第12話 トーナメント③ 淡々の感覚

~2回戦が終わり、マーセンとカミナが戻ってきて~


「マーセン!ドンマイだな!」


「いや~ぼろまけだっよ、、、」


ファッスルはマーセンをねぎらっていて、セフィムと一緒にワイワイ話している。

ユードは一言もしゃべらず考え事をしているし、ケイルは汗を流しながらおどおどしている。キュアンナは4人治癒してもぴんぴんしている。


次は私か~。ケイルと決勝の座をかけて戦いたいし、ユードにはリベンジしたい。

そして、家族のみんなに喜んでほしいから、勝たないといけない。もしかしたら、Aブロックにいること自体に失望されてるかもしれない。

30分が重くのしかかってしまう。


「おいフェリア、お前まで焦る必要はないだろ?カミナの次には強いんだしさ。Aブロックの中でね。」


「フッ。それ私のこと認めてるつもり?」


思わぬユードの言葉で、緊張の糸がほどけた感じがした。


「ちょっとケイルさ、昼休憩なったらちょっと外にいって、カミナの攻略法見つけようぜ!」


「ん、、、うん!」


ほんと、ユードは変わった感じするなあ。もともと命の取り合いしてるせいか、考えが深く、でも、それでいてみんなのように陽気だ。


「私も入れてよ!ケイルが負けたら私がカミナと戦うんだからさ!」


「へっ!氷に炎なんだから余裕じゃい!」


[試合10分前だ!フェリアとセムセムは広間に来るように!]


おっと、よびだしがきた。私の一戦が始まる。


「がんばれーフェリア~。」


「絶対勝ってね!」


「瞬殺希望。」


三人の声援を受け、広場に行く前、、、、、三人の視線が目に留まる。

父さん、母さん、お姉ちゃんだ。

お姉ちゃんだけ、ほかの人と違い、悲しそうな眼をしていた。

どんな形でも、人を傷つけるのって駄目なこと?お姉ちゃんも、私の誇らしげにしている姿を見たら元気になるはずだよね。

それとも、私は魔法を知らずに生きていたほうがお姉ちゃんは幸せなの?



「いいなあ、あんたには。君の元気を望んでいる人がこんな多いって、幸せ者じゃない。」


頭に入らない。


「Aブロック第三試合! フェリアvsセムセム! はじめ!」


いつまでも、悩む時間なんてない。気持ちを切り替える。

バブルを生成し、セムセムの動向をうかがう。


「へえ、君は泡の魔法か。あたしの魔法、見ても驚くなよ~。」


セムセムの前に魔力が出る。何とも言えないこの感じ。

普通に考えて象形魔法だが、形が定まっていかない。

その魔力を、セムセムがつかむ。


「ちぎって、ポンだ!」


あの大きな塊をちぎり、球にして私に向けてはじく。泡を使い、避けることができたが、私に追尾してくる。

振り切ることが出きないなら、セムセムにけりをうつまで。

泡で加速し、ハイヒールでけるも、硬い魔力に阻まれた。と思った瞬間、足が魔力に絡められ、動かない! 

ガードをとっさにしたが、重い球は私を打ち抜く。


「どうだ!これがあたいの魔法さ!」


黙って私はやられない。破裂する泡をセムセムに向かい打つ。

セムセムはのけぞり、捕らえられた足は簡単にすっぽぬけた。


しかしなんだ?あの魔法。象形魔法にしては何の形にもならないし、図形、、、にしては、魔力の塊は線があるわけでもない。


「まだまだこれから!」


「いいねぇ!その心意気!」


とりあえず、攻撃を出させて探るしかない。こんな時、ユードなら、、、

なんて、私はユードではないし、考えるだけ無駄!


「ロットアワー!」


セムセムの前に、破裂する泡を大量に展開する。これをどうするかな。


「ふっふっ!「ボール!」」


セムセムが魔力で作ったボールに入り、転げながら移動する。泡の破裂に巻き込まれるはずが、衝撃を包み込んでこっちに向かう!


