第00話 都合の良い世界は「創世」れない (2/2)

ついにキングダーズへの潜入が始まった。人数は、アジトには戦えないけが人、小さな子供を残してきたので、50人で潜入を行う。ファルフィオスさんは背中に人を担ぐことしか複数人を登らせる方法がないので、大規模攻勢に伴うならば、壁を超える方法は、今回は一つしかない。そう、リーナルの「シグナル」による矢印の生成で、上まで壁伝いに人を登らせる。


しかし、この方法は、まさに昇降機エレベーターを壁につけるがごとく、とにかく隠密性に欠ける。まあ、そのことは仕方ないが。

そして問題は…壁の上キングダーズの防衛と後ろから他国の兵士の妨害という挟み撃ち。

俺たちの兵力では、まともに戦えば全滅は必至。

だから、ここ3か月間は徹底的に他国の兵隊を排除してきて、前線の兵士を厭戦させてきた。

それでも、このエリアが万全とはいいがたい。そう、わざわざこのエリアから攻めていたウェネミという国が、このルートをあきらめるだろうか?わざわざ他国と衝突してまでこの道を変えるべきか?答えはノーだ。


一気に壁を越えたらばれるかもしれないので、一人ずつ送っていかないといけない。上と下の魔導士と非魔導士の人数の割合に気を付けながらね。



「フリデス。フェルシュ。あなたたちはおとーさんが上で指揮を行う今、この場を守りぬくための大事な戦力なので、かなり後半に送ることになるわ。」


「それにフリデス。君は非魔導士用のライフル、弾薬とみんなの分の服を作ったけど、魔力の量は大丈夫なの?もし、無理させてしまったら…ごめん。」



正直に言うと、かなりしんどい。魔力量も半分くらいまでしか回復していないし、

その3つのものばかり作ってたら、脳みそがそればっか覚えてしまってる。

僕の魔法「創造」の能力は、強く覚えているものは何でも作れるというものだ。システムさえ把握すれば、他人の魔法も使用可能である。(規模はかなり小さいが)

今まで作れていた手榴弾、石灰、ハンドキャノンとやらは、今は再現がとても難しい。


だが、心配をかけさせないために、「ヘーキヘーキ。」とだけ伝えておいた。





だが、この計画には、致命的な誤算が一つ、あった。


ナータミア。6国の中では1,2を争う強国。

この国の政治は、キングダーズに並ぶくらいの外道であり、「見世物の国」と評判になっている。

ここからは僕たちが計画に手いっぱいのせいで知りえなかったことだが、彼らの理念は、領土の拡張でも、外道らしく蹂躙し、支配するというわけでもなかった。

「勇者」という称号…それは勝者に戦いを挑み、打ち破ったものに与えられる誉れ、

兵士、剣闘士奴隷の本懐となすもの。

権力者が一切介入しない軍事において、非魔導士の兵士が奮闘する理由が、それのため。

自由と、名誉と、命の保証券。


僕たちは、3か月の間も、ウェネミの兵士を倒してきた。

ウェネミの上層部はこの侵攻で、絶対に、決してつかみかけた領土を離さないものだと、そう思っていた。

だが、今代の王は…ブレーブ=ピティ王は、魔導士の人命を優先させ、軍隊を自ら退いた。

その結果、ウェネミが進行するルートが開いた分に、ナータミアとビジー、知らず知らずのうちに僕らのチームがそこを占領する機会をうかがっていた。ということだ。

そこで、壁に大きな矢印が写ったとしたら…当然、その他国たちは抜け駆けなど必死で食い止める。




「!!? 別の人間がいます!階級章は……ナータミアのものです!!」


そうして、数人を向こうに送ったときに、想像すらしなかった最悪が起きてしまった。今の時代、ここの兵士約100人全員銃を装備しているとはな…さすが、最強なだけはあるな。


「フェルシュ。ここでやるぞ!」


「結構結構。だけど、上に上がれるかこれ?」


瞬間、下にいた魔導士18人で飛び出す。僕たち2人はその先頭に出、敵めがけて走る。


「ピストル ナイフ」 「加速」


片手にピストルとナイフをそれぞれ作り、ナイフをフェルシュに渡し、激しく動き回る中、的確に頭を射抜いていく。

敵の首を狩るフェルシュ、銃を持たれているにもかかわらず、瞬く間に10,20と減っていく敵兵。


「わわっわ…死ぬくらいなら…!」


さすがに一般の兵士も覚悟してて死ねるわけではない。死んだ人数に比例して、逃亡者が増す。

だが…こんな楽に勝てるなら最悪なわけがない。



「どこ行くんだい?敵前逃亡は、死刑だよ?」


チっ…もう来たか…魔導士の奴らめ!


