第18話 取り残されて
バイオレットが国に帰ってからしばらくして、緑丸はバイオレットからもらった匙の指輪を左手の薬指に填めるようになった。当然、それを見た恵次郎には不思議がられた。
「兄さん、その指輪はどうしたんだ?」
「ん? バイオレットにもらったんだよ」
「なんでよりによってその指につけてるんだ」
訝しがる恵次郎に、緑丸は笑って返す。
「この指じゃないと合わないんだよ」
おやつを食べていた居間から自室に戻り、緑丸はひとりきりになる。お遣いに出ている菖一が帰ってきて浪花節の稽古をはじめるまでに、思いに耽りたい気分だったのだ。
今になって後悔する。あの時日和らずにバイオレットに付いて行けばよかった。自分のために生きてくれと言えばよかった。そんな思いが胸を占めるけれども、今更後悔してももう遅い。全ては手遅れなのだ。
少しでもバイオレットに近づくために、キリシタンに改宗しようかとも考える。けれども、指に填めた匙の指輪を撫でて考え直す。もしキリシタンに改宗したら、罪人になってしまう。バイオレットには近づきたいけれども、罪人になってバイオレットに罪を被せるわけにはいかない。
ふと、御守り袋からバイオレットの名前が書かれた紙を取り出す。それを見ていると涙が滲んだ。
緑丸は毎日の終わりにバイオレットの名前が見られるように、名前の紙を日記に挟んだ。
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