第14話 トーナメント⑤ 意志を迎え撃つ勇気
~救護室にて~
「キュアンナ、ケイルの容態はどう?」
ここ1時間以上、ケイルの心配をする。こんな質問何回しただろうか。
手術を終えてからは7回以上聞いたことは覚えている。
「今は…まあ…よくはなったけど…目が覚めるのはかなりかかる…」
「それに、今は魔力を消耗させすぎてるから…これ以上は満足に治せない…」
「、、、、、うん。分かった。」
「あいつに、なんていえばいいのか…俺のせいでこうなってしまったのかな…」
「ううん。あんなの、ユードもケイルも悪くない。わかるわけないよ。」
「、、、、、、、、」
「やあ!そこのあんたたち!あたしが来たぞ!!」
「!?」 「ヒッ!!!」
「?やけに警戒してどうしたんだ?」
「いや…あれはビビるわ…」
「それで?セムセムは何しに来たの?」
「あんまり時間がないので、手短に話そう!」
「キュアンナさん!手を貸してくれ!」
「え…あ…はい…。」
「OK!ほい!」
「!?魔力がみなぎる…」
「やっぱあんたできるのか。「魔力の放出」。」
「さあ!それでケイル君を治してあげるといい!」
「あ…ありがとうなんだけど…あなたは…試合がこれからあるのに、大丈夫なの?」
「あたしは生まれつき魔力量が多いのでね!これくらい大したことないさ!」
セムセムは笑っている。ケイルのため、キュアンナのため、なんでこんなことまでしてくれるのか。いろいろ不思議めいた気持ちがわいてくる。
[試合10分前だ!―――]
またあれが鳴る。
「おっと!じゃあ私は行ってくる!」
「頑張ってね。」
「ちょっと待って!」
「俺、、、あなたに聞きたいことがいろいろあるんだ。一緒に行かせてもらってもいいか?」
「いいさ。ついてきな。」
会場へ着くまでの間、いろいろなことをセムセムに聞いてみる。
「なあ。なんて俺たちのことを助けてくれたんだ?」
「困ったら助け合い。一人はみんなのために。まあ…それ以外のものでもあるんだがな。」
「やっぱり…」
「ああ、カミナのあの横暴は見過ごせない。私もあんなものは見たくないし、それに…みんなブリューナクの仲間だ。ここまでいがみ合う意味なんてない。どんな理由があってもな。」
「ありがと。良い味方がいてくれて、俺も心強いよ。」
「ああ!…ってもう時間か。じゃあ!」
「試合頑張れよ。そして…カミナにも一発かませよ!」
「おう!ストレートで吹っ飛ばしてやるぜ!」
「あんたに恨みはないけどな。あたしがぶっ飛ばしてやる!」
「上等じゃねえか!何発行けるか見てみてえなあ~!」
「Aブロック二回戦第二試合!セムセムvsカムイスポーティン!はじめ!!」
「オラぁ!」
早い!フェリアと同じくらいのスピード、、、これはガードに限る!
しかし、
「脆いんだよ!オラオラぁ!」
こぶしの連撃により、魔力の盾はあっさり壊れる。だけど、これくらいはまだイージー!
「敢えて脆くしてんだよ!」
「グオッ!」
破片を操作し、カムイスポーティンにぶつける。簡単に刺さったものの、勢いは止まらない。
「いてえ!いてえけどなんとかなーる!!」
たまらず押し負けて、どんどん後ろへと下がってしまう。力押しをしてくるなら…
「その拳なんとかしな!」
柔らかい低反発の魔力でカムイスポーティンの腕を包む!
「うおぅ!!全然殴った感じがしねえ!」
「すきあり!」
「グふゥゥゥゥ!!!」
魔力の放出をしながら殴る!カムイスポーティンは壁に一直線だ!
