11ページ目.稲羽ふわりの憂鬱
初の漫画部の活動が終わって、わたしはエントランスでひとり上履きから靴に履き替えていた。
それにしても大変なことになっちゃった。
新人の自分の作品が、今年の部の代表だなんて。
いくらなんでも信じられない。
でも残念ながら現実。
選ばれた以上、あのフェチでマニアックな漫画を良い物語にしなくちゃいけない。
わたしはその責任から、憂鬱な気持ちに襲われていた。
部活が終わってからずっとそのことで頭がいっぱいで、目の前に置いてある靴もよく見えてない状態。
昔から気持ちの切り替えが下手な性格で、心配事や不安とか気にかかることがあると、長い間、そのことで頭が占められてしまうのだ。
思い詰めていたら、やがて目の前が真っ暗になった。
ただでさえ伸ばしてる前髪で視界が悪いのに、とうとう靴まで見えなくなっちゃった。
って……、目のところが温かい。
これは誰かがわたしの目を塞いでるんじゃん!
「だーれだ!?」
可愛らしい声がわたしの耳元で聞こえる。
「……あの、
わたしは呟くように答えた。
「せいかーい!!」
先輩は軽やかに言うと、わたしの目から手を離した。
「あっ、あの、お疲れさまです!」
わたしは慌てて振り返り、頭を下げた。
「お疲れー! またここで会ったね! ってか、これって運命じゃね!?」
先輩は笑顔でわたしに言う。
「あっ、えっと、そうですね。偶然って続くんですね……」
うまく言葉が返せない。
こういった想定していないシチュエーションは苦手だ。
「もしかして、ふわりちゃんも部活の帰り?」
先輩が聞いてきた。
「あっ、はい、そうです。初めて漫画部に参加して……」
わたしは小さく頷く。
「あたしもいまライバー部の活動が終わったところなんだよねー」
先輩は
「今日、あたしこの後予定ないし、一人なんだよねー。ふわりちゃんは?」
「わたしは予定がある方が珍しくて…‥、しょっちゅう一人です」
わたしは答えた。
でもしょっちゅう一人なんて言わなくてよかったかな。
友達がいない漫画好きの陰キャぼっちだと思われて避けられるかも。
「そうなんだ。それならさ、せっかくだからさ、一緒に帰らない?」
わたしの言ったことを先輩は気にしていないようで、一緒に帰ろうと誘ってきた。
でも弱ったな。
人見知りするわたしは、こういう二人きりの状況になると緊張するし相手と何を話していいのか、どう振る舞えばいいのかわからない。
でも先輩とは連絡先を交換した間だし、声をかけてくれた誘いを断るなんて、わたしにはもっとできないことだった。
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