「ヒっ! だ…大体おかしいだろ!なんだよ!戦ったら死ぬのに逃げても死ぬのかよ!どうしろってんだよ!」


カチッ   ジュッ


肉が焼けるにおいがする。何度も嗅いだあれが。


「あ~ホント、雑魚は言い訳から入るから時間の無駄だ。次から聞くのはやめて、直ぐ焼こうかなぁ。」

「ま、はしごをかけるくらいなら今回はそこの嬢ちゃんを脅して上に登りましょっか…」


…来るっ!


「全員。矢印の嬢ちゃん以外は殺せ。」


「オオオオオオオオ!!」


ナータミアの魔道士数十名が一斉にむかってくる。後ろにリーナルを抱えた僕たちは逃げることなどできない。

何とかしてこいつらを止め、向こうに行かれないようにせねば!


「いくよフェルシュ!狙いは火魔法のリーダー格のやつだ!」


「アイアイさ!」


「いいさ。かかってきなよ。」


そういって2対1まではつけたものの、予想以上の強さに僕たちは苦戦することとなる。


「ナイフ。…って溶けた!?」


「チィィ! 炎の進みは遅くしてあるはずだ!」


「タフだね。君たち。正直言ってすごいけど…早くくたばって。」

F・Fファイヤ・フィスト



反応速度、魔法の威力、練度もけた違い。倒さねばならないのにこちらが傷だらけになっていく一方だ。

そして…恐れていた事態が起きる。


「いたぞ!いたぞ!ナータミアの兵士と「外」の徒党が戦っているぞ!」


戦闘の音を聞きつけ、キングダーズの兵隊が来てしまった。

クソ…マシンガンなんてなんで持ってきているんだよ!

もう挟み撃ちになってしまい、おしまいかと思ったその時。


「融合!」


「ファルフィオスさん⁉」


あまたの敵をくっつけ無力化させながら、ファルフィオスさんが来てくれた。

しかし、もう避けていたキングダーズとの全面戦争は免れない。上と下、どちらかが決壊した時、俺たちの負けが確定する。


「チャクラム!ナイフ!」


「そんな直線的な攻撃は意味ないって…うわ!加速したし!」


(よし、このまま加速して羽交い絞めに…)


「ふーん。丸腰でこそこそ後ろにまわるなんて。灰の町育ちのゴミなだけあるね。」

S・Sスパイラル・スフィア


「なんだ…ぐぁぁ!」


「へえ、刃が飛ぶナイフって存在するんかな。ちょっと刺さっちゃった。油断しちゃった。」


初見殺しのスペツナズナイフすら大した有効打にならず、ぼくたちは削られていく一方。上に向かわないといけないのにこれは本当にまずい。

そして…リーナルは決断する。



「皆さん!私が今から一人ずつ上に送ります!準備ができ次第、私が呼ぶので来てください!」


それは、明らかに負けを認めたことを意味する。この現状ですら、じり貧なのにさらに人数を削るということは、すなわち1人でも多く次につなげるということと変わらない。 裏を返せば…数人は死ぬということだ。


