18ページ目.早々のフェチ出現

「昨日、言ってた体操服を交換するやつ、いつやる?」


 阿舞野あぶの先輩とマスク越しのキスをした翌日、わたしのスマートフォンにSNSのメッセージが届いた。


 阿舞野先輩はわたしの漫画のプレイをやる気満々みたい。


 先輩は人の体操服を着ることに抵抗はないのかな。


 わたしは別に先輩の体操服を着ることに抵抗はないけれど……。


 でもわたしの汗の臭いを先輩の衣服に付けることには抵抗がある。


「わたしのクラスは来週の月曜に体育の授業あるのですが」


 わたしは時間割を答えた。


「マジ? ちょうどうちのクラスも月曜に体育の授業あるんだよねー。それならその日に同時に交換できるね!」


「そうですね。いつ私の体操服、お渡ししますか?」


「月曜の朝、エントランスで待ち合わせでいいんじゃない?」


「わかりました」


 自分の描いた漫画の世界の、普通ではないことをしようとしているのに、先輩のペースに巻き込まれていくわたし。



「なんかさ、ドキドキしない? これってさ、相手の体操服に汗が染み込んじゃうってことだよね? キャー、超恥ずいんですけど!」


 先輩のキャピキャピさがSNSを通じて伝わってくる。


 もしかして先輩は相手の汗や臭いが染み込むことを喜んでる……!?


 あのかわいい容姿の内側に、先輩も実はわたしと同じように女の子に対するフェチを隠し持っているのかも。


 そしてそれが事実なら、そのフェチを表に出したきっかけはわたしだ。


 そう考えると、わたしは先輩に対して申し訳ない気持ちにもなった。


 陰キャのわたしが女の子に対してのキモげなフェチズムがあるのは、あり得そうなことだけど、先輩みたいな明るい世界にいる陽キャの人にもそういう性質があるなんて……。


「ところでさ、あの漫画のキスシーン、実際に体験したから描き直すんでしょ? できたら読ませてよ」


「それは、もちろんです」


 わたしは先輩に了承する。


 隠キャのわたしと、学校のみならず多くのファンがいる人気者の阿舞野先輩。


 クラスメイトよりも早く、意外な、しかも自分と正反対の世界にいる人と仲良くなってしまうなんて思ってもみなかった。


 こんな展開、想像力の乏しいわたしでは、漫画のストーリーとしても思いつかなかっただろう。


 でも困ったな。


 わたしのこの乏しい想像力のせいで、体操服交換の後のプレイがまだ思いついていないのだ。


 部を代表する作品にもなるわけだし、何かアイデアを考えださなきゃ。


 でも陰キャぼっちで人見知りのわたしには、こんな変態的なこと、相談する相手がいるはずもなかった。

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