「あーいてて。魔力の棘、魔力の壁に、なんかぷにぷにしたやつ、、、
そしてあのパワー…俺と同じの概念魔法ってやつか。」
「いや。あたしは象形魔法だ!」
「マジか!象形魔法にしてはいい能力だな!」
って…あいつも概念魔法の使い手?!これは…思ったよりきついかもね。
「ふぅぅぅ…よし。傷も癒えてきたな。でもこれとれねえなあ。」
「あんたの概念って治癒?それならちょっと頼みたいことがあるんだけどな!」
「ふん!どうせケイルのアレだろ?そんなの願い下げだし、そもそも他人は治せねえし、そもそも治癒でもねえ!」
「ほうほう!それは残念!」
「今は勝負に集中する時間やろがい!」
早い!先ほどよりも!壁がぎりぎり間に合うくらいだ!だが、あいつの手には―――
「行くぜ行くぜ!!!もう一発!」
魔力の球は…?いや、置き去りにしている!
「オーラァ!!!」
「ガッハァ!!!」
壁に突き刺さる寸前に魔力で包み込んだといえ、かなりしんどいダメージ。これはやり方を変えるしかない!
「ボール」
自分を包み、移動し続ける。その中で―――
「弾!」
とがった弾丸をカムイスポーティンに向けて撃ちまくる!
「おいおい。もうど付き合いから逃げてしまったのか?がっかりすするぜ。」
「あんたの土俵に付き合う気はないんだよ!それに、これを交わしてからいいな!」
弾丸を容易にかわし続けるカムイスポーティん。だが、この魔法はそんな簡単なものではない。
「むっ!」
放たれた弾丸は、しばらく進めば制止する。
その魔力は自律的に、今はカムイスポーティンを狙い、小さなレーザーを放つ。
「この弾幕は無理じゃないの?カムイスポーティン!」
「その球体と吹っ飛ばすのみだ!」
カムイスポーティンの拳はたまにめり込み、止まる。カムイスポーティンの拳のリーチより半径の大きい球なら、カムイスポーティンの攻撃は通らない!
「チィ!!」
「まだまだ!傷を治される前に削るまでよ!」
弾丸の数も増え、じりじりとカムイスポーティんを追い詰めていく。
カムイスポーティンは焦っていってる!
「そこ!」
「ぐぅうう!!!」
魔力を凝固させた槍を放ち、大ダメージだ―――
「甘いんだよ!!!」
「ふんぬ!!」
槍をつかみ、投げられたのもつかのま、足払いであたり一面に砂が舞う!
だが、あたしにはオートで撃つ弾丸がある!
も―――
「はじかれ―――」
「いい加減出て、きやがれー!!!」
体ごと球を貫くパンチ。腹を撃ち抜かれ、今度は受け身をとることもできずに壁に衝突する。
カムイスポーティンの魔法がいまだにわからない。
なんだあれ?概念なのか?強化魔法じゃないの?
「ボール」
「またそれか!お前はホントにチキンだな!」
チキン。そう。あたしはあのとき、啖呵を切りに行くことができなかった。
カミナが怖かった。ブリューナクのみんながいがみ合うのはよくない。といったことも、あたしの願いというよりは、自分が傷つくのが怖い私のエゴで逃げ道。あたしには命なんてかける覚悟はともかく、わが身可愛さで、フェリアの時も、ぼうぎょばっか―――
「おしまいじゃァぁ!!!」
「キャァァァ!」
また壁にぶつかる。出血もひどい。足がぐらぐらしてきた。
こんなトーナメントごときに、真剣になるなんてばからしいと思ってた。
今までカムイスポーティンでさえ、あたしは心の中では見下してたかもしれない。
でも、ぼこぼこにされているが、倒れたくないという思いが、あたしを立たせる。
「キューブ+シールド!!!」
「そういってまた逃げるのかぁ!いい加減勇気みせろぉ!!!」
パシッ
「そんな言うならやってやらぁぁぁ!!!」
何かが吹っ切れた―――よりは、頭にきた。防御をかなぐりすてる。後のことは知らない。ケイルくんがカミナに立ち向かった時のように、フェリアさんがためらいもなく大技を連打したように。
「くらえぇぇ!!」
「ええやん!ええやん!」
お互いに拳のラッシュをうちあう。
青あざだらけになっても引かない。
「おおぅ!えぐいやん!」
両者吹っ飛び、また体勢を立て直す。
「魔力の放出ってそんなよええものなんかぁ!?」
さらに早く、より重く。カムイスポーティンはあたしを上回りに来ている。
それにこたえるように、あたしも魔力はすべて吐き出す。後ろからも攻撃なんて狡い真似はしない!
