第16話 トーナメント⑦ 小細工は力で有耶無耶に

~救護室~



「なあキュアンナ。体調すぐれないけど大丈夫か?」


「ごめん、、、セムセムちゃんを治してから、もう魔力はほとんどない、、、」


「まあ、じゃあ俺はできるだけ無傷で試合終わらせてくるわ!」


Aブロック決勝戦、セムセムvsカミナ。

試合はほぼ一方的に運ばれ、セムセムは目、みぞおち、胸、肩にそれぞれ鋭利な氷が突き刺され敗北してしまい、意識もない様子だ。

ケイルはもう治癒をしなくても大丈夫なラインのようだが、問題はセムセム。

いまだにガーゼが血で真っ赤ににじむくらいには出血がひどい。

キュアンナも、魔力が枯渇している今はせめてガーゼだけでも、と一生懸命に取り換えに励んでいる。


「ねえ。なんでカミナはここまで傷つけようとしたの?」


フェリアが問う。至極まっとうな質問だが、俺にも答えはわからない。

ケイルのときは勝てるわけでもないのに、最後に怪我をさせるつもりで攻撃してきたからイラついて刺した。と言っているが、正直言って理不尽だ。



その時。何かが後ろでさっ、と動いた感じがした。

振り返り見てみるが、何もなかった。


「ん?何かしたような…ま、いっか。」

「じゃ、俺はもうそろ行くわ。」


ユードが去っていく。残されたフェリアとキュアンナで話をしている。


「ホント。頑張るのは男子だけって思ってたけど、、、セムセムちゃんもキュアンナも本気で頑張ってんだね、、、私がくじけてる暇なんてないわね。」


「ううん。いっつもフェリアちゃんもよくやってる。あの家庭だと、私だったらどっちかに流されてしまうよ。」


(あ、、、あの、、、)


何か聞こえた!でも、ユードは外で何も見つけてない。子供?それとも

1回も救護室に来ていないカミナがついにきつくなってやってきたのかな?


「行くよ!キュアンナ!」

「え!?あ、、、うん。」


二人で救護室の外を見渡すも、誰もいなかった。廊下を曲がった先も見てみたけど、やっぱり誰もいない。不思議は残るが、戻ることにした。

しかし。


「え、、、これ、、、治ってる、、、!?」


「うそでしょ!!?」


セムセムの傷が治っていた。ガーゼもほつれていて、明らかに誰かが忍び込んでやったに違いない。

でも、誰が、何のために、これほどの魔法を?

セムセムはキュアンナにより、峠は越えていたとはいえ、依然出血もひどく、キュアンナが集中して直さないといけないくらいのけがだった。

それをやれるなら、、、先生?

いや、先生らはみな自分の職で忙しいはず。なら、、、ファッスルくん、グローウィくん、カイザリオンくんの誰か?


「よ…よかったね、、、」


「う…うん、、、」


これがポルターガイストってやつかな?探しても無駄なので、これはもう割り切って考えるようにした。









「よっ。ファッスル!」


「おいおい、、、もうすぐやりあうってんのにさぁ、、、会いに来てどうした?」


「いやぁね、、、ちょっと一人やばいやつがいるからな。警告?みたいなもんよ。」


Bブロックの中でも異質、、、Aブロックのカミナみたい、いや、それ以上の差がある人間が一人いる。

そう。あの時―――初日のマリウス先生へ魔法を披露したとき。

マグマを使う生徒がいた。

殺傷能力が桁違いなうえ、Bブロックに入るほどの実力があるなら、相当な機転が利かないとおかしい。

だって、、、マリウス先生は俺のチートなはずの魔法ですら眉の一つも動かしてなかった。 それ相応のやつがいることなど100も承知ではないと無理だろう。


「ぷっ。そんなのかよ。」

「?」


「そういう心配は勝ってからだろ?負けるかもしれないのによく先の心配なんてできるもんだな。」


「よく言うよ。弱点も握られて、挙句の果てに魔法を見せてきたし。」


「へっ!言い訳が楽しみだぜ!」


俺とファッスルは広間に向かうことにした。広間にはAブロックのときよりも多くの観客がいた。やはりBブロックはAブロックより上だということは知らされていたのかもしれない。

そして、個室の良い観客席には、ビジーの重役らしき人達、向かい合った個室には

―――ウェネミの奴ら。




「お、おい!兄者!あいつって、、、人殺しじゃないか!」


「ん、、、。そうだね。荒稼ぎする下種は帰り際に殺していきますかぁ。」


「ふむふむ。あいつが、、、ウェネミの魔導士を狩っていたやつか。

確か逃げ足は相当なものなんだろ?」


「そうです!あいつに俺一回逃げ切られてしまいました!」

「ほーんと。侵入者一人も殺せなかったfoursなんて恥ずかしい(*ノωノ)」


「兄者!!!」


「はっはっ。よいよい。実力をここで見極めればよいだけの話よ。ただ、、、

地下街の人間が金を稼いでブリューナクに入学するとは、、、不思議だな。」




「Bブロック第一回戦第一試合!ユードvsファッスル!始めい!」



「さーてさーて。君は脂肪に魔力を蓄積させていることで、強化魔法の負荷を軽減しているんだろ?ならば、、、」

「これだ!! デーン!」


「!?まさか、、、」


「そう!脂肪吸引機さ!この大きさなら一気にいけ―――」

「させるかよう!!!」


ファッスルが自身の体を筋肉質のマッチョに変え、襲い掛かる!

