二
二月十日、日曜日の午後。雷注意報の通知がスマホに入ったのは、電動キックボードで片側二車線の幹線道路の信号待ちをしているときだ。
前線の影響で季節外れの積乱雲が発生しているらしい。確かに、幹線道路を挟んだ住宅街の向こうの山に雨雲が見える。
今から僕はショッピングモールに行かなくてはならない。そこで伯父さんと待ち合わせしている。決まったのはちょうど三日前だ。
二月七日に入試結果が発表され、僕は無事に伯父さんの望んだ通り、金山大学の経済学部経済学科に合格が決まったので、彩と同じ芸大への道は断たれたわけだった。まぁ、僕の場合は彩のコースとは別の、工芸学科の陶芸コースを受験したかったんだけど。
伯父さんは父さんより僕の進路に口出しする人で、入試結果を報告するとすぐに入学式に着るスーツを買いに行くぞと僕に電話で命令した。
父さんなら、僕に何を目指せとか、こういう仕事に就けとかとやかく言わないのに。
伯父さんは印刷会社の社長で、いつも経済を学べと口うるさかった。
スーツぐらい自分でそろえるのが男だとか言いわれそうだ。入学祝いに買ってくれるのかどうかも分からないので、一応一万円は用意した。冬物セールで安くなっていたとしても、スーツ一式となると一万円で済むかどうか怪しい。僕にはスーツの相場が分からない。
信号が青になり、僕の横を大型トラックが先に抜けて行った。排気ガスが僕の横顔に吹きつける。
黒煙が目に染みたわけではないのに、涙が出てきた。ショッピングモールに行くのは伯父さんのためではなく、彩のためだと思えば辛くないだろう。
電動キックボードのアクセルを親指で強く押し込み、最高時速の二十キロを出した。
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