10ページ目.稲羽さんは断れない!

「こんな内容の漫画、高校生にふさわしくないからダメですよ!」


 そんな頭に浮かんだ台詞が、喉から僅かに顔を覗かせた。


「こ、こ、こんな内よぅ……」


 でも、小さなわたしの声は聞こえなかったようだ。


「そーいうことで、これに決定!!」


 先輩達は三人で拍手している。


 先輩方の決めたことにダメだなんて、新人で気弱民のわたしには、やっぱり言えない。


 どうしよう……。

 って、もうやるしかないんだけど……。


 ただ、実はこのわたしの漫画は完成していない。


 先のストーリーも本当はあやふやで、しかもラストも考えてはいないのだ。


 でも部活の代表作と決まった以上、考えなければ。


 入部したばかりなのに、すでに焦るわたし。


 そして、いつも考えれば考えるほど頭が空回りするのもわたし。


「これ、完成したらステギャザに出してみようぜ。売れるんじゃね?」


 独り焦っているわたしを目の前に、嵯峨さが先輩が言った。


(ええ〜〜っ!)


 わたしは心の中で悲鳴を上げる。


 ステギャザとは『スティックトゥギャザー』というクリエイティブな趣味を持つ人達のためのマッチングサービスのこと。


 ライトノベルを書くのが趣味の人の小説を、漫画を描くことが趣味の人が絵にしたり、または自主アニメ制作が趣味な人がアニメにしたり、そのアニメに音楽が趣味の人がテーマ曲をつけたりと、それぞれのクリエイター同士を結びつけてくれる。


 その作品が口コミで広まって人気が出れば……、メジャーデビューも夢じゃない!


 でもそれは星の数ほど無数にある作品の中で、それだけの実力があって多くの人が楽しんでくれる、それこそ選ばれた作品だけ。


 わたしのような女の子同士のフェチを追求したマニアックな漫画が、そんなことになるわけがない。


(売れるわけないでしょっ!)


 と、心の中で思ったけど、当然声には出せないわたし。


 どうやらわたしの高校生活は、のっけから予測してなかった方向へと進み始めているようだ。

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