(傷が…治っていない?)
その直後、ラッシュに撃ち負け、後ずさりをしてしまった。まず―――
「あー。そうか。お前、脳死で打ち合ってきてないな。どうせ俺の魔法を知らないから、警戒でもしてるんだろ?」
カムイスポーティンに図星をつかれた。が、
「いいぜ。教えてやる。俺の魔法は概念魔法の[意志]!ノればノるほど、
アゲればアゲるほど!強くなるもんじゃい!」
「へえ。アンタ意外といいヤツなんだな!」
今ので大体わかった。カムイスポーティンは―――本気で殴りに行けばその分拳が強くなり、治ってくれと願えば願うほど、治る。
かなり条件はシビアな感じにできているし、2つ以上の意思を見せたら弱くなった。
つまり、今のあいつには[あたしに勝つ]以外の考えがないってとこかな。
「「いくぞ!!」」
また互いのラッシュの打ち合い。あいつのシンプルな能力を打ち破るには、あいつのように、魔力の放出のみ考え、回収は度外視!
「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「オラオラオラァ!!」
まったくの互角、互いに削れていく!
このままでは先に倒れるのはあたしだろう。だが引かない!
さらに放出!肘と肩から放出!拳には纏わせる!
「おっ!おっ!!まじか!!」
「うらぁ!!」
片方が強くなればもう片方も追いつくこのいたちごっこ。だが、この勝負の終幕も近い。
「ギッ!」「グッ!」
拳がぶつかり合い、互いの拳はぐちゃぐちゃになり、後ろにのけぞり―――
地面を踏み抜き、相手の顔面を打ち抜く!
「この勝負もらった!ふきとべぇ!!!!」
「なぁーっ!!!」
息を切らす。魔力の放出があったおかげで、カムイスポーティンより早く打ち抜けた。かすむ視界の中、砂埃の先を見ると…
「はぁ…はぁ…」
カムイスポーティンが立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。
まだやれるのね、、、
「めっちゃナイスガイだな、、!」
「って、、、そういえば、、、こんなボロボロなんて気がつかなかった、、、ぜ…」
カムイスポーティンは前のめりに倒れた。これって、、、
「カムイスポーティンの気絶により、セムセムの勝利!」
緊張の糸がほぐれ、あたしも突っ伏した。そういえば、とっくにボロボロなのになんで打ち合えてたんだろ。
「なあファッスル。ジム行けなくて申し訳ない。」
「いいさ。どうせケイルのことなんだろ?そっちが当然優先さ。」
「この試合を見ずに行ってもよかったんじゃ?」
「別に。良い根性と勇気見れたしな。」
「そういえば、、、Aブロックは最後根性比べが多いな。結構ハラハラするよな。」
「まあ、、、俺はひやひやするけどね。あんなのやったことない。」
「それもわかるさ。俺もできねえしな! それに、Bブロックではこんなことする奴はいないだろう!」
「さて、セムセムとカムイスポーティンを運んでやるか。」
「うん。」
セムセム、、、かなりいいやつだな。こんな人ともっと早く出会えたらどんな人生だったんだろ。
・「意志」
使用者 カムイスポーティン
分類 概念魔法 (強化魔法)
自らの意思を反映し、無意識のうちに自身に能力を与える魔法。
自身の強化、治癒をも可能にするかなり汎用性の高い魔法。
その今抱いている意志により、出力が大きく変動する性質のせいもあり、雑念が入ると途端に機能しなくなる。
強い思い込みすなわち自身のイマジネーション力が強い人間、理不尽や世の中の理に逆らうくらいの「決意」を持つものが真価を発揮する。
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