第8話 ユードも暇を持て余す
3日目、いよいよ明日はトーナメントが始まる。俺?昨日はずーっとベッドにこもってたらいつの間にか二日目が過ぎていたな。どうせ今日も予定はないんだし、久しぶりにあいつらのもとに行ってみるか。
そうしてベッドから跳ね起き、ご飯を作る。まあ、普通の家庭なら親がやってくれるのだが、あいにく俺には親がいない。それにハッキリとした記憶なんて10歳くらいからのものしかない。それまでどう過ごしてきたのか、何であんな所にいたのかもいまいちわからない。存在している前の記憶といえば、男女合わせて三人が俺の周りにきて何かしていたことぐらいか。その人たちが俺の親なのかもしれない?とかいうのは考えても無駄だ。
自分は生まれつき持ってた魔法で侵入者たちを殺したり、あまりいい気分ではないが他国に侵入して、守りに来る奴らを狩り、魔導士の死体が欲しいとかいうとある国の教団に売り、こうして家も手に入った。かなり危険だったけど、今はだれも国の現状を見て、家を買いたがらないらしく、不動産会社の奴らも首が回らないようでこんな俺でも楽に暮らせるってわけだ。別に金にも困らなかったし、親がいなくても大して不便ではないし別に憐れんでもらわなくてもいい。だが、見過ごしてきたあいつらのことが気がかりだ。なので今日は着替えて外に出て、今まで過ごしていた地下町に行ってみる。
あそこには孤独な子供たちがいっぱいいて、皆で身を寄せ合っている。
ただあくまでも一緒に金を稼ぎ、この状況を打破するわけでもなく、みんなでいることでならず者や敵なんかから身を守るだけだ。
それでも背中を預けあう関係だからか、それなりの信頼関係も生まれている。
そうして水路の横に掘った狭いトンネルを通り、あいつらのもとに行く。
狭い部屋にはフルス、イルフィンがいた。マクスとフィーアはどこに行っているのやら。
「よっ。久しぶり。」
「! ユードじゃん。 もうここには来ないと思ってたんだけど。どういう風の吹き回しかい?」
「お前はいつも学がありそうな言葉遣いをするなぁ。そんなのお前がどんな人間かだれが見てもバレバレだっつーの。」
「オマエもいっつもこれだよ。俺らのことなんて眼中にないように一匹狼を気取ってさあ。挙句の果てにこんなところからそそくさと離脱してさ。稼ぎまくった金も俺らにくれればなぁ。」
「? まさかお前らが人の金に干渉してくるとは。結構仲間内の信頼も深まってきている感じ?今までは守りあうだけだったんだけだったのに。」
「ああそうよ。お前が抜けてからさ、国の偉そうな人がここにやってきて、マクスのことを殺していったんだよ。あいつはしたたかではなかったけど、お前くらい強かったから頼りにしてたのに。しかもあいつらって来たら、「歪んだ均衡はお前の存在で修復する。」とか言って、俺らには目もくれず、ただ普通にマクスを殺していきやがった。」
「、、、だからお前らは前より団結したってわけか。」
「そうよ。こんなのは天災みたいなものさ、まっ、こんなところに住んでたら何回かは経験するよ。お前が抜けたせいで起きた事件だけど、別に恨んでもないさ。フィーアも怖がりだったけどな、あれから責任感も強くなって今では街に出ていろんなことをして金を稼いでいるらしい。」
「、、、、、、、、、」
「なあイルフィン、お前もこんなところにいていいのか?」
「ぼくはマクスくんがいないと無理だよ、、、」
「、、、、、そうか、わかった。じゃあな。」
「親がいなくても子は育つのかな。ユード、教えてくれよ、、、」
俺は気まずくなって地下町を離れた。いつもマクスが言ってた「幸せと不幸は1対1なんだよ」とかいうどこかで何回も聞いたような言葉を思い出す。いつもは笑っていたが、今はとても心の中で大きくなっている。1:1の幸福度も均衡ってやつ?そんな単純なわけないか。
沈んだ心を落ち着かせるためにソフトクリームでも食うか。そうして町のはずれのシンプルなソフトクリームしかない店に行く。こういった静かな場でものを食べるのは一番落ち着んだけど、今回はなぜかフェリアがいた。
「よっ。ユード。」
「よお、フェリア、、」
「なんかしょげてない?いつものユードじゃないよ。」
「うん、、まぁ、、、色々やってしまって、、、、」
「、、、複雑なものは一旦しゃべってしまえば?胸がスーッとするよ。」
アイスクリームを食べながら、フェリアに地下町に関することをすべて話した。
そして、フェリアの返答は意外過ぎた。
「いいじゃない。さっきは不幸が巡ってくる番なら、次は幸福が巡ってくる番じゃん! もっとワクワクしながら生きようよ! そして来た幸福を噛みしめようよ!」
そんな楽な気分になれたらなぁ、、、なんて思っていたけど、知らんうちに口角が上がってた。楽な気分には簡単になれるかもしれない。気分が晴れた。
が
[ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!!]
