6ページ目.出会って数分でトモダチ?

 ギャル系の先輩と廊下でぶつかった日の放課後、わたしは入部届をもらって、ドキドキしながら漫画部への入部志望を書いて提出した。


 珍しく能動的に動くわたし。


 高校生になったんだから、わたしだって今までのわたしから少しは変わりたいのだ。


 やっぱり漫画家になりたいって夢を叶えたいから。


 そのためには今のまま引っ込み思案の性格じゃダメだと思う。


 それにしてもあのぶつかった先輩……、誰だろう?


 なんか知ってるような感じがするんだけど……。


 単にわたしの勘違いなのかな。


 似た人を見たことがあって、それを知ってる人だと錯覚しているとか……。


 新しい環境でまだ友達ができていないわたしが、独りエントランスで上履きから靴へ履き替えていると、


「あれーっ!」


 と、わたしの後ろから悲鳴? のような高い声が聞こえてきた。


 臆病なわたしはびっくりしながらも恐る恐る振り向く。


「あー、やっぱり! 今日ぶつかってきた子じゃん!」


 声の主は廊下でわたしとぶつかったあのギャル先輩だった。


「あっ、あの、お疲れさまです……」


 わたしは慌ててお辞儀をする。


「お疲れー。また会えるなんて。ってか、実はあなたに会いたかったんだよねー」


 先輩は嬉しそうに笑いながら言った。


「わたしに……、ですか?」


 わたしなんかに何の用だろう?


「実はさ、今日偶然あなたの絵を見せてもらってさ、あの絵がマジ、アタシに刺さったんだよねー。アタシ、絵も上手くなりたくって……。なのでさ、今度アタシに絵の描き方、教えてくれない?」


 先輩は軽いノリで聞いてきた。


 よく知らない後輩のわたしに絵のレクチャーを頼んでくるなんて……。


 それにわたし、自分ではそんなに絵が上手いとは思わないし、それに人に絵を教えた経験もない。


 もっとふさわしい人がいるはず……。


「そんな、わたしの絵なんてまだまだ未熟だし、それに人に絵を教えたこともないです……」


 わたしは顔の前で小さく手を振る。


「別に良いんだよ。描いてるところ見せてくれるだけでもいいし。ね、お願い!」


 ギャル先輩は手を合わせてわたしに可愛くお願いをしてきた。


 気の弱いわたしは、入ったばかりの高校の先輩に頼まれて、それをはっきりと口に出して断れるほどの強い心を持ち合わせていない。


 なんとか上手く断ることはできないかな……?


「でも教えようにもどこで教えれば……」


 わたしが言うと、


「それはまた考えるよ。とりあえずあなたの連絡先教えてくれない?」


「あ、はい……」


 つい、反射的に返事をしてしまった。


「アタシの連絡先も教えておくから! アタシ、阿舞野あぶのうずめって言うんだ! 登録しといて。よろしくね!」


 そう言って先輩はスマホを取り出した。


「あのわたしは、1年C組の……、稲羽いなばふわりです。よろしくお願いします……」


 わたしも名前と連絡先を教えた。


 まさか、陰キャのわたしが高校に入って初めて連絡先を交換するのが、クラスメイトでも部活動の人でもなく、廊下でぶつかっただけの先輩になるなんて思いもしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る