「アーレントさん!来てください!」


「させるか!毒針をくらえ…ん?」


「ほんとに…手が焼けるぜ!」


「ぎぇぇぇ~!!!いたいよーいたいよー!」


「本当に…手が焼けるぜ!A・A・Aアラウンド・アセンブル・アロー!」


「いてぇ!痛いよ!」


今回はフェルシュが拾ってくれたおかげで九死に一生を得たが、人数が減ってくせいで、でただでさえ苦しかった防衛がさらにしんどくなる。

そろそろ次を捨てる覚悟をしないと…


「もう十分送りました!残り10人は全員一気に送ります!」


この場にいるのは11人。リーナルは…たぶん自分を犠牲にするつもりなんだろう。こんな都合よく魔力が切れるのか?って思った。でも、そうじゃなかった。

次の瞬間、壁を沿わずに、僕たちは壁の向こう側にとてつもないスピードで飛ばされた。

リーナルは…無茶をしたんだ。出力を最大まで上げて…魔力を浪費した。




「さて、嬢ちゃん?僕らも向こうに送ってくれないかな?」


「ふふ…いいえ」



上に飛ばされた僕たち。何があろうとお構いなしに、今度はキングダーズの兵士が迫ってくる。

だが、ナータミアに比べたらこんな奴なんてほぼ有象無象。一気に切り裂いていく。


「フリデス!ナイフちょうだい!」


「あいよ!」


「加速[4倍速フォースピーダー]!」


フェルシュが前線を蹴散らしていき、それに動揺した兵士を瞬時に僕が撃ち殺す。

ファルフィオスさんが敵をくっつけたりなどのサポートをしてくれたおかげで、敵はあっという間にかたずいた。


ファルフィオスさんの顔には…焦りが浮かんでいた。

味方の魔導士で今いないのは1名。リーナルのことが気が気ではなかった。


「リーナル!どこだ!?作戦立てるから早く来てくれ!?」



みんな…気づいていた。見たくなかった。伝えたくなかった。…後ろで這い上がってきた黒い物を。


「り…リーナルなの…か?」

「いやだ…なんで、なんでさ…」


後ろへと逃げる足を押し殺し、ファルフィオスさんはリーナルのもとに駆け出して行った。

上がってきただけでも奇跡だった。壁のふちでぎりぎり落ちそうなくらいこらえていたんだ。



「よくやった…リーナル…ありがとう…。」




「わた…し 生まれ…た 

せいで…落ちたか…ら…

ほめないで…」



え?



「ごめん…わたしは…わるいこ…しんでとうぜ……ん………」


「ごめんな…さい……」



「ファル―――」

F・ファイナル



「フィオス…さん―――」

F・フェリシティー



「大好き…な―――」

F・フレイム












「父さん―――」

F・フレア!!!―――




直後、とてつもない火柱が立って、二人を飲み込んだ。人間が使う魔法から大きく逸脱しているレベルの魔法。天まで溶かす魔法の風圧だけで、僕たちは見たこともないところまで散り散りに飛ばされてしまった。

幸い…僕のそばにはフェルシュがいて、目に見える範囲にはには今まで見た最も豪勢な建物があり、衛兵がいた。

あれが、もしかしたらあらかじめ聞いていた「王宮」なのかもしれない。


「いけるか、フェルシュ…」


「行かなくてどうすんだよ」


余裕そうに言うものの、二人とも全身擦り傷だらけで動くだけで激痛が走る。

もはや搾りかすくらいしか残っていない体力。近辺には30人以上の魔導士。

だが、あの火柱に気を取られ、襲撃者に備えているうちは…いや、そこしか行けない。


「なあ。もう…無理しなくてもいいんじゃないのか?死にに行くようなものだよ。」


「俺は行く。つかみ取るんだ。俺らの平穏を。もう引き返せない。」


そういったフェルシュの目には、怨念のようなものが宿っていた。

そう…多少なりとも命を救われ、夢と希望を気づかせてくれた恩人のファルフィオスさんに何も返すことができず、そして、最後の再開にもかかわらず命を奪った「敵」をすべて憎んでいた。