泡で逃げる私、ボールの中から追いかけるセムセム。ボールは私を追うも、急な方向転換には対応していない。やはり、この魔法には追尾能力ではなく、自在にコントロールができる能力がある。

まずこのボールを何とかしなければならないが、あいにく今のボールを破壊する手段は今の私にはない。

だけど、もう読み通り。

移動している際にまき散らしたバブル。その上をセムセムが通る。まとわりついたバブルは、次第にセムセムの動きを鈍らせていく。


「ムっ、むっ!まずい!」


セムセムのコントロールを失ったボールは、壁際をゆっくり漂うだけとなった。

そこに加速したけりをぶち込む!


「うぐっ!」


防壁を突破し、ついにセムセムの腹にけりが刺さった!

その瞬間、壁のようなものに突き上げられた。その先では、とげとげしいものが挟み撃ちをしてくる、、、


が、バブルの勢いを保ったまま、回転蹴りをかます!



「なっ!硬めに作ったのに!」


魔力の棘、そしてセムセムも突き飛ばす!


「ふう。あぶねえなあ。」


あれ食らっても軽症か。なら遠慮なくいく!


「ベイ・バブレード!」


バブルを足元に集中させ、コマのように回り、永遠にけりの威力とスピードを挙げる必殺だ。

ユードと戦った時にはまだ発展途上だったが、私も三日間で身につけた!


セムセムはバックステップですべて交わす。はっきり言って、ものすごく速い。それこそ、私のけりを避けるユードよりも。


「スピードも上がるんだよ!」


ついにセムセムをとらえ、壁まで吹き飛ばす。そこから、何発も回転蹴りをお見舞いする!だがしかし、パンチで相殺され、回転を止められた。


「フェリア!あいつは!ま、、、」


「ユード、口出しはやめてもらおう。お前の出る幕ではない。」


「、、、、、はい。」


「あんた!いい線行くね!」


まだ余裕残してるの?ホント、タフなやつ。


私が次の攻撃を準備するよりも一手早く、セムセムは私の周りに魔力の塊をたくさんばらまいた。


そんなの突破しようと思った瞬間、銀閃が走る。痛い。頬が切れた。

次。ニ発が私の体を貫く。3発、4つ、5,6,7,、、

どんどん早く、多く。魔力の塊が、ほかの塊に向けて小さな線を打つ。増えた分の魔力は、その分を他の塊に吐き出していくのが見えた。

無理だ。これは突っ切るほかに道はない。


強引に包囲網を抜けたせいで、体中が血まみれとなった。視界がかすむ。

後悔しても遅いかな、、、


「どうだい!これがあたいの必殺さ!これを食らってぴんぴんしてたやつはいないのさ!」


かすむ中で、はっきりと思い浮かぶものがある。

お姉ちゃん、父さん、母さんのあの目。 みんな期待しているのに、なんで、何で、まだ意識はあるのにここであきらめるの? こんなの誰も喜ばない。

その気持ちが、ちっぽけな私を動かす。


「アワールド!」


ここが最後の正念場。私の残り時間はもうない。よろめくセムセム相手に、殺す気で回転蹴りをぶちかます。

このスピードなら魔力の壁でも貫ける!


「まだ甘い!」


泡の上に、広場を覆うほどの魔力の足場を生成されてしまう、、、、、、、、、、、

でも


まだ魔力切れなわけではないよ?


もう一回アワールドを放ち、叩き込む!

もう回転が速すぎて、何も見えないが、確かに肉を切る感覚がする。

行ける、いける!セムセムは何もできてない!


ガっという音がし、回転を止められ、はじかれた。

だが、バブルの本領はゼロ摩擦!スピードが落ちることはない!

何度止められようが、さらに重く、硬く、早く!


かたい感覚をはじき、貫き、遂につま先をセムセムに突き立てる!

これで、ついに、私の―――




「なあユード。なんであのセムセムっていう子は泡の上でも平然と動いたりガードできるんだ?」




「、、、、、前に俺は剣に魔力を込め、薄くまとっただろ?

