第14話 朝顔と秘密

 夏の初め頃の頃、バイオレットの家に行くと、出迎えてくれたバイオレットが突然庭の方を指さしてなにかを言った。どうやら庭を見て欲しいようだった。

「なんだ。庭になにがあるんだ?」

 バイオレットに先導されて緑丸と恵次郎と菖一が着いていくと、庭には棒を立てたいくつもの鉢植えが置かれていて、その鉢で朝顔が栽培されていた。その朝顔の世話を、リンネがせっせとやっている。

「朝顔? なんでまた?」

「そんなに珍しいものか?」

 緑丸と恵次郎が思わずそう言うと、その声で気づいたのかリンネが駆け寄ってきてにこにこと笑う。そのリンネに、恵次郎が英語で話し掛けると、リンネは興奮したようすでなにかを話している。

 不思議そうな顔で緑丸が恵次郎を見ると、恵次郎がリンネの言葉を訳す。

「去年の夏にはじめて朝顔を見て、種をたくさん買い込んだらしい」

 手を振ってなおも話し続けるリンネの言葉を、恵次郎は少し苦笑いをしながらまた訳す。

「朝顔はすごい。こんなに不思議で不可解な花はない。と言っている」

 それを聞いた緑丸と菖一は不思議そうな顔をする。

「朝顔ってそんな珍しいもんか?」

「そんなに香りがいい花でもないですしねぇ」

 そんなふたりに、恵次郎がこう言う。

「まあ、東京の方では変わった花が咲く朝顔を作って品評会をしたりもしてるみたいだからな。リンネはそれも見たんだろう」

 たくさん並んだ朝顔を指さして、バイオレットが緑丸に話し掛ける。難しい言葉が入っていたので恵次郎の方をちらりと見ると、恵次郎が訳して聞かせる。

「英吉利に輸出した朝顔が大人気で、バイオレットは今、相当儲かってるらしい」

 それを聞いて、緑丸はにっこりと笑ってバイオレットに言う。

「よかったじゃん。もっと儲けるようがんばりな」

 すると、バイオレットは一瞬複雑そうな顔をしてから、リンネと恵次郎に声を掛ける。

 恵次郎は少し驚いた顔をしてから、緑丸にこう言った。

「僕と菖一とリンネは先に家の中に入って待ってる」

「え? なんで?」

「バイオレットが、もう少し兄さんと朝顔を見てたいらしい」

「そっか。わかった」

 緑丸はバイオレットの隣に並び、朝顔の方を見る。恵次郎達の足音が遠くなって聞こえなくなったあたりで、バイオレットが周りを見渡してから、緑丸に向き直った。

「ん? どうした?」

 ポケットをまさぐってなにかを取り出したバイオレットが、緑丸をじっと見てこう言う。

「ミドリマル、フォーユー」

 それから、緑丸の手を取って、手に持っていたものを見せる。それは、先の部分を切った匙の柄を、輪になるように丸めたものだった。

「それ、お前がいつも使ってたやつじゃん」

 緑丸が驚いていると、バイオレットは丸めた匙の柄を緑丸の手の指に填める。

「なにこれ。指輪にしたのか」

 緑丸が填められた指輪をしげしげと見て、どうやら貰っていいものだとわかったので、いったん指から外して御守り袋に入れた。

「ありがとな」

 礼をいうと、バイオレットが泣きそうな顔で笑って緑丸を抱きしめ、こう呟いた。

「マイディア」

 緑丸も抱き返して言葉を返す。

「俺達、ずっと親友だよな」

 お互いの温もりを感じながら、このことは誰にも秘密にしないとと思った。

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