「感情的にはなるなよ…それさえできたら、[貸し]は無しにしてあげるからさ。」


フェルシュは小さくうなずいた。




覚悟を決め、僕らは飛び出した。魔導士が気づいていないうちに、10人は殺す。

フェルシュは「7倍速セブンススピーダー」を使い、僕は「創造」を連鎖させて殺す方向にシフトした。

打ち出した弾丸に魔力を纏わせ、自分の好きなタイミングにその魔力分「創造」を使用する。そうすれば、弾丸の当たり判定をとても広くでき、フェイントまで行える。

だが、どちらも無茶をしていた。

魔力が尽きるか、体が自壊するか。あるいは、この国を転覆するか壁がなくなるか。


フェルシュは双剣で気づかれるまでに11人殺し、僕は最大出力分の魔力を込めて撃った連鎖弾丸で7人殺し、2人にかなりの怪我をさせた。

だが、次に飛んでくるのは魔法の報復。加速したフェルシュに引っ張ってもらい、

王宮まで走った。なんとか死は免れたものの、二人とも血まみれになり、体に何個か穴も開いた。


「もう3人くらい減らすか?」


「ああ。そうしてくれ。」


作るのは濃硫酸。王水でもできればいいが、戦闘ばっかで学のない俺にはこれが限界だ。

それを包むように水鉄砲を作る。こんな些細なことでも賭けアドリブないといけない自分が恥ずかしい。

フェルシュにはスペツナズナイフを渡す。触らないと能力が適応されないのは不便だよなぁ。

そして一直線に向かってくるアホどもにスペツナズナイフ→硫酸の順番で放ち、3人死亡、4人怪我させてうずくまらせた。

実質残り3人。だが、まともに相手すれば…フェルシュが壊れるほうが先だ。

現に今、加速された時間、動きに体がついてこれず、皮膚から血がにじんでいる。


僕は無理やり手を引っ張り、とにかく階段を駆け上がった。


豪勢でカラフルな窓からは、外の赤い燃え盛る世界しか見えなかった。

残りの魔導士は追ってこなくなった。外の鎮圧に行ったのだろう。

―――王を守らなくていいのか?


結論を出す前に、自分の背丈以上の紅い椅子に座るもの―――王様を見つけた。


「なあ。少年。君たちのでは知らないけどな、ゴミはゴミ箱以外に帰る場所はないのだよ。 まあ不法投棄なんてのもあるけど…あ、知らないよね!」


煽りなど、どうでもいい。王に刃物を向けて言う。


「「壁」はお前が作らせたんだろ?今すぐ崩すか、死ね。この土地が俺らの帰るゴミ箱だ。」















「なんだと!お前ってなんだと!お前とは!目上の人への敬意もないのか!?やれ!」


瞬間、椅子の後ろから人影が飛び出してきて、フェルシュの横に回り、手を突き出した。


「部屋を焦がすこと、お許しください。」 「許す。」


「爆裂波。」


「あっ、、、」


目ではかろうじて追うことができた。だが、これまでの戦いで受けた傷…出血が重なり、突っ張ってまともに動くことすらできず、僕たちは爆破をじかに食らった。



















次に目が覚めたのは、煙立つ林の中。

命の危機を感じた脳が意識をたたき起こしたのだろう。火と煙が充満していて、一刻でも送れたら焼け死ぬところだった。

だが、頭を打っていて思うように足を動かせない。


F・F・F・Fフィフス・フィンガー・フレイム・フィニッシュ!!」


轟爆破烈波ごうばくはれっぱ!!」


耳が壊れるくらいの轟音がどこかで鳴り響く中、どこかへと向かってただ歩く。


そうだ。今日はまだ1回も遊んでなかったな…


トランプでも、トランポリンでも…なんだっけ?


本当に、疲れた…早く寝たいけど、外はまだ明るいから無理だよね…


てか…みんなどこ行ったのかな?


そっか…ドロケイしてたんだったわ。


なんでだっけ?ずっと僕がじゃんけんで一人負けしたから47対1になったんだったかもしれないなあ―――



フリデスは思いっきり頭から転んだ。足元には、反動と爆破で人の形すら保てないフェルシュがいた。


「フェルシュ…ダメじゃないか。一番早いはずの君が捕まるな―――」


いや、違う。遊びなんかじゃない。

僕たちは「爆発」の魔法使いにやられて飛ばされたはず。

じゃあ…このフェルシュは…



「なんで…なんで…頑張ったのに救いはないの…ないの……」


「おねがい。」


たったこれだけを言い残し、相棒はいなくなった。

それでも僕は歩く。



そういえば…アーレントさんは…生きてるかな

ファルフィオスさんは…あの後どうしているかな


林をついに出た。

視界がかすんでいく中、光の中心に向かって歩いていく。

その途中、何回も見たこともない兵士にあった。

なけなしの魔力で最後のナイフを作り、素手で向かってきたやつを何人もさして、切った。

「報い…なのね。フリデス…」

心臓を一突きされた奴のうち一人が、そんなことを言ってた。誰だよ。俺の名前知ってるって…


火がより明るく見えるに伴い、人間の一部や黒い人の形がよくごろごろしてた。

顔がえぐれている人もいた。


皮が焼けただれ、筋肉と骨が丸見えの化け物がこちらによろよろと向かってきた。

抱きつかれたので、ナイフを胸に差し込んだが、片手だと深くまでいかなかった。

両手を添え、体重をかけたその時。


「フリデス君…そのまま…進んでください。 娘みたく…洗脳になってしまうかもしれませんが… 屍を踏みながらでも、止まらないで…を―――」













もう、フリデスの心と魂は限界だった。

不幸と幸せの区別を知ってしまい、その幸せを味わうために闘ってきた。

だが、もう勝利しても何も変わることがない。死人は帰らない。

勝てたら、これからはペンキを塗った灰の町で生きていくだけのこと。



「おかえり…させてくれたって、いいでしょ…」



(歩いて、歩いて、掴み取ってくれ!「壁」を消してくれ…!)

