5ページ目.誰が原稿を拾ったか?

「アイタタタタ……」


 ぶつかった相手の人も尻餅をついて、可愛らしい声で痛がっている。


 廊下に座り込んでいるわたしは、


「あ、あの、すみませんっ!」


 と、さっと正座に座り直して、相手に謝った。


「別に大丈夫! 気をつけてなかったアタシも悪いんだし。 ってか、頭あげて!  学校で土下座はヤバいって!」


 相手の人はあたふたしている。


 確かに他の人がいきなりこの光景を見たら、相手の人がわたしを土下座させてるように見えるかもしれない。


「あっ、そうですね! 気づかなくてすみません!」


 土下座していることに対して、わたしはさらに謝る。


「あの、だからっ、謝らなくていいって!」


 相手の人も慌てふためいていた。


 お互いに廊下に座り込み、二人でパニックになってる姿はヤバいなと、少し冷静さを取り戻したわたしは、ぶつかった相手の人を改めてちゃんと見た。


 制服の胸のリボンを見ると赤色なので三年生みたい。


 パーマを当てたロングの黒髪をポニーテールにした、小顔で整った顔の人。


 わたしと違って綺麗でオシャレなギャル系女子。


 でも、どこかで見たことあるような……。


「あー、ゴメン。持ってた紙、散らばっちゃったね!」


 そう言って先輩は廊下にばら撒かれたわたしの原稿を集め始めた。


「あっ、自分で集めますから! 大丈夫ですっ!」


 わたしも慌てて原稿を拾い集める。


 でも先輩は拾った一枚の原稿をじっと見つめていた。


 あまりじっくり見られると恥ずかしい。


「すっごぉい! 待って、マジ上手いんだけど! これってもしかしてあなたが描いたの!?」


 先輩は目を丸くして驚いていた。


「そうですけど……」


 ますます恥ずかくなったわたしは拾い集めるペースを速める。


「ねぇ、他のも見せてよ!」


「えっ? ええっ!?」


 断ることが苦手なわたしは先輩の頼みに逆らえず、反射的に集めた原稿を渡した。


 先輩は興味津々でわたしの描いた漫画を見ている。


「なにこれ、マジですごくない!? しかもこの絵の子、超かわいいい!」


 先輩はわたしの絵を盛大に褒めてくれた。


「いえ、わたしなんか……、まだまだです」


 顔が火照ってきたわたしは小さくうつむく。


「いいなぁ。実はアタシ、絵が上手くなりたいんだよねー」


 先輩はわたしに原稿を渡してきた。


「えっと、そうなんですか……」


 なんて返事をしていいのか、言葉が思い浮かばないわたし。


「おっと、職員室行かなきゃ。休み時間終わっちゃう! それじゃ、また機会があったらあなたの漫画見せてよ!」


 そう言って先輩は立ち上がると、笑顔で小さく手を振りながらミニスカートを翻して、廊下にしゃがんでいるわたしの前から去っていった。


 拾った漫画の原稿を見られて恥ずかしい。


 でも人見知りなわたしでも、他人に褒められて嬉しい気持ちもある。


 それにしてもあの先輩、何かで見たことあるんだけど……、誰だったっけ?

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