4ページ目.暗鬱教室

 高校生になって本格的に学園生活が始まった。


 部活はやらずに帰宅部でもいいかなと思ったけど、この群光ぐんこう学園にはせっかく漫画部があるんだから、入部して活動してみたい気持ちもある。


 いくら引っ込み思案で人見知りのわたしでも将来、漫画家になりたいって夢は捨てられない。


 その夢を叶えるためにも、行動はしなきゃ。


 放課後に入部届けを出しに行こう。


 行動的に部活動をやろうと決めたのは良いんだけど、まずわたしはクラスに馴染まなくちゃいけない。


 と言っても、人見知りでコミュ障のわたしが自分からフレンドリーに話しかけるなんてできないし。


 不運にもクラスの中心部の座席になったわたしは、周囲のクラスメイトがお互いに交流を進めていくのを、黙って見守るしかなかった。


 とりあえず何かしてぼっちで過ごす休み時間をごまかさなきゃ。


 家から休み時間に続きを描こうと持ってきた漫画の原稿を鞄から取り出す。


 一応、紙で下書きした後にデジタルに描き写すのがわたしのやり方。


 その原稿を机に置いて整理していたら、


「えっ、待って! この絵、マジうまい!」


 と声をかけられた。


 わたしに声をかけたのは、友達としゃべっていた隣の席の海野凛夏うんのりんかさん。


「これ、稲羽いなばさんが描いたの?」


 ショートカットの彼女は興味津々で私に聞いてくる。


「えっ!? あの、えっと、はい……」


 他人から声をかけられたことにどぎまぎしているわたしは、言葉がうまく喉から出てこない。


「なに、なに?」


 海野さんとしゃべっていた友達も、続々とわたしの原稿をのぞいてきた。


 ダメだ。


 こんな感じで人から注目されると、小学生時代のトラウマが蘇ってくる。


「ってか、これプロ並みにすごくない? もしかして将来は漫画家になるつもりとか?」


 図星を突かれたわたしはますます恥ずかしくなってくる。


「あの……、えっと、ちょっとトイレへ!」


 わたしは原稿を持って、慌てて教室から抜け出した。


 あーあ、何やってんだろ。


 せっかくクラスメイトと仲良くなれるチャンスだったのに。


 そんな後悔を頭の中で思いながら、廊下を小走りで一人きりになれるトイレへと向かっていると、


 ドン!


 と、廊下の角で誰かとぶつかった。


「きゃっ!」


 小さな悲鳴を上げ、勢いで尻餅をつくわたし。


 手に持っていた原稿も廊下にばら撒いてしまった。

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