(私たちがついてる。希望を胸に…)

(泣いちゃうぜ?相棒?ナイフは自分に向けるものじゃないだろ?)


















あ…アハハ!そうだよね!だっって僕はみんなに絶望を与えてきたもん!

殺して…救えず…裏切ってしまって!

楽に死ぬことなんて許してくれるはずないよね!

もっと「まきぞえ」増やさないとね!!



歪みにゆがみ傷ついた魂。そこに集まるのは、託された死してぼろぼろの魂。

ぐちゃぐちゃに溶け「融合合わさり」、もはや人格すら入れ混じった。



「おやおや、そこにいるのは…下で戦ったナイフ使い…ですか。」


「あの不敬ものか!」


狂ったように叫んでいたんだ。そりゃ居場所なんてすぐばれるさ。あの2人は戦いを一時中断させてまで俺を殺そーとしてきやがった。

いいよ。暇だし。相手してやんよ。


「塵滅波…」


O・Oオール・オーバー…」


ああ、冴える。気分が気持ちいい。傷もすべて治っているし、何でもできる。

最高だ!!!!!







「「矢印シグナル」×「融合反転=分離」×「爆発」×「斬撃」」





「創成」


その刹那、すべてを透き通る矢印が、意志を持ったように人を追いかけ、矢印に貫かれた人間は粉となって吹き荒れる強風の中に消えた。


矢印はそれだけではとどまらず、ありとあらゆる障害物を消し、あれまで燃え盛った火も何もない黒色の平坦な街のみが残った。

誰もいない。見方も、敵も、火も。全ては空へ還っていった。


「フ~ンフンフン♪家ないのは嫌だな~。」


「石材」×「整列」×「固定」×「領域」それに…「発生」!


「創世」♪


王宮までの道を彩る華麗な家。そしてその一本道を、誰もいなくなった道をはしゃぎ、ステップして歩く。

しんとした世界にただ嬉しそうに歩く一人の子供を見た生き残りは、それを神様だとあがめたそうな。


最高。ホントに最高!この世界は僕のために!なんて最高なんだ!



さいこ…?


(最後まで…歩き続けて…ください…)


頭が…痛い。…?


(調子乗んなよ?フリデス。そのせいで俺が死んだようなもんさ!

貸し100万個な!)


「う…うう…ごめんなさい…ごめんなさい…!」


今度は違和感を振り切るように駆け出した。頭から響く声を振り切り、走って走って走った。

そして王宮にたどり着いたのだが、改めて探してみても衛兵はだれ一人もいなかった。

(なーに寄り道してんだか。また痛い目見ても助けてやれねーぞ?)

ううう…


再度頂上にたどり着いた。王はひどくおびえている。背中に短剣を持っていることくらいバレバレだ。あの顔からして、兵士はすべて派遣していて、全滅したことまで感じ取ったみたいだ。

「な…何が必要ですか?いるなら…なんでもあげましょう…」

俺の答えはただ一つ―――殺すのみ。


(許してあげて。殺しても…変わらない。代わりに、あなたが王になればいい。)

(それな?もう殺すのは散々だろ?試しに殺さず1回は許してみなよ。)

(この人は一人では何もできる力はありません。もう殺す必要もないでしょう。)


「あ…ああ…」

「なんで!なんで!!うるさいぞ!!!」

「!? 大丈夫か…ですか?」


王が気遣うふりをしてこちらによる。もちろん、腰の短剣には手をかけていた。


「黙れ…」「反発インパルス


短剣を吹き飛ばされた王。もう頼りになる手段はなく、腰を抜かしながら後ろに下がっていった。

そして…俺が頭を押さえながら立ち、言う。


「俺は…あんたを許すよ。」

「ふぇ?」


あたりに響くのは静寂と拍手のみ。俺…いうつもりがなかったのに…なぜ勝手にしゃべっていた? どうなっているんだ…俺の体…


(そ…そうだ…壁の外に追放させて、俺様に惨めな思いをさせて飢え死にさせる気に違いない!)

