わたしは秘密の刺激に憧れる

歩夢図

1ページ目.ぼっち・ざ・こみっく!

 わたしの人生の中での、新連載の開始を告げるチャイムが鳴った。


 いよいよ今日から群光ぐんこう学園一年生として、わたしの高校生生活がスタートする。


 新鮮なチャイムのメロディー。


 でもわたしにはすでにわかっている。


 これから過ごす学園生活は、きっと中学生の時と変わらないだろうなって。


 高校生になったけど、小学生のときからコミュ障で友達作りが下手なわたしは、たぶん高校でもこれといって友達もできず、ほかの女子のようにボーイフレンドもできず、それで青春的なイベントもなく、学校に通って授業を受けるだけの、同じ日常をひたすら繰り返すんだろう。


 それで結局、今まで通り教室で独り漫画を読んだり、絵を描いたりしてるんだと思う。


 ただわたしの夢は漫画家になること。


 高校にいる時間も絵に集中していたいとは思っているから、それはそれで別にいいのかも。


 人それぞれ、相応の環境があると思えば……ね。


 それにわたしは視線恐怖症なので、他人と目を合わせることができない。


 先生やクラスメイトの視線が怖いので、中学生の頃から、なるべく前髪を伸ばして目を隠すようにしている。


 この髪のカーテンがないと、わたしの心は落ち着かない。


 もしかしたら学校にも通えてなかったかも。


 でも周りから変な人だと思われてないかは、ちょっと気になるけど。


 だから校内ではなるべく息を殺して空気のように。


 教室の隅っこに溜まってる埃のように。


 黒板から舞い落ちるチョークの粉のように。


 誰にも関わらず、誰からも気に留められないように過ごそうと決めている。


 そんな学生生活を送っているおかげか、わたしは孤独には強くなった。


 スマホが鳴らなくても平気だし、休日も一人で過ごしていても全く気にならない。


 恋や人間関係で悩むことが無いのはメリットかな。


 そんな学園生活は変わらないと思われるわたしにも周囲は変化があった。


 クラスメイトの顔ぶれは中学校のとき変わった。


 当たり前だけど。


 わたしと同じ中学だった人は、この教室にはいない。


 ほかの人も同じかなと思ったけど、でも見た目がわたしとは対照的な髪の色が明るいギャル系の女の子は、すでに教室の中心でクラスメイトと談笑していた。


 もしかして同じ中学の人達なのかな。


 ちなみにこの群光学園は個性と多様性を重んじるかなり自由な校風で、髪型や髪の色に決まりはなく好きにできる。


 ギャル系が好きな子はいくらでもギャルらしくできるし、地味なわたしは前髪カーテンをいくらでも伸ばせる。


 それはありがたいよね。


 そんな感じで登校初日のわたしは、教室の一番後ろの隅の席に座り、身を縮めて時間が過ぎるのを待っていた。


 でもこんな感じで三年間大丈夫かな。


 中学の三年間は乗り切ったけど……。


 高校生になったことだし、少しは自分を変えるために青春っぽいことしたほうがいいのかな。


 帰宅部にしようと思ってたけど、何か部活に入るとかどうだろう。


 たしか群光学園には漫画部があったはずだ。


 でもわたしの描く漫画はちょっと特殊で……。


 女の子同士の少しエッチで、しかもフェチを追求するようなふつうではない漫画を好んで描く。


 だから漫画部に入っても理解されなくて、上手く部員と馴染めないかもしれない。


 でも漫画は上手くなりたいし……。


 それにわたしは、男の子は言うまでもなく女の子ともそういう関係になったことないから、自分の描く漫画のキャラクターにリアリティがないのが悩み。


 もっとキャラクターを生き生きさせるようなこと、起こらないかな。


 大人しくしていたいとは思いながらも心の奥底では、わたしに新しい刺激を与えてくれるような出会いや出来事を、本当は求めているのかもしれない。

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