長いスカートに、顔がすっぽりと隠れるパーカー、身長をかさましさせる下駄を作ってあげた。
そうして行く2人を見送り、僕たちはアジトの中でくつろいで、それぞれいろいろな談笑をした。
そして、今度は僕からリーナルに近づき、話しかける。
「ねえ。君は壁の向こうで生きることができるようになったら、何したいの?」
「私は、、、みんなが1人も欠けることなく、ずっと、もっと遊べるだけでいい。
私たちのために命を懸けてくれる人もいるし、おとーさんはみんなを解放させることだけを目指して頑張っているから、私が分不相応な望みを願うのはよくないよ。」
「それだけのために、命を懸ける覚悟があるの?本当に、すごいやつだよ。」
「そうかな?じゃあ、フリデスの望みは?」
「ここではできなかったことを、やってみたい。 もうここの生活でも、俺は十分に幸せなんだけど、その壁の向こう、そこにはこことは比べ物にならないくらい楽しいのが待っているんだろ?」
「それに、これは内緒ね?」
「あの時、「20歳くらいになる魔導士は壁の向こうに連れ去られる」って言ってたよね?その時、、、一瞬考えてしまったんだ。このまま生き延びれば、その「天国」とやらの地に行けるって。でも、みんなと暮らしてみて、やっぱ国体ごと買えないとだめって、はっきりわかった。」
「誰かに運命を決められるのはもうこりごり。自分の力で道を創造するよ。」
2人が返ってきた。手には、かなりの食糧があった。節約して使えば、3日はもつとモルタルデウスは言うものの、返り血で所々濡れていて、それにフェルシュは2か所、命には届かないものの、袈裟にきられていて、作ってあげたスカートと下駄はなくなっていた。
治療を終えてからというものの、フェルシュは向こうの世界のことを目を輝かせて言うようになった。透明な壁、同じ食べ物なのに、色とりどりに彩られたものについて。だが、人間の話になれば、途端に表情が曇る。「こっちのほうが、幸せそう」だって。
それからというものの、俺たちはあたりの見回り、他国の敵兵を殺したり追い返したり、様々な活動を3か月くらい行ってきた。そこで、ただでさえキツキツだった部屋はさらにぎゅうぎゅうになった。そう。侵入を行うためには、キングダーズの軍隊だけではなく、妨害を行ってくる他国の勢力が必ずいるからだ。
そしてついに、決行の日がやってくる。
「今日、ついにこの日!十分に戦力が整い、計画も実行可能になった!
今飢えに苦しめられる者達のために!次に捨てられる世代をなくすために!死んでいった無念をすすぐために!キングダーズを操る邪知暴虐なるものどもを打ち倒し!
忌まわしき壁を越えて!太陽を見ようではないか!!皆のものよ!!!」
ついに始まったキングダーズ救済企画。
この戦争を得て、次は僕たちの―――希望の膜がはがれることとなる。
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