警報がなる。ウェネミ国の魔導士が侵入した。となる。ここから遠いし、商店街の近くらしいならいいかと思ったが、フェリアがバブルを生成しダッシュで駆ける。
こんなの魔道軍に任せとけばいいとは言えず、俺も全力ダッシュで向かう。
3キロの道を5分でつき、暴れてる敵をフェリアは補足する。
「ヒッヒイ! お前ら低身長でだせえなぁ!もっと沈めてやるグッ
フェリアがハイヒールキックで一撃で沈めた。というか即死だ。
おいおい、こんなのに本気で殺しに行くのかよ。フェリアが何を思っているのか知らんけど、まずは荒らされた商店街を掃除しないと。ケイルが汗だくで走ってきたし、燃やして何とかなるだろ。
泥は消えたけど、水を吸ったものは重く、意外としんどい。台車を作ってみたけど、あんな大きいものをたくさん作ったら意識ぶっ飛びそうだった。
みんなで協力して、何とか深夜になる前には終わり、最後は使い物にならなくなった廃材にケイルが火をつけ、キャンプファイヤーを皆で楽しんだ。
「なあフェリア、お前なんかイラついているのか?さすがにあれはえぐいぜ。」
どう考えてもあれはえぐいし、いつものフェリアではない。しかも町のはずれで暇を持て余してたし。もしかするとこいつも悩んでるんじゃね? なんて感じで聞いてみる。
「、、、、、、私のうちね、昔お姉ちゃんがウェネミの侵入者に2回も重傷を負わせられたんだ。もう治ってるんだけど、親はわたしにいつもウェネミの人間は殺せっていうんだ。でもね、もうお姉ちゃんは何ともないし、本人も私が返り血を浴びてるのを見るたびに泣いちゃうんだ。だから極力殺さないようにしているんだけど、前に侵入者を見逃した時、お母さんに見られてさ、悲しい顔してたんだよね。
お姉ちゃんもお母さんたちもみんな私の意見は尊重してくれる。でも自分の主張も捨てれない。だから私に期待を寄せてるんだ。私はみんなのことは好きだよ、でも叶えられるのはどちらかの望みだけ。ホントは決めなければならないんだけど、決めたいけど、あんな悲しい顔見たら決めるのは無理だよ、、、
、、、で。その板挟みのストレスから、ウェネミの敵はみんな本気で殺すようになってさ、もう親の言うこと聞くよりもストレス発散に殺してるって感じてから、もう滅入ってだめなんだよね。お姉ちゃんは泣くし、私はお姉ちゃんに嫌われるんじゃないかって余計に心配してね。
それでも親は笑ってくれるし、私のことも愛してくれる。当然私も愛してるし、
もっと愛されたい。でも、お姉ちゃんの悲しむ顔なんて見たくない。親の悲しむ顔もね。何がいいのか、何が幸せなんかもわからないよ、、、」
俺は言葉に詰まった。1:1の幸福量って何なのか、幸福と不幸の境界は何なのか。いつの間にか光が消えたこの周りのように、○×なんてものでは表せず、もしかするとどんな言葉でも表すことなんてできないのかもしれない。なんて複雑なことを考えたらもっと遠ざかる感じがする。
俺が言えるのは、俺のように、生きてたらいつか何かをつかめる。ってことだけだ。
そしてトーナメントの日、短すぎた平和の終わりがここから始まる。
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