第13話 トーナメント④ 熱い思いは薄氷のごとく散る
「ちょっ、ユード!痛い痛い痛い!」
いきなりつかまれて、階段を引きずられる。どうしてこんなことになったのかというと、Aブロック第四試合――カムイスポーティンとアムルタートの試合が、開始10秒でカムイスポーティンのko勝ちで決まって、のんきに遊ぶ暇がないらしい。
そういえば、ユードは僕に対カミナ用の特訓をつけてやるって言ってたけど、結局向かっているのは控室。特訓じゃなくて対策会議じゃないか!
「ふう。ここまで来たらあとは話しながらでもいいか。」
「フェリアを慰めることもいいことだけど、お前がカミナやほかのやつに勝って勇気づけてやるほうがいいんじゃないかな?」
「うーん?フェリアってそれで喜ぶのかな?」
「そうとは言えんけど、、、まあいい。残り15分でカミナ対策考えようぜ。」
「ユードって、いろいろ世話焼いてくれるけど、もともと暇つぶしで入ったんだよね?どうしてここまで面倒見良くするの?」
「まあね。もともとの生活にはうんざりしてたし、お金もたくさんある。そして、、、そして、、、 やっぱ言えないわ。」
「まあやめれなくなったと言っておこう。」
「そうなんだ、、、ユードは正直後悔してるの?」
「言いたくないけど、そうだ。」
「ふうん、、、ま、くよくよしてても時間の無駄だし、会議始めますか!」
「そうしよう。」
僕とユードは、カミナ相手にどのような戦術をとるのか、どのような試合運びで戦うのかを話し合った。
「俺が見たカミナとケイルの評価は、パワー・ケイル、スピード・カミナ、魔力総量・カミナ、魔法・相性込みでケイル、ってところかな。」
「互角ってこと?」
「いや、案外そうでもない。魔法の打ち合いになるとパワーの意味がなくなるし、魔力量の優位があっても、相手の魔法に手も足も出ないことなんてざらだ。」
「こういう時に頭脳を使って差を作るってことなの?」
「お、いいね。そういうこと。 僅差の勝負なら特に有効だ。あ、それと互角なんてよほどシンプルな能力同士でもないと起きない。例えば、、、ケイルvsケイルとか?」
少し的外れなたとえに失笑が出た。それからふたりっで、どういった試合運びにするかを話し合った。
「ケイルの少ない魔力量でカミナの魔力量から放たれる魔法と戦いたいなら、魔法はガードのみに使う。それに、使い切りの魔法はぜったいに打たない。最後は馬乗りぼこぼこフィニッシュでのほうがいい。」
「まあ魔力量を増やす裏ワザ?みたいなものはあるけど、、、、、、、、今言っても遅いか。」
「いつかやってみたいから、教えて!」
「うーん、、、言いにくいけど、悪口に耐える、苦行に耐える強い心にしていけば、だんだん増える。」
[試合10分前だ!ケイルとカミナは広場に来るように!]
「お、時間じゃん、頑張って来いよ!」
「うん!」
「決勝まで来いよ。」
ユードが小さい声で言い、僕を送る。広場に出たらすでにカミナはいて、特別席には今日の朝見たブレーブ王と魔導軍帥、他国の王とその使者がいた。
「遅れてしまい申し訳ない!今日は新芽の成長に期待を寄せ、この試合を楽しもうではないか!」
観覧席からは義務拍手だけが送られてくる。別の王様は鼻で笑っていて、護衛の人たちは何も言わない。
審判のローセル先生も来て、コールする。ついに始まるのだ。二回目が。
「これより、Aブロック二回戦第一試合、ケイルvsカミナを始める!」
今回はブレーブ王が笛を吹き、試合開始のゴングとなる。
さっきと違い、僕は自分から攻めない。カミナの攻撃パターンを見るために。
早速、カミナは氷弾を僕に向けて放つ。
6発放たれた氷弾は、スライディングで全部交わせた。
でもこんなもので終わるカミナではない。僕が攻めてこないとわかるや否や次の攻撃に向けて準備をする。
たぶんあのアイススティンガーだろう。僕は岩陰に隠れる。
まあ、選択ミスだ。先に隠れて、視界を自ら防いでしまった。当然カミナはそれ用の攻撃を打つ。
「氷の
いわがバッサリ切れた。僕も深手、、、、、にはならず、自分の火をまとった腕によるガードで氷を溶かした。
ユードが言ってた。先に手札を見せたほうが負けるのだ。と。ならば、この試合で見せる技は僕が最後になるようにする!
手に火をまとい、カミナのもとへ突進する。魔法をまとうのはかなり消費が早いが、それでも使い捨ての技を打つよりかははるかに燃費が良い。
「いいじゃない。2回戦に上がるだけはあるわ。」
「
氷の壁が迫るも、火をまとった手で殴れば穴が開く。ラッシュをかまし、カミナのもとへ迫る。
「
カミナは氷の柱を地面からせりあがらせ上に乗り、僕の射程圏内から逃げる。
「あなた、使い切りの魔法を今回は一切使わないのでしょ。」
ばれた。こうなっては作戦もおじゃんだ。確かに追撃するのもありなのだが、今の魔力量、そして相手の格からして、当たるとは限らないし、短期決戦は必須になる。
「肩慣らしくらいはしようか。凍てつく
広場の上に、寒い空気と雲が出来上がった。警戒を向ける対象が二つに増えてしまった。
「降れ。」
その合図とともに、雲からつららがカミナを除くあたりすべてに降り注ぐ。
これが脳天に刺さったらまずいだろう。だが、僕は頭にも火をまとい、溶かす。
「凍てつけ。」
あたりの気温が冷える。火も少しずつ小さくなっていく。雲を晴らすことができない以上、これは短期決戦しか残されてないな。
正直言って、魔力は残り7割くらい。炎焼拳くらいの大技なら雲は晴らせるが、
そんなものを使ってはもう残りの魔力量ではカミナを倒せない。
なら、突進あるのみ!