ユードは後ろにかわすのが精いっぱい―――ではなく、自分に攻撃がいかないことは知っていた。


「へっ!お前の大事な機械がぺっしゃんこだぜ!」

「じゃあお前の脂肪はダイナマイッ!だぜ☆ フレイム!」


「まさか!!!」


腕を引いた時にはすでに遅い。脂肪吸引期の中に敷き詰められていたのは、ダイナマイト。再現させた火が引火して爆発する!


「ぼおおお!!!」

「どんなもんだい!って、、、ありかよ!」


吹き飛んだファッスルの体には、ガードした腕がやけどしていた以外には何一つとして傷がない。多少ぐらついているものの、爆弾を食らって決定打にならないはおかしい!


「まあ二の矢三の矢ないわけないよ!」


ユードは何かを作り、手に持つ。向かうは粉塵の中、ファッスルのもと。

粉塵の向こうから、ユードが現れる。それを迎え撃つファッスルの剛拳。だが、ぐらついた足の踏み込みではユードをとらえるに至らない!

そして、ユードはファッスルに何かを突き刺し、粉塵に紛れて消える。


「なんだ?この注射器?」

ファッスルが力を籠め、砕くも、ユードはそのすきを突く!


「選択ミスってやつか?片腕死んでるぜ!」「サンドナックル!」


「グっ!」


ファッスルが片手を使い、肩に刺さった注射器をとるのに意識がそがれたそのすきに、ユードは鉄拳を顔面に叩き込む!


「顔面は繊細で脂肪は薄目だからな!強化も抑えめにしてるよなぁ!」


ファッスルがのけぞる。そのうちに、ユードは迅速に注射器を腹、腰、モモ、二の腕や胸に、15本以上差し込む!

そしてそのうちの1本の押し子が上昇しきった時、ファッスルに違和感が走る。


「くっ。脂肪を抜くのはこれでもできるってことか。」


「まあな。非効率だが。お前の体力を削ってるようなもんさ!」


ユードが再度ファッスルに向かう。先に手りゅう弾を投げ、牽制も兼ねる。


「すごいぜ!俺が生きた中で随一だ!」

「その言葉は老人が言うから格が出るんだよ!!」


サイドステップでファッスルは手りゅう弾を交わす。あの強化したフィジカルなら可能だが、、、


「まだ爆発するとは言ってねえよ!」


ユードが追いつき、ファッスルに向けて蹴り飛ばす!

そのうちにも、ファッスルは脂肪を注射器に吸引されていく!



「ふぅ~~~~気合。入れるか!」


手りゅう弾の爆発が直撃する!ファッスルはのけぞり、ユードは爆発に紛れて後ろに回り、ナイフを注射器を刺した部分の背中につく!

そのとき―――


「ふぁぅんんん!!!」


ファッスルが吠える!その瞬間、筋肉が隆起し、差していた注射器がすべて吹き飛んでいった。

先ほどよりも格段に速くなったファッスルが間合いを侵略、ファッスルの剛拳が眼前に迫る!


―――体をずらすだけ。ミリで避けて腕をつぶす。


この土壇場、ユードはなんと数センチ体をずらし、豪速の拳を見切って見せた。

攻防一転。伸びきった腕を造ったナイフで引き裂きにかかる!


「とおら、、、ない?」

「一方的な我田引水♪ 戦法覿てき面ガッテム後悔!」


「がァァァっ!!!」


ファッスルの拳がユードにクリーンヒットする。ユードは直線に吹っ飛び、

轟音を立て壁に穴をあける!


「一撃必殺正々堂々♪ズルい奴にはせいぜい無理だお♪」




、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

「まだ負けじゃねえよ、、、くそ、頭が割れたな、、。」

「おー!頭で受けていたのか!機転がいいねぇ!」


ナイフが通らないくせに、爆弾もダメージが少ない。こんな奴、今までまともに戦った敵ではトップの強さだ。

地下街時代なら、ナイフが通らなかった時点で、命惜しさに俺はすぐ逃げていただろう。だが、こんな命まではとらない試合、最後までやってやる。それに。


「ひさしぶりに勝ち筋を[創造]《つくり》たくなってきたぜぇ!」

「後悔先に立たず♪ドンマイお前倒れ伏す♪!」

















・マッシブアップ


使用者 ファッスル

分類 強化魔法


魔力を消費して、自身の筋肉を増強する魔法。シンプルながらも、強化魔法の中でも負荷は相当なもので、使用者自身の体が強くなければ基本的にまともに使用できないうえに筋肉痛に襲われる。

ファッスル本人は自分の脂肪に魔力をため込めれる性質を生かし、脂肪の上に筋肉をつけることで、脂肪を負荷を通さないクッションとして使い、大きい負荷があるという弱点を克服している。















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