愚かにも王は、言ってないことを勝手に想像し、さらにおびえていた。


「許す…からぁ、ゆうすか…あ。」

勝手に俺の口が動く。なん…なんなんだよ。


「ひぃぃィィ!!!」

王は、ガラスを割り、逃げようとした。そのまま4回相当の高さから落下して、

大きなシミを残して死んだ。



とにかく、これで…この戦いは終わった。

ナータミアの派遣兵士は全員死亡。キングダーズの兵士も数えるほどにしかいなくなった。

地下暮らしの計画実行メンバーは、1人も残さず死んだ。

みな、俺の魔法に畏怖して、新キングダーズの王に推薦してきた。

カリスマよりも、兵器を他国に誇示するためだろう。だけど、好きなことは何でもできたから、断ろうとは思わなかった。

それから俺は心を閉ざした。そうしていれば、頭に声が響いてこなかったから。



キングダーズの壁を壊してくれと依頼が入った。本が読み終わったタイミングでお出かけし、「消滅」で消してみた。

壁から出てきた魂は金切り音を挙げ砕け散った。

(熱い…苦しい…でも、これが贖罪…っ!)

苦しい。



今までの恨み、怨嗟から、他国に侵略しようという過激派の声が、少し大きくなっていった。 暴動なんて起こされる前に、めんどくさかったがパーギャル国というかなりキングダーズに損害を与えた国に攻めた。

「「炎」×「爆発」×「マグマ」×「衝撃」×「核熱」」  「創成。」

10秒もしないうちに、国は壊滅した。外では…とっさに弟をかばう姉の死体、

泣き叫ぶ子供、そして…骨がむきだしの―――

(あ…あれは…フリデス君だ。何とか…何とかして…)

(なんで…ナイフが?)

「いやぁぁぁぁ!!!」



     

     ◇




「アトミッカル・235」

その日、キングダーズは引き飛んで滅んだ。

どの国の兵士でもない服装。どこのものかわからないやつが、この国に侵攻してきた。

国民は口を開けば、みな「痛い!」ではなく、「フリデス様!」とコールをする。

頭もキンキンと響いてきた。鳴りやまないので、あいつらを殺してみることにした。


「この国を荒らすやつ…心の平穏を乱す奴は皆殺しだ。覚悟しろ。」

「重力」×「引力」×「質量」 「創成」


「そうね…ま、ごめんね。」

「ウオーターキングズ・42」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
















「大丈夫?アンイェルディ?」


「ほぉんと、きつかった。さすが、「創世」の能力持ちだ。あいつがら、ぼくたちが全滅していた。」


「そっか、この子、、、孤独に戦ったようなものなのね。かわいそうに。」


「おいおい。これが俺たちの欲しい「無限」の資源になるのか?魔法は全く別物だぞ?」


「ああ。問題ない。魔法は魂が決め、脳みそが操作する。資源には当然脳がないため複雑すぎる魔法は別の類似した魔法に代わる。」


「一人分のでは、無限でも容量越えキャパオーバー

せいぜい「2倍」がいいところだ。」

「だけど、2倍したエネルギーをさらに2倍させ続ければ、それは無限となるだろう?」


「ゲッ…と、いうことは~?」


「そ!もう一回できるぞい!」


「はぁぁ~。しんど…」   「わがまま言わないの!」




全部…わかったよ。

お前ら、死んでも俺のことを見守っててくれてたんだな。

幻聴やら、迷惑やら言って…無視して逃げて悪かった。

でも…後悔するには遅すぎたよ…


指の一つも動かせない僕に、断罪の白刃が振り下ろされた。





















「いやぁ~この木、ホントにいいですなぁ。」


「1つのものに1回しか使えないとはいえ、なんでも2倍にしてくれるとは…」


「どんな仕組みなのこれ?私が穴に入っても増えなかったよ?」


「ハッハッハ…当然じゃ。それはフリデス王の置き土産。いつもあの方は、困ったときのために、私たちに恵みを与えるよう、天から見守ってらっしゃるのだよ。」


「へぇ~。そんな神様みたいな王様がいたんだ。一回どんな人か会ってみたかったなぁ。」


「じゃぁ、少し話そうか。このキングダーズの礎となった、ぽっと出の英雄の話をね。」






















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