「甘いね。」
肩に氷が突き刺さるも、気にせずにカミナに向かう。
「三重氷の
「ぐっ、、、」
まずい、明らかに溶かす速度が落ちている。切られてはないが、氷に押し出される。
その隙をつかれてしまう―――
「氷棘・
思い切り空中にはじき出され、あの雲に突っ込む。
僕が雲に入った瞬間、ぼくごと凍結した。
うっすらと聞こえる声。
「せめて魔法を一回は見せなよ。」
そうだ。ユードの提案してくれた作戦ばっかに頼っても、勝てるわけがない。
軍が奇襲されると総崩れになるように、コンビネーションを決めるには練習が必要であるように。
こんなこと言ったら失礼だけど、しょせん付け焼刃。一度崩されると、もう戻れない。
僕は僕の今までのやり方、人には人のやり方がある。なら、それに従うまで!
身体じゅうから発火し、雲を溶かす!このまま突っ込み、カミナに炎焼拳をぶち込むだけだ!
「そうこないとね。極氷の
しょぼい槍なんかは触れる前に溶けていく。その間にも加速し、ついにカミナの目の前に潜り込む!
「いいね!これで終わりなんて残念だよ!」
「イエァァァァァァァァァ!!!」
「炎焼拳!!!!!」 「一点の
「ワァァァァ!!」 「キャァァァァ!!」
大技同士がぶつかり合い、大爆発と爆風が観客席にまで届く。旗は吹き飛び、雲も吹き飛んでいった。なぜか、ユードは残念そうな顔をしている。
爆発の粉塵が収まった―――
合わせた拳は、どちらも無傷、まったくの互角だった。
まあ、よく考えてみたら当然だ。カミナの莫大な魔力量が、相性の差を覆しただけ。
そこに至ってはトリックなんてものはない。僕の半分の魔力量は、カミナにとっては1割にも満たないもの。
でも―――
相打ち、そう、この瞬間を、待ってた。
「、、、、、」
カミナの胸ぐらをつかむ。このまま倒して馬乗りに―――
? できない、動けない。
「ごめん、ケイル。俺の見通しが甘すぎた、、、」
足元には、あの時の激突で発生した水たまりと、それが凍って僕の足をくっつけていた。でも、こんなものは火で溶かせばいいはず、、
いや、溶けるどころか、さらに凍ってくる!
「もう君の魔力量もないし、君の一番の技もこの程度、失望したよ。」
「くそ、くそ!くそ!溶けろ!溶けろ!!溶けてくれ!!!」
もう膝のあたりまで凍り付いてしまった。必死に火を出すも、無情にも氷は溶けたそばから生えてくる。もう無理だ。僕の負けは確定した。
「じゃ、さような―――」
「足が動かないなら頭で行けばいいだろォォ!!!」
「!?、、ブっ!」
カミナの顔面目掛けて、何回も、何回も頭突きをする。もう勝てるわけでもないのは、だれの目にも明らかだが、、、一矢報いる。いや、せめてこれだけはしないと気が収まらない!
鈍い音がする。暖かい感触が流れる。でももう胸のあたりまでは何も感じない。
それでも振る。頭を振り続ける。
「ふざけるな!!!」
腕を貫く槍。一瞬のけぞったが最後、すべてが氷になった。
「ハァ、、ハァ、、、極氷の氷槍・
その後、赤いフィルター越しの視界で、僕の意識は闇に落ちた。
「氷棘・十重《アイススティンガー・フルスレイブ》!!!」
「し、、勝者、、、、カミ―――」
「おい!クソ女!ここまでやる必要ねえだろ!」
「あんたは関係ないでしょ?ユードさん。今は私たちの試合なの。ほら。」
「おい!ユード君!君はまだ―――」
「鎖」
「ムっ、ムゥ! 早くほどきなさい!」
「おい、何でここまでしたか、理由でもあるだろ!言え!」
「、、、嫌がらせのために根性を振り絞ったから。」
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」
「おーいファッスル!こっち来て、ケイルの氷を運ぶのを手伝ってくれ~。」
「!?!?お前、まさか俺の魔法を知ってるのか?」
「どうせ強化魔法の類だろ?」
「オゥ~ノォ~! まあいいか。助けてやっぞ!」
「サンキュー!」
「おい、、、全部終わったらジムに来い。クズは穴だらけにしてわからせてやる。」
「B《上》だからって調子に乗ってる?いいわ、死んでも文句は言わないで。」
「ふぁっふぁっ!今回のビジーは誠に恐ろしいなあ!仲間内で殺すとか言うとは思わなかったぞ!」
「その通りでございます。ロイゼ様。」
「もし戦争になっても、王様には指一本もかすらせませんよ。」
「なあ、お前はこんな怒りっぽかったのかい?」
「いや。今回はトラウマ?的なものに触れたからな。あんま気分がよくない。」
「俺と
「ああ!」
ここまでの動向
・ケイル 意識不明の重体。氷は溶けておらず、依然刺さったまま。
・フェリア やっと立ち直り、戻った矢先にケイルの惨状を見て気絶。
・キュアンナ 8人治して少し疲れてきたときにケイルの搬送が重なり、冷や汗を流す。
・マーセン、セフィム 顔真っ青にしながら手をつなぐ。
・ファッスル 昼休み中にユードと一緒にトレーニングをする約束をし、一足先にジムに向かう。
・ユード 試合乱入での超長いお説教。
商店街の人々のほとんどが気を失ったため、病院の搬送も兼ねて、昼休憩が
1時間ぐらい伸びた。
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