こんな奴、ここで見ると思わなかったんだが」


「あいつ、それより次元が上の[魔力の放出]をしている、、、」





私が吹き飛ぶ。

なんで?あの姿勢で撃つパンチで?

私の攻撃は当たったから?


壁に突っ込み、出血も重って意識は彼方へ飛んでった。



















あれ?

私は何でここに? 

観覧席で、目が覚める。 視界には私のことを心配しているケイルがいた。


「あ!やっと目が覚めた!大丈夫かい?」


状況が吞み込めない。何が、どうなった?セムセムは?

とりあえず、聞いてみる。


「うーん。残念だが、お前の負け。最後はカウンター気味のパンチを顔面に受けて、吹っ飛んでった。そして、セムセムはあのキックの切り傷が深いからまだキュアンナの治癒が追い付いてないよ。」


おかしい、おかしい。私のけりはそんな弱かったの?そして、セムセムのパンチはそこまで強いの?


「簡単に言えば、あの時のセムセムの瞬発力、加速力はすさまじかった。まるでロボット物のジェットパンチみたいにな。」

「魔力の放出を使う―――」


噓だ、、噓だ! 慌てて飛び出す。自分に向く視線から逃げるように。救護室に向かうわけでもなかった。向くはずがないのに、何か無性に、逃げたくなった。

いきついた先には


「フェリア、何をしている。お前の試合はもう終わったんだ。」

マリウス先生がいた。



(何かあるなら、聞きに来い)

この言葉が、脳裏によぎる。考える間もなく、言う。


「どうしたら、、、どうしたら強くなれますか?」

「負けたやつが何を言う。遅いんだよ。」


簡単に突っぱねられ、マリウス先生はどこかに行ってしまった。

追いかける気力もない。ただ呆然とする。








「おーい!フェリア!どこ行くんだよ~。」


どれくらい経ったか。ケイルが来て、私を慰めてくれる。けど、この気持ちはしばらく晴れることがない。

そこから、だいぶ遅れてユードもやってきた。


「そこにいたのか、ケイルとフェリア。あと、今の試合―――カムイスポーティンとアムルタート。あれはカムイスポーティンが秒殺したせいで、昼休憩はなしだって。

ごめんけど、カミナ対策の特訓はできそうにない。」

「っで、フェリアはどうする?」


ホント、空気の読めないやつめ。かすれそうな声で、「ここにいる」といい、ユードは悲しそうな目でケイルを連れて、上に向かった。








「フェリア、なにそんなしょんぼりしてるの?無事でよかったじゃない。」


お姉ちゃん、、、今は会いたくないよ。


「こんな練習くらいのもので、何しょげてるの?いつか見返してやる!って思いながらこれからは頑張りなさい。」


「姉ちゃんは、私が傷つけたり、傷つけられたりされるのは嫌じゃないの?」


「いいや。みんな、みんなフェリアに期待してるし、期待してるから、フェリアのことが第一で、フェリアは自分のことだけ考えてればいいの。あんたは特別なんだし。そんな顔しない!まだ痛いなら、私がおぶってあげるから!」


「赤ちゃんじゃないから、、、一人で歩けるよ。」

「それに、友達の試合が近いからね。お姉ちゃん遅いでしょ!」


「ハハッ。いうじゃない。じゃあかけっこでもする?」






私は幸せ者だ。だから、こんなものはへっちゃら、、、かもしれない。



















・「触感」

分類 象形魔法(概念魔法)

使用者 セムセム


自身の魔力の塊を外に出し、それに感触を与える能力。

カチカチ、ぷにぷになど、オノマトペは基本的に再現可能。(ただし上限あり)

この魔力は象形する前から視覚化でき、感触もする。

感触を与えられた魔力が破壊されても、消えずにその場に残り、使用、吸収できるため象形魔法の弱点である消費量問題は克服している。

「魔力自体を体外に出す」と「魔力そのものを精密に操作できる」のプロセスが魔法を使用するときに発動するので、魔力を纏う、魔力の放出などと相性が良く、容易に使用することができる。




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